国立長野病院循環器科
これからカテーテルアブレーションを受ける人のために
最終更新日:平成18年6月4日
 
国立長野病院
 
レントゲン・心電図
はじめに
図1
このホームページは、カテーテルアブレーションを受けられるあなたにカテーテルアブレーションを理解して頂き、安心してアブレーションを受けて頂くために企画しました。カテーテルアブレーションとは、カテーテルと呼ばれる細い管を体内の目的の場所に持ってゆき、その先端と背中に貼った対電板との間に高周波を流し、先端が接している心筋組織の温度を60度程度に上昇させ、目的の心筋組織を凝固壊死に陥らせ不整脈の回路を遮断、切断するものです。先端の電極長は4mmですが、これで焼勺できる範囲は、5×5×5mm程度の範囲です。
不整脈治療におけるカテーテルアブレーションの位置付けと歴史について
従来、不整脈治療は、大きく分けて薬剤、手術、ペースメーカーであり、徐脈性不整脈はペースメーカー、頻拍性不整脈は薬剤治療が主体でありましたが、インターベンションとしてのカテーテルアブレーションの進歩発展に伴い、頻拍性不整脈の多くがカテーテルアブレーションで根治されるようになりました。一方、ペースメーカーもDC(直流電気)を備えたICD(植え込み型除細動器)が1997年より保険適応となり、施設認定が必要で当院での使用も可能です。
カテーテルアブレーションの今日の爆発的普及は、1987年にエネルギー源として高周波が利用されたことから始まるといっても過言ではありません。それまでは、エネルギー源としてDC(直流電気)が使用されていた。日本への初めてのアブレーションの導入は1989年であり、筆者の第1回目のカテーテルアブレーションは1991年であった。初期のアブレーションの適応は、WPW症候群のみであったが、1994年には、心房粗動にもその適応を広げ、1998年には、ある種の心房細動にまでその有用性が認められるようになってきた。著者は、現在までに延べ434例、1997年6月に国立病院機構長野病院に移ってから、ちょうど延べ334例のアブレーションを行ってきた。アブレーションの説明の度に、同じ様な説明を行ってきましたが、面倒臭くなり、患者さんへの説明をまとめようと思いたち、創ったのがこのホームページです。
カテーテルアブレーションの適応となる不整脈について
皆さんが、以下の不整脈を持っていればカテーテルアブレーションの適応となります(全ての不整脈がカテーテルアブレーションの適応となる訳ではありません)。1. WPW症候群, 2. 房室結節回帰性頻拍, 3. 心房粗動, 4. 心室頻拍, 5. 心室性期外収縮, 6. 心房頻 拍,7. 心房細動 が現在カテーテルアブレーションで治る不整脈です。安静時12誘導心電図にてデルタ波が見られれば、WPW症候群と診断されますが、その他の不整脈は、所謂発作を生じ、その時の心電図を取らないと診断が出来ません。発作時の心電図では, 1, 2, 3, 6とも発作性上室性頻拍症の形をとり、1か2か3か6かを医者は診断しなければなりません。
当院における発作性上室性頻拍症の形をとった頻拍症の頻度
房室回帰性頻拍 26(0.31)
房室結節回帰性頻拍 42(0.40)
心房粗動 17(0.16)
心房頻拍 18(0.17)
Double tachycardia 3(0.03)
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1. WPW症候群
WPW症候群とは、生まれつきに副伝導路が存在し、正常伝導路とこの副伝導路の2つを通って心室が興奮するため、安静時心電図ではデルタ波と呼ばれる特殊な波形を呈します。頻拍発作は上記の房室回帰性頻拍と偽性心室頻拍(発作性心房細動)の2種類の形をとります。アブレーションに際しては、副伝導路の位置決めが重要となります。
房室回帰性頻拍(Orthodromic) 偽性心室頻拍(発作性心房細動)
房室回帰性頻拍(Orthodromic) 偽性心室頻拍(発作性心房細動)

図2
上図は房室弁輪部で心臓を輪切りにし、上から見たものですが、副伝導路はいずれの部位にも存在しますが、当院での後述成績を見ていただいてもわかるように、左側に多く認めます。アブレーションは、ほぼ100%に近い成功率が得られ、当院でも、以下に記述する如く同様の成績です。
 
2. 房室結節回帰性頻拍
房室結節と呼ばれる安全性の高い部位(江戸への出女入鉄砲を管理した箱根の関所と思って頂けたらよいと思います)が早伝導路と遅伝導路の2つに機能的に分かれ、両者間を興奮が回旋することにより頻拍が成立します。WPW症候群の頻拍発作(房室回帰性頻拍)に比較して、その回路が小さいことに気付かれると思います。この形の頻拍のアブレーションもほぼ100%近くの成功率が得られ、当科でも同様の成績が得られています。但し、非通常型と呼ばれる上記と反対回旋の頻拍が誘発される場合には、心房頻拍と紛らわしい結果を呈する事もあり、注意が必要です。但し、これは医者サイドの問題です。
房室結節回帰性頻拍
房室結節回帰性頻拍
 
3.心房粗動
心房粗動の旋回路は、右房内に限局し、多くは、典型型と呼ばれる右図の矢印の如く右房内を反時計方向に回旋する興奮により頻拍が生じ、アブレーションで根治しますが、そうでない、非典型型もしばしば誘発されます。時計方向、反時計方向回旋型のいずれにせよ、解剖学的狭部を通過していれば、そこをアブレーションすれば、根治します。心房細動を伴った心房粗動の場合には、心房細動を薬剤にて心房粗動に変換させ、心房粗動をアブレーションし、薬剤を併用するコンビネーション治療や心房細動も後述治療法で一緒に治療する方法もありますが、後者の治療法は、未だ発展途上です。
3.心房粗動
心房粗動
 
4.心室頻拍
図の様に、心室に不整脈を起こす回路が出来たり(左)、ある部位から一定に不整脈を起こし続ける(異常自動能と言いますー図右)ことにより心室頻拍が生じます。種々の病気により心室頻拍が生じますが、アブレーションの適応となるのは、主に右室流出路起源心室頻拍、左室流出路起源心室頻拍と左室心尖部起源ベラパミル感受性心室頻拍です。その基礎疾患によっては、アブレーションが難しく、植え込み型除細動器(ICD)に治療方法の第2位の座を譲った感じがあります。治療法の第1位は、勿論、薬物療法です。
心室頻拍
心室頻拍
 
5. 心室性期外収縮
心房細動に次いで、最も多く見られる不整脈で、殆どが右室流出路起源ですが、時に、右室入口部や左室流出路や大動脈弁上部から発生するものがあります。この形のものは、上記異常自動能が殆どです。この部位のアブレーションは、比較的最近始まったもので、冠動脈近傍から通電する場合があり、医者にとって難しい領域です。
 
6. 心房頻拍
4の心室を心房に置き換えて理解して頂ければ、理解しやすいと思います。その機序も心室頻拍に似ています。右房ヒス束近傍や冠静脈洞入口部や高位右房に最早期興奮部位が見られる場合が多い。しかしながら、左心房にその回路や最早期興奮部位が見られることもあり、アブレーション治療が難しいこともあります。特に、左心房起源の場合には、心房中隔穿刺が必要で、医者にとって、その起源、位置決めがむずかしく、成功率も高くありません。
 
7.心房細動
全ての心房細動がアブレーションの適応ではなく、局所性心房細動といって心房細動を生ぜしめる心房性期外収縮の起源が限局されている場合にアブレーションの適応です。その起源として、最も多いのが左右上肺静脈入口部であり、次いで冠静脈入口部、洞結節近傍の順です。この心房性期外収縮の起源は左房が多いので、ブロッケンブロー法といって針で心房中隔を穿刺して右房から左房にカテーテルを入れなければなりません。最近、アブレーションの標的となった領域で、成功率が低く、再発も多いことが特徴です。現在、未だ、完全な医学的結論の出ていない領域です。手技的にも、どこまでアブレーションするか等、完全な結論は得られていません。
心房細動や特殊な形の心房粗動に対しては、房室結節修飾術といって、正常の伝導路に通電して心房心室間の伝導性を低下させたり、房室結節ブロック作成術と言って、正常経路を全く遮断してペースメーカーを植え込むというカテーテルアブレーションが最初に適応とした手技をとることもあります。
心房細動
心房細動
以上、カテーテルアブレーションの適応疾患について述べてきたが、頻拍性不整脈で現在アブレーションの適応とならないものは、心房性期外収縮のみのようです。
 
カテーテルアブレーションの実際について
アブレーション施行当日は、頻拍発作を起こさなければなりませんので、不整脈の薬は前日から止めて頂きます。ワーファリン等の抗凝固薬は続けても構いませんが、当日どのくらい効いているか採血して調べます。抗血小板薬は飲みつづけて構いません。アブレーション直前の食事はとらず、点滴(血管確保)と時間が長くなるので尿の管を挿入します。まず、電極カテーテルと呼ばれる細い管を太ももや肩の下又は首から体内に挿入します。この時、挿入部位は局所痲酔(歯の治療をする時の痛み止めと思って下さい)をしますので痛くありません。管が血管の中に入ると痛くありません。造影剤を用いてカテーテルや心臓内の場所を決めることがありますが、この時は"カー"と熱い感じがします。カテーテルが物理的に心臓を刺激すると"ドキドキ"と感じます。発作が頻回に生ずる方はここまでの経過で発作が誘発されてしまいます。以上が、セッティングで約30分から1時間かかります。次いで、人工的に電気刺激をし、発作を誘発します。これで回路の同定を行います。発作が起こっても心配いりません。血圧が下がったり、耐えられなければ、電気ショックも含めて発作を止めます。この回路の同定までに1時間かかり、以上のプロセスまでが医学的には診断に当たり、所謂検査です。最後に、同定された回路の最も弱い所(解剖学的峡部とも呼ばれます)にアブレーションカテーテルを持って行き高周波通電します。この時、場所によっては、痛いと感じます。耐えられなかったら言って下さい。これが、治療ですが、これに1時間程度かかります。確認のために、再度電気刺激を行い、発作が誘発されなくなった事を確認します。このプロセスにも30分程度かかります。全体で3時間程度でしょうか。カテーテル検査室から病室に帰ったら、水分は飲んで結構です。吐き気がなければ、食事を採っても構いません。使用した管の太さにもよりますが、右太ももの安静時間は4時間程度です。左足は動かしても構いません。4時間経ったら、点滴と尿の管を抜いて、起立、歩行して頂きます。
 
当院での成績及び合併症について
現在までの成績を記します。
     セッション数       患者数       成功率(%/人)   
WPW症候群 82 67 63/67(94%)
房室結節回帰性頻拍 48 46 44/46(96%)
心室頻拍 48 45 33/45(73%)
心室性期外収縮 7 7 7/7(100%)
心房粗動 90 85 68/85(80%)
心房頻拍 25 21 16/21(76%)
心房細動 26 21 10/21(48%)
Double tachycardia 8 4 4/4(100%)
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セッション数というのは、アブレーション施行回数です。例えばWPW症候群を例にとれば82セッション、67例ですから、15人の方が2回以上のアブレーションを受けた事になります。また、Double tachycardiaと言って2つの頻拍症を同時に持っていた方もみられました。心房細動や特殊な形の心房粗動の患者さんのなかには、アブレーションアンドペースといって本来の正常の伝導路に通電して(合併症ではありません)正常の伝導回路を伝わり難くしたり、ペースメーカーを植え込んだ方も含まれています。
合併症として、血管や心筋や弁や正常の電気回路を傷つける(大動脈解離、心嚢液貯留、心タンポナーデ、大動脈弁閉鎖不全、房室ブロック)、血の固まりが全身に飛んでしまう(血栓症)、気胸(肋膜腔に空気が入ってしまう)がありますが、当院では大動脈解離を1例、心嚢液貯留を5例、肺血栓塞栓症を1例に、合併症としての完全房室ブロックを1例、気胸を5例に生じました。心房細動のアブレーションで、心房中隔穿刺で左心系に到達する場合、頭や冠動脈の血栓症を起こすこともあります。透視や手技時間が長い場合には、放射線による皮膚障害を認めることもあり、5例に放射線による皮膚障害と思われる傷害を認めています。 最も問題の発作の再発は、14例に認めています。
 
終わりに当たって
一緒にカテーテルアブレーションを行って頂いた循環器科笠井俊夫、米沢孝典、北林 浩、高橋 済、高見沢格、池田真美子、竹内崇博、平林耕一、井上桐子、小原純子、嘉島雄一郎先生、何回も故障したマイダスを記録して頂いた岩下 功、中島 哲、植松和明、小山、塩練、倉島直樹、高野 技師、手術室及び4階西病棟の看護婦の皆さん、更には早期刺激装置や高周波発生装置を操作して頂いたME松本さん、日本光電、メドトロニック株式会社の皆さんの協力に深謝致します。御意見や御希望のある方は、こちらに御連絡下さい。若しかしたら何時か本ホームページが、日の目を見る時があるかもしれません。
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