国立長野病院循環器科
これからカテーテルアブレーションを受ける人のために
最終更新日:平成16年6月12日
 
国立長野病院
 
 
「先達(せんだつ)はあらまほしきことなり」
吉田兼好の徒然草には仁和寺の法師がしばしば登場する。その第52段に記載された名文句が上記である。現在、私が思った事を徒然なるままに?書いてみた。筆者ではなく、読者があやしゅうこそものぐるほしけれ、の心境になって頂きたくないことを願っている。御批判を頂きたい。

医療事故が増えているとMass mediaが報道している。信州出身者を優遇し、特に優先的に記載する信濃毎日新聞で当病院は、連日シリーズで批判され、紹介患者数は、激減し、検査の説明をしても、断られることも多い毎日である。循環器の仕事をしている小生にとって、医療事故は、将に、私の背中と隣あわせに存在している。運動負荷試験での心筋梗塞を最たるものとする致死性不整脈をも含めた合併症の誘発、中心静脈確保時の気胸を含めた合併症、カテーテル検査そのものに伴う種々の合併症、況や、カテーテルによる治療においてもがな、である。事故は、合併症であり、起きるべきして(確率で)起きるのである。勿論、試行者(医者)の技量、経験年数、性格(私はかなりweightを占めると考えている)によるところは多い。過誤は、読んで字の如く、誤りであり、過誤か否かの判断が難しい。医者やParamedicalの主観的判断(所謂、内部告発)からMass mediaにリークすることから、出来事は注目を浴びるが、過誤の立証は、専門医師の客観的判断(鑑定)によりなされる。

米国には、州別に医師登録局がある。日本での医師登録、管理は厚生省である。日本での医者の経済保証が軽い?との指摘は、米国との比較からなされている。両国とも医師になるのにお金がかかるのは勿論であるが、米国では、所謂専門医をとるまでに、10年以上の年月が必要とされる(日本よりも4年以上長い)。これに要する費用は、莫大なもので、この見返りとして経済保証を厚くしなければ、なり手がなくなる??American dreamの一面かも知れないーではないが、やればやったの、報いが得られる米国制度である。資本主義であり、平等主義ではない。

つい先日、カテーテル治療を行っていて、合併症をつくってしまった。幸いに、後遺症は残さなかったが、後遺症を残したとしても、小生の現在の心境からは、記述する。病院側では、事故報告書を求めている。冠動脈ステント留置に際して、Extravasation,新聞報道でも皆様でもよくご存じの解離の親戚が発生してしまった。この量が多いと心タンポナーデとなり、患者さんの状態が急変し、その状態が解除できなければ、死に至る。所謂、急性心タンポナーデである。治療する内科側医師側にとっては、経験、技術を要し、難しい。しかしながら、その治療を私が出来なかったのである。動揺していたのかもしれないが、若い心臓外科医師が行ってくれた。彼は、手を変えれば出来るんですよと簡単に言った。感謝、感謝、彼には、足を向けて寝られない。当該患者さんは、残っている不整脈の治療をやってくれと言うが、又、命をかけて治療を行うにもかかわらずと、私は考えてしまう。1998 年、私が、旧東信病院で働いていた際にもカテーテル検査にて合併症として心室細動を起こしてしまい、後遺症を残してしまった。今振り返ってみると、当時私を叱咤激励してくれたParamedicalがいた。しかし、そのParamedicalの一人も医療事故(恐らく過誤)で死んでしまった。つくづく、説明、今流行のInformed consentは必要だと思う。恐らく、合併症をよく説明してーそれでも、熟練した人が行っても起きると思うがー不整脈の治療を行って、具体的には、カテーテルアブレーションを行って、患者さんが、完全な体となり、借金を返せる、ちょっと無理をしても大丈夫な体になって退院して頂くように治療して行こうと思っている。

今年の4月から、循環器科にも卒業4年目のResidentに近い医師が赴任して来た。つい先日、彼女と、不整脈のカテーテル検査を一緒に行った。医学領域は、遺伝子を中心とした生物学が今花盛りである。そこで、何を今更、生理学、電気生理学なのだ!が、私にとっては、金華玉上なのである。金よりも女よりも地球上の何よりもすばらしいものなのである。ピカソの絵は何億円かもしれないが、私にとっては、ただの紙切れである。そんな彼女の先達(せんだつ)としてあらまほしき存在であるように電気生理学を教えようと思っている。

私のホームページが出来ました。その中に、エッセイとして上田医師会報に記載した文章をも含めて私が綴った駄文を載せています。不快でなければ、下記URLを開いて見て下さい。http://www.janis.or.jp/users/ysasaki/index.html(2004年6月上田医師会誌)

 

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