邂逅3シンとヒロイン父
誰もが自分を居てはならない存在のように扱う。
誰もが自分を、見下し、嘲り、蔑み、嫉み、侮り、貶め、賤しめる。
悪意に満ちた日々を、少年はなんとか凌いでいた。
それでも、時折、まだ幼い少年の心では耐え切れない傷に襲われる。
唯一の救いである母親を苦しめたくなくて、少年は訪れる人がないはずの場所で、独り、膝を抱えて声を殺して涙を流した。
「どうした? 坊主」
能天気で陽気そうな男の声がしたが、少年は膝を抱えて無視した。
「悪いことして、親に怒られたか?」
「……」
母親に怒られることなど、絶対にしない。するわけがない。
「友達とケンカでもしたか?」
「……」
ケンカなんて、するような友達がいない。
「じゃあ、イジメられたか?」
「……」
イジメなんて言葉で片付くほど生易しいものではない。
「あっ。もしかしてお前、ウルとかいうやつなのか?」
なぜそんな言い方をするのだろう、と顔をあげて声の主を見、納得する。男はヨソモノなのだ。しかも、この国にきてまだ日が浅いようだった。
「そうなのか。…いまいち、納得できないな。なぜ、ウルはだめなんだ? どう見ても、同じ人間なんだがな…」
少年は、自分を否定しない他人を初めて見た気がした。
「俺の居たヤマトより、こんなに豊かな国なのに…坊主の着てる服だって、俺の娘よりずっと上等な服なのに、なんで人の心はこんなに荒れてるんだ?」
男は、ヤマトに家族を残して出稼ぎにきているようだった。
「そりゃあ、ヤマトの金持ち連中も、さんざん貧乏人をバカにしやがるが、この国の連中がやってるほど、ひどくねえぞ」
男が人好きのする笑顔で少年を見た。
少年は、悪意のない笑顔を、母親以外で初めて向けられた気がして、ちょっと驚く。
「坊主、そんだけの身なりだ。親はいるんだよな?」
「………かあさんだけ…」
「そっか………じゃあ、坊主がおふくろさんを守っているんだな」
えらいな、と男は少年の頭を撫でた。
「……俺の娘と似たくらいか? 娘よりでかそうだが、そんなに違わないな? …あいつも今頃、幼いなりに、がんばって身重の妻を支えてるんだろな…」
「?」
「坊主、連中に何言われたか知らないが、言われたとおりになるなよ? 連中がお前を人間じゃないと言ったからって、本当に自分を人間以下に貶めるな。連中がお前を
無価値だと言ったからって、本当に無価値な奴になっちゃダメだ。俺もさっき、貧乏人は性根が卑しいとか連中に言われたが、俺は金と物を大切にしているだけだ。あい
つらより、よっぽど尊い心根だ」
変な男だと思った。
自分と同じくらいの娘がいるという。
「お、泣きやんだな? 声を殺して泣く子どもなんか、初めて見たぞ。大切な宝がこんな泣き方するなんて、お前のおふくろさん、知らないだろ?」
「宝?」
「子宝って言ってな、親にしてみれば子供は何物にも勝る宝だ」
この男の子供は幸せだ、と思った。
「じゃあな、坊主。…俺はこれから、新しい仕事探しだ……やれやれ」
男は、もう一度少年の頭を撫でて、去っていった。
「……宝…」
少年は、輝く海を見つめた。
ここは、海が一望できる。
人の滅多に訪れない場所で、少年は、考えていた。
ここ数日の出来事を。相変わらず投げつけられる悪意の数々を。
考えて、悪意を分類して昇華させる。
あれは嫉妬…嫉妬されるくらい自分は上手くできた。
あれは差別…そんなものに頼らないとあいつは何も言えないらしい。
あれは嘲笑…何の根拠もない成績も悪い阿呆な奴の勝手な優越感だから、とるに足らない。
自分を壊さず守るためには、どうしても必要な思考。
誰もが自分を否定する世界では、自らが自己を肯定するしかない。
「また坊主か? もしかして、ここはお前の泣き場所だったか?」
聞き覚えのある陽気な声に、少年は声の主を見返す。
「……泣いていない」
「なんだ、あんまり淋しそうだったから、また泣いてるかと思ったぞ」
確か、以前、泣いているところを目撃されてしまった男だった。
ヤマトに妻子を残し、帝国へ出稼ぎに来ている、と言ってたはずだ。
男は、当たり前のように少年の横に座り込んだ。
「…また、仕事クビになっちまった。だいたい、店の前で困っている人と話しただけで、怒られてクビになるって、どういうことだ? おかしいだろ、この国」
「……おじさんが話した人、他の奴ら無視してただろ」
「ああ…まあ、そうだな…」
「ウルだからだよ。自分の働いている店の前でウルと話したおじさんが、馬鹿だ」
「はぁ? 何だそれは。話したら呪いでも受けるっていうのか?」
「…………」
呪い…確かに、呪いのようなものだと思う。
「そもそも、どうやって見分けろって言うんだ。頭が三つあるとか、手が四本あるとか、そういう判りやすい特徴があるならまだしも、全部同じ人間にしか見えないって
のに」
少年が吹き出した。
「それじゃ、本当に化けものだ」
相変わらず、変な大人だった。
帝国の人間とウルの区別もできずに仕事を解雇されるような馬鹿な大人がいるとは、想像もしなかった。
「おっ。今日は笑ったな」
男が、少年の頭をポンポンと軽く撫でて笑う。
なにか、太陽の温かさのようなものを分けてもらったような気がして、少年が立ち上がった。
「おじさん、俺と話してたら、次の仕事も見つからなくなるよ」
「いや、前回、坊主を見たすぐ後に仕事が決まったんだ。だから、ゲン担ぎだな」
「…おじさん、馬鹿だ」
「生意気なガキだな」
気を悪くした様子もなく笑う男の声は、明るい。
「そろそろ帰るよ。…おじさんみたいな人は、ウルが多いところで働くといいよ」
少年は、男に背を向け、母親の待つ家へ向かった。
青空は眩しかったが、少年の心は嵐のようだった。
自分が絶対に変えようのないことを優劣の理由にして理不尽に責め立てる言葉を差別という。
いくら責められても、決して変えられないことを優劣として指摘されている以上、どうしようもない。
「…また、仕事クビになったの?」
見覚えのある後姿を見つけた少年は、座って海を眺めている男に声をかけた。
「おお、坊主じゃねえか。よく俺がクビになったこと知ってるな」
「おじさんは、仕事なくなると、ここへ来るから」
なぜなら、少年の方は、毎日のようにこの場所へ来ているのだから。
「今日もいい天気だな……そろそろ、産まれたはずなんだよな、俺の子供。今度は男だったか、女だったか…やっぱり、一度帰るかな…」
少年は、最初に出会った時に、この男が『子供は宝だ』と言っていたことを思い出す。
「でもなぁ…ヤマトまでの船賃と、またここへ来る船賃…ダメだ、ぜんぜん足りねえ…」
いつもは陽気で能天気な男が、寝転がって空を見上げた。
ため息をついているあたりから弱気さが伺えて、今日はずいぶん様子が違う。
「なあ、教えてくれよ、坊主。ウルって、何なんだ?」
遠い国からやってきて、差別に馴染めないという男は、またウル絡みで仕事を失ったのかもしれなかった。
「…誇り高き民、らしいよ」
今の少年には、自分を排除するという点で、帝国人もウルも同じようなものだ。
今日、少年の心を大きく傷つけたのは、父親の同胞ではなくて、母親の同胞。
「…おじさんに、見分け方のコツ、教えてやるよ」
少年が、寝転がっている男を、間近で覗き込んだ。
「こっちがウルの目。で、こっちが帝国人の目。色が違うだろ?」
男が、唖然として少年を凝視した。
「お…まえ………。…実は、かなりの美少年だったんだな」
男から離れた少年が眉をしかめる。
「俺の話、聞いてた?」
「ああ、目の色ね。…なるほどな。そんなくだらないことで、区別してんのか」
男が笑いだす。
「あと、ウルは美形が多いって言われてる」
「坊主も美少年だもんな。いやあ、驚いた。今まで、坊主の顔、間近でじっくり見たことなかったからなぁ。どこの美人かと思ったぞ。坊主、女にモテるだろ?」
「…やっぱり、おじさん馬鹿だね。何も判ってない」
「いや? 坊主より判ったと思うぞ」
どこか自信満々の男が、身体を起こして立ち上がる。
「坊主が居るってことは、この国の連中も、まだまだ捨てたもんじゃないってことだ」
少年の頭に手を乗せて、ぽんぽん、と軽く叩きながら明るく笑う。
「下向きたい気持ちもわかるけどな。どうせなら、上向いてた方がいいぞ。結局、下向いてるヤツは、勝てねーからな。…きっと坊主は強くなるんだろうな」
いつもの、陽気で変な大人だった。
「いろいろ言う奴もいるんだろうが、オレは、今、坊主の存在に救われた。本当、ここに居てくれて良かったと思う」
おまけのようにペチペチと、軽く少年の頬まで触れて、遠くに妻子がいるという男は、空へ向かって伸びをした。
「さあーて。気分もよくなったことだし、はりきって、次の職探しするかな。坊主に会った日は、就職率100%だからな」
男が去っていき、残った少年もふと空を見上げる。
「……絶対に…強くなる…」
少年は、眩しい日の光に手を翳した。
少年は、久しぶりにその男の姿を見た。
座り込んで海を眺めている男が、ひどく真面目に、深刻そうにしていて、なんとなく声をかけそびれる。
少年は、黙って男から1人分離れた位置にそっと座り込んで海を眺めた。
人の気配に、ふと隣に視線を流した男が、笑みを浮かべた。
「あいのこの坊主か。久しぶりだな」
「…あいのこ?」
初めて聞く単語に、少年が訝しげな顔で男を見返す。
「帝国じゃどんな言い方するか知らねえが、オレの馴染んだヤマト風に言えば、おまえは「あいのこ」だ。愛の子、合いの子…二つの血を同等に引き継いだ子供だな」
ヤマトでは、帝国がウルに対して行っているような差別はない、と以前男が言っていたことを思い出す。
忌わしい混血、と呼ばれるよりもずっと温かな表現に、少年は心が軽くなる。
確かに自分は、二つの血のどちらかに優劣をつけることもなく、同等なものとして受け継いだのだろう。
一見しただけで、その同等さを表す少年の姿。
血の優劣を認めずに産まれた自分の存在を知って、この男は救われたと、良かったと、言ってくれた。
「…おじさん、また失業したの?」
「いや。なんとか続けてる…」
男の言葉には、元気がない。
「…元気ないね」
「ん? まあ…な…」
男が溜息をついた。
明るく能天気に笑っていた時とは、印象が随分と違って見える。
「…おじさん、病気?」
「病気かあ…病気じゃねえんだが……」
「…大丈夫なの?」
「大丈夫…じゃねえよなぁ。やべえよなぁ。…何考えてんだろうなぁ、オレは。ヤマトに仕送りしなきゃ、あいつら飢え死にしちまうっていうのに…」
「…ヤマトの家族が大変なの?」
「そんなことないぞ。こないだやっと届いた手紙で、男の子産まれたってあってな。みんな元気でなんとかやってるって書いてあったからな…そうだよな。オレには息子
ができたばっかりなんだよな……」
ヤマトにいる家族や子供の話をしているのに、男は表情も暗くなっていく。
「………」
黙りこんでしまった少年に気づいた男が、苦笑した。
「悪いな、坊主まで困らせるつもりは無かったんだが。…オレのことより、坊主はどうした? 何かいいことあったんじゃないのか?」
少年が、目を丸くした。
「わかるの?」
「なんとなく、だな。いつもの坊主は、もっと、こう、余裕ねえだろ?」
「余裕?」
「ははは。まあ、気にするな。何があった?」
「友達…できたんだ…」
男が、ちょっと驚いた顔をする。
「まだ、よくわからないけど…。村長の息子だし……でも、普通に話してくれるんだ」
嬉しそうな少年の頭を、男の手が撫でた。
「良かったなぁ。そうか…。ちゃんと坊主を認めてくれる奴、いたのか…」
そうか、そうか、と繰り返しながら、男が少年の頭を撫で続ける。
「ちょっと…おじさん、もうやめてよっ」
「何照れてる。良かったじゃねーか」
撫でていたはずが、ガシガシと頭をかきむしるように力が強くなり、少年を抱え込んで笑いだす。
そんな扱いをされるのが初めてな少年は、どうしたらいいのか判らずに戸惑ってしまう。
「あー。わりぃ、わりぃ」
少年が困惑していることに気づいた男が、手を離した。
「坊主と会うと、自分の悩みが、本当に馬鹿馬鹿しくなってくるぞ。まあ、仕方ねえ。オレは、オレが思うようにしかできねえからな…」
戸惑った表情のまま、ぐしゃぐしゃになってしまった髪を、指で梳いて直す少年を見ながら、男は笑う。
「………」
男が、はっとして立ち上がり、辺りを見渡した。
「しまった。休憩時間、とっくに終わってやがる…坊主、またなっ」
あたふたと男が走って去っていく。
少年は、ちょっとだけ笑いながら、あわてている男の後姿を見送った。
少年は、いつもの場所に先客が二人いることを知って、足を止めた。
「この国の、君たちに対する扱いは、ひどすぎる。とても、君を置いていけない…一緒にこの国を出ないか?」
美しいウルの女性に語りかけているのは、顔見知りの男だった。
「そんな…。あなたには、奥様とお子さんたちが…」
「ヤマトの家族は……ヤマトには、この国のようなひどい差別はない。それに、隣近所、みんなで助け合って暮らしている。俺の親父もいる。妻も、子供たちも、君より
もずっと安心だ。たとえ、何かあって俺が帰らなくとも…ヤマトにいる家族なら、なんとかなる」
「………」
俯いた女性は、黙りこんでいる。
「今、オレが守らなきゃいけないのは、君と産まれる子供だろう? 例え、オレは、結果的に今の家族を捨てることになったとしても、君を守りたい。君と一緒に生きた
い」
不幸にも、聞こえてきた会話の内容を、聡い少年は全て理解できてしまった。
何かが、何処かで崩れていく感覚に、少年は立ち尽くす。
理解することと、納得することは違う。
理不尽な差別をされ、貶められた時とは全く違う感情で、少年は憤激した。
「ふざけるな」
思わず発してしまった呪うような声に、男がはっとして振り返る。
「坊主……」
「あんた『子供は何物にも勝る宝』なんじゃなかったのかっ。息子が産まれたけど帰る金がないって、言ってたじゃないか」
「……………」
二人の大人が、驚いて少年を見つめていた。
「なのに、会いにも行かないで、捨てるのかよ。あんたは、その女のために……。よりによって、あんたが……自分を待っている家族を捨てるのかっ」
激昂している少年の目から、涙が止まらずに流れ続ける。
帝国に出稼ぎにきていた男が、いつのまにか帝国で出会った女と懇ろになるなんて話は、よくありすぎて、少年でも知っている。
ただ、なんとなく。
陽気で能天気でウルに対する差別のできない、家族想いの男には、そんなことはありえないような気がしていた。
ヤマトにいるという、この男の子供は、自分と違って幸せだと、自分もそうありたかったと、勝手に思ってしまっていた。
それなのに。
今、聞いた男の言葉は。
自分を待つ家族を捨てて、新しい女を選ぶという。
待っている妻と子供を見捨てて。
新しい女と、この国を出ていくのだと。
「あなた…もしかして、エマの……」
戸惑った声に、少年はウルの女を睨みつけた。
「おまえみたいな汚いやつが、母さんの名前を呼ぶなっ」
少年には、陽気で明るく家族想いの男を、目の前の女が誘惑し籠絡したのだとしか思えなかった。
「おい、坊主…」
何か言い始めた男の声を聞くのも嫌で、少年は踵を返して走る。
自分でも何がこんなに哀しいのか、なぜこれほどに心が痛むのか、どうして涙が止まらないのか、判らなかった。
ただ、あの男が自分に与えてくれた言葉、何もかもが、全て虚言であったと突き付けられたようで、大きな失望が自分の中に広がっていた。
本当に、どうしようもなくて。
少年は家に帰ると、自分のベッドに潜り込んで、母親にできるだけ気付かれぬように声を殺した。
他人は信じるに値しない。
それどころか血のつながった肉親であっても、人は容易に裏切る。
少年は、心に強く深く、教訓として刻み込んだ。
自分ノ心ハ、誰ニモ見セテハイケナイ。
危ナイ時ニハ、硬ク扉ヲ閉ザシテ心ヲ守レ。
他人ニ傷ツケラレルヨリ先ニ、他人ヲ傷ツケル言葉ノ刃ヲ備エテ守レ。
少年の何処かで何かが崩壊してから、一週間。
海を眺めに来た少年の心は、少し変わっていた。
「おお、やっと会えたな、坊主」
にこやかに話しかけてきた男を、少年は冷たい視線で一瞥した。
「…あれから毎日来ていたんだが、坊主に会えなくて心配していたんだ。オレは、どうしても、坊主には話しておきたいことがあってな…」
「アンタが言い訳したい相手は、家族だろ。俺じゃない。俺が聞く義理はない」
冷たい声で背中を向け、少年は男ではなく海を眺めた。
「いや、オレはお前に話したい。言い訳と詫びの手紙なら、親父にも妻にも書いて、ヤマトに送った。言い訳じゃない。言っておきたいんだ」
「………」
少年は背中を向けたまま、答えない。
それでも。
ヤマトから出稼ぎに来たはずが、全てを捨ててウルの女とこの国を出ていく男は、言葉を続けた。
「今でも、子供は宝だと思ってる。かけがえのない、大切な大切な宝だ。その気持ちに嘘はない…」
「捨てるくせに」
少年の声は冷ややかだ。
「大切なものが、おふくろさんたった一つしかない坊主には、わからねー話か…まして、恋もしてねぇガキじゃな…」
男に馬鹿にされたような気がして、少年は振り返って男を睨みつけた。
その少年を、男は突然、抱き締める。
「何するっ 離せっ」
少年の渾身の抵抗は、大人である男に通用しない。
「悪いな。オレ、お前に何度も言われたように馬鹿だから、いつの間にか、自分じゃ守りきれねぇ宝を増やしちまう。今度産まれてくる子供は、ウルと出稼ぎ外国人のあ
いのこだ。坊主よりもっと酷い扱いを受けることになる。それが判っていて、見捨てられるほどオレは薄情になれねえ。かといって、正直、この国で子供を…宝を守りき
る自信もねえんだ。いろいろ教えてくれた坊主には、感謝してるんだぜ」
男の言葉に、少年が目を見開いた。
「まさか…俺に会ったからか?」
この国で、混血で苦しむ少年を知ったから、遠い国の妻子を捨てて、新しい命を守ろうとした…?
突然、少年の頭を、男の拳骨が叩いた。
「つっ」
「いいか? 選んだのはオレだ。ヤマトを捨てることも、この国を逃げ出すことも」
お前のせいじゃない、オレのせいだ、と。
男の腕は、温かい。
「坊主にとっちゃ、いろいろ災難だったろうが、オレは会えて良かった」
「俺は、あんたに会わない方が良かった」
「ああ……、坊主にとっては、そうだよな」
ようやく少年は、男の抱擁から解放された。
男は、自分で殴った少年の頭を、すまなそうに軽く撫でる。
「…だからお前は、オレのことなんか忘れちまえ。こんな、産まれた息子の顔も見ずに別の女と逃げ出すような、ひどい大人のことは、覚えている価値もねえからな」
少年は、男の手を払いのけて、再び背を向けた。
「ふん。俺は、他の奴に言われたとおりなんて、しない」
それは、最初に会った時、男が少年に言った言葉
『坊主、言われたとおりになるなよ?』
「もう二度と、ここで泣かない」
それは、次に出会ったとき、男が少年に聞いた言葉
『ここはお前の泣き場所だったか?』
「いちいち、下なんて見ない」
それも、男が少年に言った言葉
『どうせなら、上向いてた方がいいぞ。結局、下向いてるヤツは、勝てねーからな』
「俺は自分の思う様にする」
そして、男が少年に語った言葉
『オレは、オレが思うようにしかできねえからな』
「俺は、自分で守れなくなるくらいなら、大切なものなんて作らない」
少年の導きだした答え。
「そうか…」
男は苦笑を浮かべて、少年を眺めた。
やがて、男は歩き、遠ざかる。
「オレにとっちゃ、坊主も宝の一つだったぞ」
そんな呟きが、かすかに風に乗って届いたような気がした。
少年は、ずっと黙って海を眺めていた。
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邂逅4海賊王とヒロイン祖父へ
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