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EMリレーSS 第2期 第6話
「嵐の中の乙女達」
 
 結局…。
 イリアことアイリスと若葉の算盤決戦は最後まで決着が付かず、タイムアップでドロー、同着一位ということになった。
「くうぅっ! 競技種目だけじゃなくて、問題にまで手を回すべきだったわ!」
 何しろ珍問奇問はしまいには論述問題にまで及んだのである。アイリスと若葉がそれをどうやって算盤で回答したのかは、永遠の謎だが…。
 
「いやあ、すばらしい戦いでしたねえ」
「すばらしい、って…」
「貴様、あれがなにをやっていたか、理解できたのか?」
 審査員席で惜しみなく賞賛の拍手を送るロクサーヌの両側で、目を点にする悠也とカイル。
「ずっとこんなのばっかりなのか?」
「楽しみですねえ」
「そうか?」
 
「それじゃあ、続いての種目はっ!」
 
「楽器演奏です!」
「それはいいんだけど、これ、何? 太鼓?」
「おやおや、珍しい」
 吟遊詩人のロクサーヌはさすがに知っているようだったが、同時に悠也ものけぞっている。
「あ、あれはっ!」
「知っているのか悠也!」
 一人見覚えのないカイルだけが、悠也に問いただした。
「以前聞いたことがある。『ゴビーヤントラ』とかいうインドの楽器だ。革を叩くんじゃなくて、弾いて鳴らすんだ」
「よくご存じで」
 感心したように微笑むロクサーヌ。当然、乙女達もそんな楽器のことなど知る由もなかった。
「どうしろって言うのよ」
 
「ねこ100匹をてなづけてもらいます!」
 にゃーにゃーにゃー。
「かわいいですねえ」
「そうか?」
「あれだけいると、猫でも迫力があるものだな…」
「なんか、ネコじゃないのまで混ざってるみたいだぞ」
「うっ・わーーい! ネコさんたちといっしょなの・だーーっ!」
「…どうしろって言うのよ」
 途方に暮れる乙女達に、恐怖の宣告を下すキャラット。
「なお、失敗するとねこの群にふみつぶされまーすっ」
「え?」
 どどどどどど…
 ふにゃにゃにゃにゃにゃっ!
「うぅう〜わあぁぁーーーっ!!」
 
「モノマネをしてもらいまーす」
 
「グラスをひっくり返さずにテーブルクロスを引き抜いてもらいまーす!」
 
「逆立ちでこのコースを一周してもらいまーすっ!!」
 
「どーしろってゆーのよーっ!!」
 
「…このコンテスト、隠し芸大会の間違いじゃないのか?」
「マルチタレントでなければ、今を生きていけませんからねえ」
「生きていくのに必要なことを競っているようには見えんのだがなあ」
 
「確かに種目を変えるように細工はしたけど、こんなのになるなんて聞いてないわよーーっ!?」
 あさっての方向を見ながら、ただ泣くしかないリラだった。
 
「・・・・・・」
 所変わって、ここは博物館。
 メイヤーと楊雲は、深刻な面もちでただ向き合っていた。
「どうしましょう」
「…勇者がドラゴンを倒した方法も…私たちの一族がそれを封印した方法も…。
知らないわけでは、ないのですけれども…」
「それについては、私も知ってはいるのです」
「・・・・・・」
 しばらく二人は、また黙って見つめあう。
「…ですが…」
「…イヤですよねえ…」
 次に漏れたのは、ため息だった。
 
「おい、悠也」
「え?」
「机を揺らすな」
「俺は何もしてないぞ」
 悠也は言うが、確かに机は小刻みにふるえている。
「ビンボー揺すりとは行儀の悪いヤツめ」
「俺じゃないって」
「まあ、机くらい揺れない方がおかしいんじゃありませんか?」
 ロクサーヌがステージを指差した。
 ずどおぉぉぉん!
 何でもこの競技は、「地雷原を生きたまま突破してもらいまーすっっ!!!」なのだそうだ。
「…確かに」
「…生きる力を競えばいいというものでもないだろう…」
 
 はっ、と楊雲が顔を上げる。
「どうしました?」
 怪訝そうな顔でのぞき込むメイヤー。そんなメイヤーに、いつにも増して血の気の引いたかんばせで、楊雲は語った。
「…思いの外、時間がなかったようです」
「…と、言いますと…まさか」
「…封印が、解けかかっています」
 言った楊雲も聞いたメイヤーも、そのまま言葉を失う。二人はしばし逡巡していたが、やがて二人同時に顔を上げ、決心したようにうなづきあった。
「…イヤだ、とか言っている場合ではないようですね」
「…行かないと…いけないでしょうね…」
 しかし、決心の一瞬後、再び二人は言葉を失う。そして、また二人同時に言った。
「…どうやって…?」
 忘れていた。
 二人とも、文無しだったのだ。
 
「わたし…こうなる運命なのね…」
 ウェンディはうずくまって膝を抱えている。大袈裟なことを言ってはいるが、何のことはない、爆発の衝撃に驚いてひっくり返り、すりむいただけのことだ。
「ちょっと、血が出てるじゃない…! いくらなんでもやりすぎよ、これくらいで済んだからよかったようなものの…」
 ここまでくるとさすがにリラの怒りも、自分の思うとおりにことが運ばなかったため、というような個人的なものではなくなっていた。
「責任者出てきなさいよッ!」
 
「…そういえば、この大会の主催者って…誰なんでしょうねえ」
「知らないのか、ロクサーヌ?」
「こんなことになりでもしなければ、普通気にもしないでしょう?」
「確かに、な…。だが、あの盗賊女のセリフじゃないが、こいつはやりすぎだぞ」
 うめくように言いながら、カイルは手元に置かれていた『審査資料』なる物を手に取った。プログラムだの出場者のデータだのが書かれているシロモノだ。ひっくり返してみると、カイルの期待通り、そこには主催者の名前が…なぜか手書きで…書かれていた。そしてそれを見たカイルの目が、大きく見開かれた。
「なっ…なんだとお!?」
「何だ? やばい奴等の主催だったのか?」
 のぞき込んだ悠也はしかし、その名を見てあからさまに呆れ顔になる。
「ツェンバルン観光協会? 何だよ、怪しくも何ともないじゃないか」
「違う! よく見ろ!」
「ツェンバルン観光協会じゃないか」
「これは『ツェソバノレン観光協会』と書いてあるのだっ!」
 ぐぐっ、と拳を握りしめ力説するカイル。
「つぇ…つぇそばのれんかんこうきょうかい?」
 目を点にする悠也。
「で…何なんだよ、そいつらは?」
「魔竜パーペチュアル・ドラゴンを復活させようともくろんでいる悪の組織だ」
「なんだ。お前と一緒じゃないか」
「違う! 断じて一緒などではない!」
 ばん、とテーブルを叩き怒鳴るカイル。
「奴等はただ単にドラゴンによる破壊と混乱を願っているだけだ! 大魔王様の力をお借りして世界を統べ、新たなる秩序を構築しようとするオレとは根本的に違う!」
「周りのメーワクになるんだから、似たようなもんだと思うけどなあ…」
「違うと言っているだろう!」
「あー、わかったわかった。で、なんでそれが観光協会なんだよ?」
「そのドラゴンはこのツェンバルンに封印されている、ってことまでは大体わかっている。必然的にそいつらの活動拠点はこの街になる。観光協会を名乗れば比較的怪しまれにくい、ということだろう」
「で、その方々がどうしてミスコンなど?」
 ロクサーヌが、それでも落ちついたままカイルに尋ねる。
「わからん。だが、一つ言えるのは、こんな茶番はとっとと止めさせるに越したことはないということだ!」
 カイルが自分の剣をつかみ立ち上がった、その瞬間。
「ぅおッ!?」
 突如、地面が大きく揺れ始めた。
「きゃ!?」
 カイル達も、会場にいた乙女達も、皆立っていられずその場に倒れる。
「な…何だってんだっ!?」
 悠也達の見ている前で、会場周辺の石畳が次々と砕けていく。そしてその狭間から、あたかも間欠泉のように、次々と土の柱が吹き出してゆく。
 その数は全部で八本。
「…ちい…。ここまで、進んでいたのか…!」
 カイルがうめくその目前で、八つの土柱はもうもうたる土煙をあげ、皆の視界を妨げてゆく。そしてそれが収まったとき…。
「ド…ドラゴン!?」
 八つのドラゴンの首が、会場を取り囲んでいた。
「おのれっ!」
 ドラゴンの首が姿をあらわすのと同時に地面の揺れは収まっていた。それを好機と見たカイルは剣を抜き、首の一つに斬りかかっていった。が…
 ぺし。
「ぐえっ」
 ドラゴンはただうるさそうに少し身じろぎをしただけだった。それだけでカイルはいともたやすく、弾き飛ばされ地面に激突する。
「カイルクン!?」
 血相を変えたカレンが彼に駆け寄ろうとするが、首の一つがその行く手を阻む。
「う…」
 八つの首は乙女達を取り囲み、不躾に彼女たちを見回す。まるで品定めでもするかのように。
「くっ…。ロクサーヌ!」
「はいはい、なんでしょう?」
「逃げるな」
「は? な、なんのことでしょう」
 悠也が話しかけたとき、ロクサーヌはどこからか出した何が入っているかもわからないふろしき包みを担ぎ、夜逃げよろしく会場に背を向けているところだった。悠也の視線を受け、あわててそれを背後に隠す。
「とにかく、あのドラゴン、封印されてたってことは封印する方法があるんだろ!
 知らないのか!?」
「さあ…。いかに博学の私といえど、すべてを知っているわけではありませんからねえ」
「う…く」
 地面にたたきつけられたカイルがよろよろと立ち上がる。
「カイル! 生きてたのか、さすがにしぶといな」
「オマエ、オレのことをゴキブリか何かだと思っていないか?」
「そういえば全身黒いし…いや、そんなことはないぞ。
 そんなことより! お前はあいつをどうにかする方法を知らないのか!?」
 魔物の類には意外と詳しいカイルのこと、案外何か知っているかもと期待したのだが、
「知っていれば最初から斬りかかったりせずに、なんとかしたのでは?」
 ロクサーヌがもっともなことを言う。
「お前らだってどうしようもないのだろうがっ!
 ちっ、こんなときあの遺跡キ○ガイがいれば、何か知っているのだろうが…」
 吐き捨てるようにカイルが言うと、
「キチ○イとは心外ですね」
 誰かが、その声に答えた。
「なっ!?」
 見上げると、そこには、今までこの場にいなかったメイヤーが、呆れたような怒ったような表情でカイルを見おろしていた。
「うおぉっ!? どっからわいたッ!?」
「人を温泉みたいに言わないで下さい。れっきとした古代の神秘です」
「古代の神秘って…れっきとしてるのか?」
「もちろんです!」
 力強く、迷いもなく、言い切るメイヤー。
 
 時はわずか遡る。
 事態のヤバさを悟ったメイヤーと楊雲が、しかしすぐに打てる手もなく途方に暮れていると、発掘品の鑑定をしていた博物館の係員が二人のもとにやってきた。
「何かわかったのですか?」
 メイヤーの言葉にこたえ、説明を始める係員。その言葉を聞くにつれ、二人の表情はみるみる明るくなっていった。
「これを使えば!」
「…そうですね…。問題なく、入場できます…」
「ああ、さすがは古代の神秘! やはり困難に立ち向かうには先人の知恵ですね! そもそも、これが作られた時代にはですね…」
「…今は、それよりも…」
 いつもは付き合いよくメイヤーの解説を二時間でも三時間でも聞く楊雲であったが、さすがに今はそうも言っていられない。遮ると、メイヤーの方でも事態を思い出し、希有なことに解説を中断した。
「それでは、行きましょうか」
「…はい…」
 
「で、それが転移魔法の込められたマジックアイテムだったというわけなのです! ああ、すばらしいですねっ!
 ね、れっきとしていたでしょう」
「今はそんなことより!」
 放っておいたらまた解説モードに突入しそうなメイヤーを押し止め、カイルが怒鳴る。
「奴等をどうにかする方法を知っているのか!」
「ええもちろん。古文書の解読も済んでいますし、直接ドラゴンを封じる力は楊雲さんにあります。あとは…」
 メイヤーは周囲を見回す。一緒に旅をしている仲間達以外は皆逃げてしまったようだ。
「私たちが揃っていれば、大丈夫です」
 そして彼女は微笑むと、傍らの楊雲を見た。小さくうなづき返す楊雲。
「それでは!
 みなさん、いいですか! これからそのドラゴンを再び封印します!
 私の指示に従って下さい!」
 
                            〈つづく〉
 
−−−中書き−−−
 
 どーも、もーらですー。
 いやあ、まいったなあ。こんどは8つ首ドラゴンですか。前回の魔王に続いて、彼らもゲーム外でとんでもないのに遭遇してますねえ。
 私も悪ノリがすぎて、ツェンバルンの街をちょっと破壊しちゃいました。ここまでやって、ゲーム外の出来事でおさまるのかなあ。
 おや、読み返してみるとメイヤーと楊雲以外の女の子たちのセリフがあんまりないなあ。今回は、二人をどうやって表舞台に出すか、ってことだけ考えてたからかなあ。
 あと、ドラゴン封印の方法についてはちゃんと考えたのですが、そこまで書くと話が完結しちゃうんで…あとは次の方にお任せします。おかげで、すごく中途半端なところで切れたけど…。
 ちょっと今回は、大急ぎのやっつけ仕事だったんで質悪し。ごめんね。
 じゃ、あとはよろしくー。もーらでしたー。
 

 
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