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EMリレー小説  第2期  第5話
「八の乙女集う刻」
 
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
 
 
「お集まりのみなさん、大変長らくおまたせしましたっ!
 ただ今より、第4回ミス・メロディランド・コンテストを開催しまーす!」
 
 てくてくてく、と舞台のソデから歩み出て来たのは、何とキャラットである。
 うさうさな手に握り締めた、でっかいマイクが中々に愛らしい。
 
「な、何でキャラットが司会なんだ?」
「まぁ、あのバイト親父さんがやるよりマシじゃありませんか」
「む……? 待てお前ら。これを見てみろ」
 
 驚く悠也に、あっさり事実を指摘するロクサーヌ、そんな2人に注意を促すカイル。何だかんだと言って、しっかり審査員が板についている辺り、3人とも大した適応力と言うべきだろう。
 
 さて、カイルが示したのは、第4回ミス・メロディランド・コンテストの応募資格を記したパンフレットである。
 先ほど、フィリーに
 
「何で妖精は出られないのよ!」
 
 と文句をつけられた受付のおねーさんが、おもむろに示したのと同じブツであった。それには、
 
『バニーガール、キャットレディ、妖精、天使、悪魔、及びこれに類いする人外なコスプレは禁止』
 
 などとまあ、しっかり書かれているのだ。
 そう言えば、さっき控え室の方から、
 
「うにゃあ〜、メロディ、ねこじゃないですぅ〜!」
「何でよ! もう、ティーファ、怒ったんだから!」
「モス、モスモスモス〜」
 
 とか言う声が聞こえてきたよーな気がする。あれもフィリーやキャラットと同じく、着替え(?)の段階で出られないと判明した女の子たちの抗議の声だったのだろうか?
 
「何にせよ、これでガキんちょの勝つ確率がいっそう低くなったというものだ。悠也、貴様も喜ばしかろう?」
「いや、何だかなぁ……」
「陰謀の匂いがしますよねえ?」
 
 ぼやいてから、楽屋の方に視線を転じる悠也。
 その先に、ちょっと得意げな表情のリラが居た。
 目と目が合う。
 にんまりと、ウィンクを投げてくる彼女。かくっ、とコケる悠也。
 
「リ、リラの奴……」
「ん? 盗賊女がどうかしたのか?」
「い、いいやぁ、何でもないよ、ははは……」
 
 どうやら、これは彼女の“裏工作”の一環であるらしい。
 コンテストの始まる前から、どっと疲れた気分になる悠也。
 やっぱり、リーダーとは辛いものなのだ。
 
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
 
 しかし。
 リラの“裏工作”はこれに留まらなかった。
 5000ゴールドを前に本気になった彼女の手腕は、まさに神業と呼ぶにふさわしい出来栄えだったのである。
 
「な、なんじゃこりゃあ……?」
「ふぅむ、何故だか知った顔ばかりですねえ。約1名、知らない方も居られるようですが」
「何々? 当コンテストでは運も実力のうちという趣旨の元、1次審査をパスした方の中から抽選で8名さまのみが本選への切符を手にすることが可能となっております……だと?」
 
 再び、顔を見合わせる3人。
 その8名をアイウエオ順に並べると、次のようになる。
 
1:アルザ・ロウ
2:イリア・ルーミス
3:ウェンディ・ミゼリア
4:カレン・レカキス
5:紅 若葉
6:ティナ・ハーヴェル
7:リラ・マイム
8:レミット・マリエーナ
 
(リ、リラの奴〜!)
 
 コンテストの案内パンフに顔を埋め、心の中で唸る悠也。
 抽選の時、リラがくじに何らかのイカサマを仕掛けたのは確実であった。
 でなければ、いくら何でもこうまで見事にメンツが揃うはずも無い。
 
「ふふっ。何だか、いつもとあまり雰囲気が変わりませんね」
「ま、この方がやり易いでしょ。ね、若葉!」
「はい。皆さん、がんばりましょうね」
 
 舞台袖の方で、微笑みながら言うティナ。
 意味ありげに答えるリラと、応じる若葉。
 
「大食い大会やったら、間違いなく勝つ自信あるんやけどなぁ」
「わ、私も編物なら……」
「何よ何よー。言っとくけど、勝つのはあたしなんだから!
 アルザ! キャラットの分まで、しっかり援護お願いよ!」
 
 のんきなアルザに、やや気圧されているウェンディ。
 きゃんきゃんと喚く姫さまだが、果たしてどこまで食い下がることができるだろうか?
 
 そんな10代の少女たちのやり取りをあえて無視して、カレンは一人見知らぬ女に視線を向けていた。結い上げた栗色の髪から、
 数房が耳とうなじに流れる彼女の名前を、イリアという。
 
(……この女、侮れないわね?)
(カレンさん……まさか、もうバレてしまったのでしょうか?)
 
 賢明なる諸氏はお気づきのことと思うが、この女性こそ、我らがアイリスさんの変装した姿なのだ。アイシャドウや着け睫毛など、細い目をカバーするメイクを施した彼女は、常に行動を共にしているレミットや、人物眼にはそれなりに自信のあるカレンでさえ気づくことが出来ないほど、完全に別人と化している。
 
「それでは、1回戦の開始でーす!
 幸運の女神に選ばれた8人の皆さん、晴れの舞台にようこそっ」
 
 台本を彼女なりに元気よく読み上げるキャラット。その声と共に、8人の乙女たちが舞台袖から壇上へと歩いて来る。皆、地味……というか、ほとんど普段のままの服装なのだが、そこはそれ元が良いだけに華やかさが損なわれることはない。
 
 そして、1回戦の種目は……。
 
「そ、算盤だとッ?」
「ほほー、いきなり渋いところを突いてきますねえ」
「何々? 昨今の女性は美しいだけでなく明晰な頭脳も兼ね備えていなければなりません。1回戦の種目は、計算能力と閃き、そして手先の器用さまでばっちり分かっちゃう算盤を用意しました……」
 
 実のところ。
 それはリラが裏から手を回して種目を書き換えた結果だった。
 恐らく、元の種目は手芸か編物だったと思われる。
 
(ゴメンねウェンディ。でも、しょっぱなティナに有利な種目ってわけにはいかないのよ。まさかアンタまで出るとは思ってなかったしー)
 
 心の中で、仲間にこっそり謝るリラ。
 実のところ、彼女も結構、算盤は得意なのである。伊達にギルド登録のシーフをやっていたワケではない。
 
「では、始めまーす。
 えー、願いましてーは…。12633たす263679なり、つきましては……」
「ちょ、ちょっと待ってぇ! 何よこれ不公平ーッ!」
「893641ひく7652631の」
「な、何やコレ……ウチ、数字はあかん。あかんのや……」
「7892かけるの3214、わることの6621……」
「あ、あれっ? ええっと……」
 
 しょっぱなの足し算で姫さまが。
 引き算でアルザが。
 掛け算と割り算でウェンディが脆くも脱落した。
 
「ルート54かける国道128号ひく県道486号は……」
「わ、私……もう、ダメです……」
「球速152kmかけるバットの時速119kmを代入して……」
「バット? 時速? ……って、ああ!」
 
 打ち続く難問奇問に、どうにか四則演算を切り抜けたティナとカレンが音を上げてしまう。
 なおも粘り強く戦うのは、元シーフの意地を見せて珠を弾き続けるリラ。慣れた手つきで算盤に指を滑らせるイリア。そして黙々とパソコンのキーボードを扱うような趣で算盤を打ち込む若葉の3人であった。
 
「CPUのクロック周波数550Mhzにサウンドカードのコアチップ周波数128KBが……じゃなかった、グラフィックカードのリフレッシュシートが……」
「げげッ! こらキャラット! 間違った問題読み上げないでよー、ええっと……あ、あれ、あれれ?」
 
 意図せぬキャラットのフェイント攻撃に、リラも脱落してしまった。
 見ればレミットが小さく拳を握ってガッツポーズを取っている。
 やっぱし、リラには勝たせたくないのだろう。かくて舞台上では、黙々と珍問変問を解き続ける2人の姿が残っていた。
 
 宮廷での予算経理…主に、姫さま絡みの…で鍛え上げた手腕を持つアイリスさんの変装した姿である、イリア・ルーミスと、厳格な純和風の家庭で育てられ、読み書き算盤が骨髄まで染み込んだ和魂のカタマリこと紅 若葉の両名である。
 
「す、凄すぎるぞ若葉……」
「いやいや、あのイリアという女性も中々の知性ぶりですね」
「うぅむ、こういうのはあの遺跡フェチが得意そうなんだがな」
 
 感嘆する悠也とロクサーヌに対して、カイルはやや悔しそうである。
 確かに、この二人に互する計算能力の持ち主はと言えば、稀代の遺跡マニ……もとい、考古学美少女ことメイヤー・ステイシアしか居ないだろう。
 
 
 ……で、そのメイヤーはと言えば。
 
「こ、これはッ!!」
「…どうか、しましたか…?」
「見てください楊雲さん!」
 
 きらりーん! と白スモークのかかった眼鏡を光らせる彼女に、やんわり尋ねる楊雲。どこかしら落ち着かない雰囲気であるのは、やはりメロディランドの方が気になるからだろうか。
 ひょこ、とメイヤーの肩越しに、彼女が魅入っているであろう古代の遺物を覗き込む楊雲。と、いきなり口元に手を当てた。感情をあまり表に出さない楊雲にしてみれば、これはかなりの驚きを表す。
 
「…まさか、これは…」
「そのまさかです楊雲さん。このままでは、レミットさんや悠也さんたちの危険が危ない目にッ!」
 
 メイヤーが示したのは、一枚の石板であった。
 古代文字で、とある呪文の儀式について記されている。メイヤーはともかく、楊雲もこれを理解できたのは、ひとえに石板に記された儀式呪文が“影の民”に深く関わるものであったからに他ならない。
 
「古代の伝説に曰く、かつて勇者が倒した八ッ首の魔竜……。
 それを封印したのは、“影の民”であると。
 そして、封印を解く為には!」
「…封印の地で、8つの首それぞれに、乙女の血と汗と涙を捧げること…。
 これで、嵐の予感の理由が説明できます……」
 
 そう、石版には、八ッ首の魔竜パーペチュアル・ドラゴンの封印された土地の名も刻まれていた。
 
 ツェンバルン。
 
 すなわち、この街である……!
 
 
 
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
 
中書き・5
 
大変、長らくお待たせしました。
ここに至るまで、ほぼ2ヶ月(笑)。コンテストの内容やら展開やらをあれこれ考えては没にし、考えては没にし……という繰り返しでした。今から思えば、かなりドツボに嵌っていたんですね、やっぱり。
 
というのも。
ミスコンというイベントは、その過程はとても楽しいものの「結論を出す」のに非常に苦痛を伴う作業……なんですよね。これに気づくまでえらく時間がかかってしまって……。
 
「どうやったら、全員の納得できる結果に持っていける(種目になる)か」を考えても、所詮は無駄だった、という訳です。
 
だって、個人の中では各ヒロインの順位付けができても、これがみんなとなるとそんなの不可能ですもの(笑)。曰く、ティナとウェンディとアイリスさん、誰が一番美人か……を客観的に決める指標は何も無いし、あってはいけないのだなぁ、と思うわけですよー。
 
これを悟った瞬間、ようやっと前に進むことができました。
やっぱ、連休で頭がクリアーになったのが大きいのかな?(笑)
って、ほとんど8月末の時点から書き足してないんだけど^^;
 
で。
 
件の「パーペチュアル・ドラゴン」ですが。これはもうヤマタノオロチにひっかけて、ついでに本日発売の「パーペチュアル・コレクション」にかけつつ、8とパーをかけているという訳わかんないくらいにくだらない代物です(笑)。
 
ちなみに、パーペチュアルというのは「永久の」って意味ですね、辞書によると。
つーことは、パーペチュアル・コレクションって永久保存版って意味なのかな?
 
というわけで、お待たせしましたッ!(CV:渡辺菜生子)
 

 
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