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EMリレーSS 第二期 第四話  「嵐への序曲」
 
 
「……おい」
「なんでしょう?」
 ポロロン、といつもの音をさせてそいつは言った。
「何でお前がここにいるんだ?」
「わたしだって旅をしているのですよ。偶然出会っても不思議ではないでしょう」
「そりゃ、どこからともなく現れるのにはもう慣れたけどな」
 半ばあきらめたようなため期をつく悠也。
「まあ、偶然かどうかは知らないけど、ここで出会ったことは納得しよう。しかし!」
 びしっ、と目の前にいる人物に指を突きつけた。
「何でお前が審査員長なんだ、ロクサーヌっっ!!!!」
 そう。なぜか、悠也の目の前の“審査員長席”なるものに座っているのは、ここしばらく姿を見せていなかったロクサーヌだった。
「まあまあ、いいじゃないですか」
「……確かに、ロクサーヌが審査員長やってようと俺には関係ないけどな……関係、無かったんだけどな……」
 向ける当てのない怒りに拳を振るわせる。そして、その拳を目の前の机にたたきつけた。
「なんで俺まで審査員やらにゃならんのだぁ!!」
 
 
 話は、小一時間ほど前にさかのぼる。
 
「リラ、若葉、フィリー、どこだーー!?」
「あ、あの、悠也さん、少し、休ませて……」
 悠也は、ウェンディを引っ張って、ミスコン会場である中央ガーデン前広場にやってきていた。
 ちなみに、未だにあの正体不明の着ぐるみは着たままである。こんなものを着たまま、ウェンディが息切れするくらいのスピードで走ってきた悠也の体力には驚嘆すべきものがあるような気がする。
「くっ、手遅れにならなきゃいいが」
 ミスコンは今日の目玉イベントなのか、このあたりはひときわ人が多い。昨日の市場ほどではないが、かなりの人出である。この中からあの三人を探し出すのはかなり難しいだろう。
「あの」
 必死できょろきょろとあたりを見回している悠也に、ウェンディが声をかけた。
「こんな所で探すより、参加者受付まで行った方がいいんじゃないですか……?」
「そう言われりゃそうだな。よし、受付に行こう!」
 別にウェンディは悠也のしているような心配をしているわけではない。ただ単に、早くこの場から離れたかっただけだ。……周囲の物珍しげな視線が痛かった。
 そんなウェンディの胸中などまるで気づかずに、悠也は再びウェンディの手を引っ張ってバタバタと走り去っていったのだった。
 
 参加者受付。
 もう締め切りまで時間が無いのか、受付の周囲にはそれほど人はいなかった。
「リラっ!」
「あれ、悠也? あんた、バイトはどうしたのよ!?」
 受付の近くでたむろっていたリラ達を見つけて、慌てて駆け寄っていく。
 そこには、リラとフィリー、それにアルザとキャラットがいた。
「どうしたのよそんな格好のまま、こんな所で。……まさか、サボリ?」
「いやっ、そうじゃなくてだな、俺は……」
「財布スられたのはあんたなのよ? ちゃんと稼がなかったらどうなってるかわかってるんでしょうね?」
「だから、その……」
「問答無用。とっとと戻れ」
 所詮口ではリラにはかなうわけがない。どういう意図でここに来たのかを問いただすことも、レミットとやり合って無用な被害を出さないように釘をさすこともできないまま、早速ピンチに陥っている悠也だった。未だに例の着ぐるみを着ているあたり、凄く間抜けである。
 
「あの、他の方たちは?」
「レミットとティナさんは出場するんで控え室だよ」
「あんたのとこの若葉もそうや」
 ピンチに陥っている悠也はとりあえず放っておいて、ウェンディはそばにいるアルザとキャラットに話しかけていた。結構薄情かも。
「あなた達は出ないんですか?」
「ウチ、別にミスコンには興味あらへんし」
「ティナさんが出ればたぶん大丈夫だよ。レミットは……どうかな?」
 本人の目の前で言ったら結構しゃれにならないことを言うキャラットである。
「若葉さんは?」
「リラにたきつけられて出場させられてるわよ」
 ウェンディの頭の上にぽん、と着地してフィリーが言った。
「まったく、ここも妖精じゃ出場資格ないなんて、種族差別よ!」
 たいそう憤慨している様子のフィリー。人間からしてみれば当たり前のような気もするが、フィリーにしてみれば我慢がならないのだろう。もっとも、出場ができたとしても、フィリーがミスコンに出るかどうかはまた別の話だが。
「でも……どうしてミスコンに?」
 何かせっぱ詰まった様子だったレミットを思い出し、なぜミスコンに出場することになったのかを聞いてみる。
「レミットがな、無駄遣いしたんや」
「は?」
「だからミスコンに出くちゃならんのや」
「はあ?」
 あまりに飛躍しすぎるアルザの説明に、クエスチョンマークが飛び交うウェンディだった。
「それじゃわかんないよ、アルザ」
 人にわかりやすく説明する、などということに徹底的に向いていないアルザに代わって、キャラットが口を開いた。
「レミットがね、お小遣いをみんな使っちゃって。それで、ミスコンの優勝賞金をもらおうってことなんだよ」
「優勝賞金?」
「うん。確か、5000ゴールドくらいだったと思うけど」
 
「頼むから、騒ぎだけは起こさないでくれよ」
「あんたねぇ、あたしを何だと思ってるのよ?」
「しかし、今までの経験上だな……」
「今までは今まで、今は今よ。大丈夫、騒ぎなんて起こさないから。ちゃーんと若葉を優勝させるための裏工作も……」
「それがいかんと言ってるんだー!」
「ちぇっ」
 そのころ、悠也とリラの会話は結構不毛だった。悠也がリラに体よくあしらわれているだけ、という気がしないでもないが。
 その時、ぽん、と悠也の着ている着ぐるみの肩(?)が背後からたたかれる。
「ちょっと待ってくれ、今取り込み中……」
「ムフッ」
「!!!!!!」
 背後に怪しい気配を感じて振り返った裕也の目の前にいたのは、ポージングをしている筋肉親父、通称バイト親父だった。バイトを取り仕切っているこの親父にサボリがばれたら……と、戦慄する悠也である。
「ムフッ、サボリはいけませんよ、ムフッ」
「いえっ、すぐ持ち場に戻りますからっ」
「ムフッ」
 ムフッ、と言うたびにポーズを変えて悠也に迫ってくるバイト親父。
「ムフッ、まあいいでしょう。ところで、その着ぐるみの代わりにやってもらいたいことがあるのですが、ムフッ」
 いつの間にか、悠也は受付の机の前でバイト親父に追いつめられていた。
 正体不明の着ぐるみを着た男に迫るポージングしている筋肉親父。はっきり言って怪しい。おまけに、周りの一般客の視線が痛すぎる。
 助けを求めてあたりを見回すが、リラはすでに悠也のそばを離れてウェンディ達と一緒に他人のふりをしていた。
「うぐぅ……みんな冷たい……」
「ムフッ、どうですか?」
 みんなの薄情さに涙する悠也に、バイト親父がさらに迫ってくる。
 悠也に耐える術はなかった。
「わかった、わかりました! わかったから迫ってこないでぇっ!!」
 
「……で、俺は何をやればいいわけ?」
 ようやくバイト親父から離れ、例の着ぐるみも脱ぐことができて一息ついた悠也はバイト親父に尋ねる。
「ムフッ、ミスコンの審査員です」
「し、審査員!?」
「そうです、ムフッ。ぜひあなたにお願いしたいと審査員長が言うもので」
 我が意をを得たり、とばかりにバイト親父はうなずく。
 呆然とする悠也をよそに、今まで他人のふりをしていた五人がそれを聞きつけてこちらにやってきた。
「あの……悠也さんが審査員をするんですか?」
「ムフッ、そうです」
「ってことは……結構見物かも」
「それなら、ボクも出てみようかなぁ」
「ウチ、ミスコンに興味出てきたで」
「これは、おもしろくなってきたわね。みんなで出てみよっか?」
「……はっ!?」
 呆然としている間に、なにやら危険な方向に話が向かっていることに気がついた悠也だったが、時すでに遅し。
「みんな、本気か!?」
「あったりまえじゃん」
 ぱちん、とウィンクをするリラ。
「わたし、がんばりますから」
 何をどうやってがんばるのか知らないが妙に気合いの入ったウェンディ。
「レミットにも教えなくちゃね!」
 頼むからよけいなことはしないでくれ、キャラット。
「面白うなってきたでぇ」
 心底楽しみだというようにアルザ。
「きーっ! 何で妖精は出られないのよぉ!!」
 受付のおねーさんにくってかかっているフィリー。
(どうしよう……みんなめちゃくちゃやる気だ……)
 わいわいと騒ぎながら受付を済ませ、控え室へと消えていくみんなを呆然と見送りながら、嵐の予感を感じる悠也だった。
 
 
 そんなわけで。
 悠也はこの審査員席にいたりするのである。
「まあ、いいじゃないですか。特等席で美しい女性達を鑑賞できますよ」
「そういう問題じゃあないだろ……」
 文句を言うのにも疲れたのか、かなりへこんでいる。
 ぐったりとしたままあたりを見回すと、ロクサーヌを挟んで反対側にある空席が目に付いた。
「なあ、ロクサーヌ」
「何です?」
「そっち側の席の審査員、まだ来ないのか?」
「ええ……もうすぐ確保できると思うのですが」
「……確保?」
 ロクサーヌのせりふに、ものすごくイヤな予感がしてたまらない悠也。当然ながら、イヤな予感というものは絶対に当たるのである。
 
 
 同じ頃。
「ふっふっふ……ここにあのガキんちょがいるのか」
 “ミスコンテスト参加者控え室”なるプレートのついたドアの前で、背後にアイリスさんを引き連れたカイルは悦に入っていた。
 今回は、朝から悪役らしくないことばかりだった。
 金を稼ごうと思えば地道に働いてしまおうとするし、これではいけないと誘拐(カイルの主観では)をしてみるが身代金は取れそうにない。おまけに、その人質に入場料を出してもらってこんなメロディランドにまで来てしまった。ついでに言うなら、人質が女性なので女連れ。周りからはどんな風に見えたことやら。
(だが、ついに!)
 ぐっ、と拳を握りしめて、気合いを入れる。
 脳裏には“完璧な悪役”を演じている自分の姿が浮かんでいた。
 
「はぁーっはっはっは! このオレ様に跪くがいい、ガキんちょ!」
「ふん、誰があんたなんかに!」
「ん〜? オレ様にそのような口をきいていいのか? これを見ろぉ!」
「ひ、姫さまっ!!」
「ああっ、アイリス! ひ、卑怯よっ!」
「くっくっく、卑怯? 最高の誉め言葉だ。ほれ、オレ様に従わなければ、この女がどうなるか……」
「姫さま、私にはかまわないで逃げてください!」
「アイリスをおいて逃げるなんてできるわけ無いじゃないのぉっ、バカっ!」
「さあ、オレ様に屈しろ、従え、負けを認めろぉ!!」
「くっ、くやしぃ〜!!」
「はっはっはぁ! 勝利だ! 完全な悪の勝利だぁ!!」
 
 うーん、小悪党。
 そんな天の声になど耳を貸さず、カイルはドアのノブに手をかけた。
(行くぞ!)
 そして、一気にドアを開け放つ!
「はぁーっはっは……あれ?」
 予定通り高笑いを上げるが、それは目の前に広がっていた思わぬ光景に中断してしまった。
 ミスコンテストなのだから、当然、普段着ではなくきらびやかな服装をするものである(一部の出場者は予算の関係上普段着のまま出場せざるを得ないが)。その着替えがどこで行われるかというと、当然控え室である。
 ……つまり。
「キャァーーーーーーッ!!!!」
「うぉぉっ!?」
 思わず棒立ちになっていたカイルに、雨霰と物が投げつけられる。
 化粧品の瓶から手鏡、椅子に至るまで……
「うぎゃぁーーーっ!!」
 ……合掌。
 
「ムフッ、覗きは犯罪ですよ、ムフッ」
 椅子を顔面に喰らい、意識のないカイルを担ぎ上げるバイト親父。
「どうもすいません、ご迷惑をおかけしまして」
 その前で、ぺこぺこと頭を下げているアイリス。
「ムフッ、まあいいでしょう。多少の混乱はありましたが、あなたがおさめてくれたようですし、ムフッ」
「よかった」
 ほっとしたように息をつく。
「あ、そうだ……まだ、出場者の募集はしていますか?」
「ムフッ、もうすぐ締め切りですよ。あなたも出場なさいますか、ムフッ」
「ええ」
 にっこりとほほえむアイリス。
(姫さまがすぐにはお気づきになられないように、名前を変えた方がよろしいでしょうか)
 前回に引き続き、結構策士なアイリスだった。
「ムフッ、ではあちらへどうぞ」
 アイリスに受付の方を指してみせると、未だ意識のないカイルを担ぎ上げたままバイト親父は建物から外へ出ていった。
 当然のことながら……行き先は、審査員席である。
 
 
 同じ頃。
「ですから、全く同じ文様のついた土器が、全く別の場所の違う地層から出土したいうことは……」
 博物館では、メイヤーがイってしまっていた。
 その眼鏡は光を全反射し、その下の目を隠してしまっている。口調は熱を帯び、まさに、誰にも止められない雰囲気だ。
 そんなメイヤーの解説を聞き流しながら、楊雲はふう、とため息をついた。
 嵐に巻き込まれないことと、この先出番がほとんどないであろうことと、どっちがより不幸なのだろうか、などと考えながら……
 
                           つづく
 
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中がき
 
 書き終わって、読み直して思ったこと。
 これ、ホントに僕が書いたのか?
 なんだか、いつも(っていうほど書いてる訳じゃないけど)と、雰囲気がまるっきり違うような気がしてならないです。
 うーん、こんなことを感じるなんてのは、未熟な証拠なんだろうなぁ……
 
 今回も、あんまり進展しませんでした。ただ、すぐに起こるであろう嵐を大きくしただけ?(笑)
 メイヤーと楊雲は、ちょっとかわいそうですが合流させる方法が思いつきませんでした。この先……何とかできるんでしょうかねぇ。
 それでは、次の人、続きをお願いします。
 

 
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