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SS第二期第三話「バカイルの野望全国版(?)」
 
「…ここは…?」
「フ…どうやらお目覚めのようだな」
 あたりを見回すアイリスに、冷ややかな声をかけるカイル。が、そんな彼に対する周囲の反応はそれ以上に冷たかった。
「何言ってるの、カイルクン…?」
「別にアイリスさん、気を失ってたわけでも寝てたわけでもありませんよ?」
「…またいつものように浸っていただけでしょう…」
 仲間(?)三人の言葉に一瞬絶句するカイル。が、これくらいでメゲていては大魔王復活・世界征服などというバカげた野望に邁進することなどできはしない。
「ええいうるさい! 昔から誰かを誘拐してきたらこう言うものと相場が決まっているのだ!」
「ゆうかいぃ!?」
 カイルの言葉に、仲間のはずのカレンが素っ頓狂な声を上げた。
「何? アイリスさんに用があるって、そんなことだったの!?」
 
 時は少しだけ遡る。
「…しょうがないわね…。やっぱり、こういうときは地道に働くに限るわよね」
 ため息とともに、パーティの稼ぎ頭カレンは言った。
「ふむ…。やむをえまいな…」
 言いかけたカイル、はっと顔を上げる。
「…待て…」
「どうしたの?」
「よく考えてみたら、なぜ悪人のこのオレが、『地道に働く』などという堅実なマネをせねばならんのだ」
「だっていつもそうしてたじゃない」
「あれは一時の気の迷いだ!」
「…随分、気の迷いが多いのですね…」
「ええい、うるさいッ!」
 楊雲の言葉を遮り、カイルはテーブルを叩いて立ち上がった。
「オレ様に考えがある! 誰か行って、ガキんちょのお守りを連れてこい!」
「お守り…って、アイリスさんのこと?」
「うむ」
「自分で行けばいいじゃないですか」
「オレが行ったら警戒されるだろうが」
「…貴方が一番、警戒されないと思うのですが」
 カイルが自分で言うよりもはるかに人畜無害であることは、彼を知る誰もがわかっていることだ。
 だから、どうせ「考え」とやらも大したことはないと思い、
「はいはい。何の用があるか知らないけど、アイリスさん呼んでくればいいのね」
 再びため息をつきながら、カレンは立ち上がる。
 
 …つまり、アイリスは街でカレンに声をかけられ、そのまま素直についてきただけなのだ。だから、失神などもちろんのこと、さるぐつわも噛まされていなければ目隠しもされていないし、手だって縛られていない。もっともそんなことをすれば、カイルは全国八千万(推定)のアイリスファンに一瞬で滅殺されてしまうだろうが。
 てなわけで、アイリスはまるっきり自由の身だったため、「誘拐」などという単語は全然場にそぐわなかった。ましてや、考え出したのはあの人畜無害なはずのカイルである。
「ガキんちょはかなりこいつに懐いてるようだからな。こいつの身柄を確保すればヤツは思いのままだ。金を出させることなど造作もない」
「セコいですね」
「うっ」
 メイヤーに一蹴され、思わずたじろぐカイル。
「あの…。姫様は、さほどの額をお持ちではないと思いますよ。
 たぶん、もう全部使いきってしまわれた頃だと…」
 さすがはアイリス、レミットの財布事情くらい隠そうとしてもお見通しのようだ。が、追い打ちをかけられたカイルはますますたじろいだ。
「ならば、貴様から直接っ…!」
「それじゃタダの強盗よ、カイルクン…」
「ううっ…」
 さすがに、「タダの強盗」に成り下がることはカイルのプライドが許さないのだろう。
 頭を抱えてしまったカイルを見て、またもため息を付くカレン。
「…こんなものでしょう…」
 楊雲はあいかわらず冷静だった。
 
「で、どうしてこうなるわけ?」
 町中をふらふらしながら、カレンはぼやく。
「カイルさんのワガママにも困ったものですね」
 メイヤーもそれに同調するが、
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 ふと、二人の視線が自分に向けられていることに気づいた。
「どうかしました?」
(カイルクンも、あんたにだけは言われたくないと思うわよ…)
 その言葉を、辛うじてカレンは飲み込んだ。
 カイルは、「とにかくせっかく誘拐したんだから、ガキんちょをみつけて何か要求を聞かせよう」と言い出し、レミット捜索を三人に命じたのだ。古代の神秘に想いを馳せているメイヤーほどではないにせよ、悪事を働いている(と、自分では思っている)カイルもやはり手を付けられないので、とりあえず三人は言われるまま宿を出てきたというわけだ。とはいえ真面目に探す気はないので、実際はただ散歩しているに等しいのだが。
「カイルクンとアイリスさん、二人っきりにしといて大丈夫かな?」
 カイルは、「人質を一人にしておくわけにはいかんだろう。それに、悪の親玉というものは最後まで出張らないものなのだ」とかなんとか言い、アイリスとともに宿に残っているのだ。
「その心配はないでしょう…。彼にそんな度胸はありません」
 相変わらず容赦ない楊雲。
「そんなことより、どうします? こうしてただ時間をつぶしていてもしかたありませんし」
「そうねえ…」
 カレンが腕組みをして考え始めたとき。
 かさっ。
 何かが彼女の足をかすめた。見ると、丸めた紙屑だ。カレンは一瞥のみでそれを無視したが、楊雲がかがみ込み、それを拾い上げる。
「何、楊雲…」
「これは、レミットさんが捨てたものです…」
「え?」
「…彼女の霊の残滓が感じられます」
「何なんでしょう?」
 楊雲がその紙屑を広げるのを横からのぞき込むメイヤー。カレンもそれに倣う。
「ミスコンテスト? まさか、レミットちゃんこれでお小遣い稼ぎするつもり?」
「それなら、会場に行ってみればレミットさんをみつけられるのでは?
 私たちも出場すれば、探す手間もなく控え室とかで見つけられますよ」
「…ですが…場所が…」
「あ」
 楊雲の指摘に、絶句する残り二人。会場はメロディランドの中央ガーデン前広場。出場料はタダだが、入場料が必要だ。
「うーん…」
「皆さん、お金持ってますか?」
 メイヤーが空っぽになった自分の財布を示しながら尋ねる。カレンは首を振ったが、
「…仕方ありませんね…」
 楊雲は懐に手を入れると、隠しからいくばくかの小銭を取り出した。
「…いざというときのための備えですが…一人分しかありませんよ…」
「誰が行くか、ね…」
 カレンは言い、まず出資者である楊雲を見た。
「…賑やかなところは好きではありません…」
 続いてメイヤーを。
「…私がですかぁ…?」
 どうも、イヤそうだ。
「仕方ないわね…」
 カレンはまたもため息をついた。
 ため息を一つつく度に、幸せが一つ逃げていくという。
 …彼女の幸せは、まだ残っているのだろうか。
 
「・・・・・・」
 テーブルを挟んでただアイリスと向かい合っていると、すぐに間がもたなくなった。そもそも女性と気の利いた会話の一つもできるなら、カレンたちに頼まなくても魔族の仲間もいただろう。カイルは落ちつかない様子でそわそわし出す。
「どうしました?」
「な…何でもない」
 ぷい、とそっぽを向きながらカイルが言うと、アイリスはくすっ、と小さく笑い、席を立つ。
「貴様…」
「逃げたりしませんわ。カイルさんに楯突く自信なんて、私にはありませんもの」
 この部屋は二階で、扉には鍵がかけてある。確かにアイリスがカイルの隙をつき、窓から飛び降りたりドアを破ったりできるとは思えなかった。あまりおたつくのも無様と思ったのか、カイルは再び椅子にかけなおす。
「どうぞ」
 そんなカイルに、アイリスは部屋備え付けのポットから注いだ茶のカップを差し出した。あまり人に優しくされ慣れていないカイルは思わず面食らう。
「あ…な…。
 お、オレさまを懐柔しようとしても無駄なことだぞ」
「宿のお部屋の備え付けのお茶で懐柔できるなんて誰も思いませんよ」
 アイリスにくすくす笑われ、ますますばつが悪くなったカイルはまたもそっぽを向く。
 はっきり言ってしまえば、一種ステレオタイプ的な発想を持っているカイルは、アイリスにとってかなり扱いやすい相手だった。子供独特の突拍子もない発想を突発的に発揮するレミットに比べればものの数ではない。
「あの」
「なんだっ」
 調子を狂わされたカイルは必要以上に無愛想に答える。
「私をさらってきて、姫さまに何をさせるおつもりなんですか?」
「・・・・・・」
「…お金…ですか?」
「どうでもいいだろう、そんなことはっ!」
「そうですね、すいません」
 再び調子を崩され、カイルはさらにイライラし出す。アイリスはそれを見てまたもくすっ、と笑った。
(さて…。たぶん、姫さまのことですから、無駄遣いを私に知られないように、とかお思いでしょうから…。あまり早く戻るのもおかわいそうですし。とはいえ、ここでずっとこうしてカイルさんとティータイムを楽しんでいるわけにも参りませんし。頃を見てここからは出ないと…)
 そっぽを向いたカイルと視線を合わせるように、彼の顔をのぞき込むアイリス。「なんだ」
「あの、カイルさん?」
 口を開いたとき、アイリスの頭の中には既に、一つの計画が出来上がっていた。
(これを機に、姫さまの無駄遣いには少しお灸を据えておきましょう)
「今、私、姫さまの行きそうなところ思いついたんですけど…」
「何っ!? それは本当か!?」
「ええ。でも、どうなさいます?
 私を置いて行く訳にも行かないでしょうし、まさか私を行かせる訳にもいきませんしね…」
「ぬうう…」
 アイリスの言葉に頭を抱え、考え込むカイル。やがて答は出たようだ。
「ええい、仕方ない!
 オレ様と一緒に来い!」
 そしてその答は、アイリスの目論見通りだった。
(先ほど街で見たコンテストのビラ…。
 ハデ好きの姫さまがお金をなくしたら、たぶん間違いなく参加するはず。
 とすれば…行き先は、メロディランド)
 これまでの苦労はダテではない。アイリスは、ある程度ならレミットの行動を予測することができる。ただ、レミットがその予想を上回る行動に出ることも、少なくないのだが。
 
「あーあ…。こんなことなら、新しいお洋服も買っておくんだったな…」
 コンテストの控え室で、レミットは自分のいつも通りの旅装束を見おろしてぼやく。が、無駄遣いを戒められている以上、服のような目立つものはそう簡単に買えない。しばらくぶつぶついっていたが、やがてあきらめがついたのだろう、レミットは周囲を見回し始めた。そして…、
「げっ」
 窓越しの遠くに見える会場の受け付けで、知った顔を見つけてしまった。
(これでバカイルにまで知られたら…。
 まずい。ハジよ。ハジだわ!)
 
 その受け付けに誰がいたかといえば、息を切らせたカレンである。
「まだ、受け付け間に合うかしら?」
「ええ、大丈夫ですよ。
 では、こちらにお名前をどうぞ」
 受付嬢が差し出したノートを見て、カレンは、
「あら」
 小さく声を上げた。
 目的の人物であるレミットの名はもちろんのこと(なお、このとき窓の向こうのレミットはカレンから身を隠すべく身を縮めていたのだが、こういうわけでそれは無駄な努力だった)、他にもいくつかちらほらと、見知った名がある。
「ただの遊びなのか、それともこのコたちも賞金目当てなのか…。
 いずれにせよ、これはただレミットちゃんみつけてサヨナラ、ってわけにはいかないみたいね」
 どうやら、余計なところで余計な闘志に火がついてしまったようだ。
 
「うう、情けない…」
「気になさらなくていいんですよ」
 それからしばらくして、アイリスとカイルもメロディランドに到着したのだが、文無しのカイルは入場料が払えず、アイリスに払ってもらう羽目に陥ったのだ。これは彼のプライドをいたく傷つけた。
「どうしてこのオレ様がメロディランドに女連れで…しかもその女に入場料まで払ってもらって…」
 ぶつぶつ何かつぶやいているカイルを見て、また小さく微笑むと、アイリスはレミットがいるであろう中央ガーデン前広場の方向に視線を向けた。
「姫さまにはもう少し、自分のお立場というものをわかっていただかないと」
 
 そしてそれと同じ頃。
 楊雲の取って置きまで使ってしまい、すっからかんになってしまったため、時間つぶしに遊びに行くこともできないメイヤーと楊雲は、仕方なく(ただしメイヤーは嬉々として)メイヤーが発掘品の保管を依頼している博物館にいた。保管料を払っている以上メイヤーはクライエントなのだから、ここには出入り自由だ。
 メイヤーが発掘品を前に例によって延々と講釈を行っているのを黙って聞いていた楊雲が、突然はっ、と顔を上げた。
「…というわけなのです。
 あれ? 楊雲さん、どうしました?」
 ちょうど話の切れ間にさしかかったメイヤーも、そんな楊雲の様子に気づく。
「…嵐の…予感がします…」
「嵐? お天気はいいようでしたけど」
 メイヤーの言葉に、楊雲はただ黙って首を振る。そして、そのまま一つの方向を指差した。
 彼女が指差す方向には、
 言うまでもなく、メロディランドがあった。
 
                            〈つづく〉
 

 
(中書き・3)
 どーもー、“耕してない畑”もーらですー。
 
 ダメだー、ぜえんぜん書けないよお。やっぱり耕してない畑からいきなり作物穫ろうってのが間違ってるんだなあ。
 ちょっと元の調子にもどるまでしばらくかかると思うけど、フォローよろしく。あ、今回いろいろ意味深なこと書いたけど、先の展望を持った複線は一つもありません。すべて場当たりです。いい感じに使ってね。
 
 皆も悩んでたと思しきキャラの歪み。私もその例に漏れません。特にアイリスさんが何だか別人だあ。
 今回のタイトルは、「アイリスさんの野望」の方がよかったかも…。
 
 じゃ、後はよろしく。
 

 
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