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第六話:怒りの魔王、の巻
 
『我が名はシバブー。この遺跡に眠る者だ……。余の眠りを妨げる不届き者よ、覚悟は出来ているだろうな……?』
 部屋の奥に現れた黒い影が、重々しい声を発する。
「ちょっとアイリス! 何とかして扉開かないの!?」
「だめです、姫さま」
「何で閉めたりなんかしたのよぉ!」
「扉を開け放しにしておくのは、やはりお行儀が悪いと……」
「それは家の中の話でしょ、ばかぁ〜!」
 ピンチのわりには意外と余裕ありそうな二人である。
「漫才やっとる場合やあらへんで、姫さん!」
 影の方を向いて身構えているアルザが警告の声を上げる。
 慌てて影の方に向き直るレミットとアイリス。
 と、ギラリと影の目が光った。
「……っ!?」
「体が、動かない……?」
 本能的な恐怖とでも言えばいいだろうか。レミットたちは、まさにヘビににらまれたカエルのごとく、恐怖のあまり金縛りにあってしまった。
 何かしら魔法の力のこもった視線なのかもしれない。
 すぐ隣にいるキャラットやティナも動くことができないようだ。
『フフフ……お前たちは数百年ぶりの来訪者だ。ただ殺すのではつまらんな……』
 言いながら、こちらへと一歩を踏み出す。
 どうやら、ちゃんと足はあるらしい。いや、こちらの世界の幽霊にも足がないという保証はないが。
 魔王シバブーは、恐怖を演出しようとしているのか、はたまたゆっくりしか動けないのか、一歩ずつこちらに近寄ってくる。
『よく見れば、美しい女性ばかりではないか。アンデッドとなって余に永久に仕えてもらうのも一興かもしれぬ……』
(じょーだんじゃないわよ!)
 すでに声も出せないので、心の中で毒づくレミット。心の底では、“美しい女性”から自分が除外されなくてほっとしていたりする。
 その時、かすかな、本当にかすかな誰かの声が、同じく恐怖で声も出せなくなっているキャラットの耳に届いた。
(もしかして、ボクたちここで死んじゃうの?)
 本当にかすかな声で、人間よりはるかに鋭敏なフォーウッドの聴覚でなければ聞き取れないほどの……
(そんなのやだよぉ〜!)
 ……気づけよ、おい。
(え? あ、ホントだ)
 実はみんな、意外と余裕あるのかもしれない。
 とにかく、キャラットの耳にそんな声が届いたのであった。
(この声、もしかして……)
 その声が上方から聞こえてくること、だんだん近づいていることがわかる。
『ゾンビでは美しさは損なわれてしまうな。ではどうしたものか……』
 そんなことには気づいた様子もなく、ファンの方々に聞かれたら袋叩きにされそうなことを言いながら、再び一歩を踏み出すシバブー。
 次の瞬間。
 ズドゴォォォォ〜〜〜〜ン!!!!
 シバブーの頭上の天井が、爆発した。
『うおぉっ!?』
 ガラガラと崩れてくる天井の岩に、シバブーは埋もれてしまい、もうもうと土埃が立ち上った。
 同時にシバブーの視線の魔力が失われ、金縛りにあっていた五人が解放される。
「な、何が起きたんですか?」
 ケホケホと土埃にせき込みながらティナ。
 やがて、ゆっくりと土埃が薄れていき……
「あ〜! バカイル!」
「誰がバカイルだっ!」
 天井が崩れてできた岩山の上に見える人影を指さして叫ぶレミットに、ボロボロで満身創痍でありながら、反射的に立ち上がり反論するカイル。
 それは間違いなくカイルであった。全身ボロボロであったが……まあ、この男には珍しくないか。
「カイルさん、助けに来てくれたんだねっ!」
「お手柄やで、カイルはん!」
 そこにキャラットとアルザが駆け寄っていく。
「でも、どうしてこんなところに? それに、パーティの他の方々はどうなさったんですか?」
 問いかけるティナに、カイルは岩山の上に腰を下ろすと、
「実はだな……」
 そう語り始めた。
 
 カイルはあの落とし穴のトラップにかかってから、侵入者排除……というより、ほとんど抹殺用のトラップが張り巡らされた通路へと放り出されたのであった。
 レミットたちのかかったインディートラップなど子供のおもちゃに見えるような、凶悪なデストラップの数々、ひしめくモンスターの群……あの幻のモンスター、「ワニ」にさえ遭遇したのである。
 床に仕掛けてあった爆発のトラップに引っかかり、ここに落下してくるまで、語るも涙、聞くも涙な物語が展開されていたのだが……本筋とは関係ないのでバッサリと中略する。
 
「んだそりゃああああああっっっ!!!!」
 突然立ち上がって絶叫したカイルの声に、耳をふさぐ一同。
「このオレ様の苦労の物語を、中略だとっ!」
「うるさいわねっ!」
「そんなことは、作者が許そうとこのオレが許さん!」
「カイルさん、後ろに!」
 突然のアイリスの叫びに、後ろを振り返るカイル。
 みしっ!
 その顔面に、何者かの足の裏がめり込んだ。
 しばらくそのまま硬直していたが、やがて、ぷぴゅーっ、と鼻血を吹き出して倒れ込むカイル。
『キサマら……余の事を忘れておったろう……?』
 カイルのすぐ後ろに立つ影……シバブーが額に青筋を浮かべてつぶやく
「しっかし、影のくせに青筋を浮かべるとは器用なヤツやな。さすが魔王」
『変なことに感心するな!』
「攻撃が足の裏だというのがちょっと情けないけどね」
『ほっとけ! とにかく、余を……魔王シバブーをコケにしたからにはただではおかんぞ!』
「魔王だとおっ!」
 突然復活し、ガバッ! と立ち上がるカイル。
 この男のバイタリティーというのは、一体どのくらいあるのだろう?
『な、何だキサマ!』
 思わずのけぞるシバブー。
 その様子に、レミットははっと気づくと、カイルに呼びかけた。
「バカイル! まさかあんたの復活させようとしてる魔王って……」
「違うわい! オレの復活させようとしている大魔王様は、こんな貧相ではない!」
『誰が貧相か!』
「とにかく、違うのね!?」
「当たり前だ! このようなヤツ、大魔王様の足元にも及ばん!」
『何だと!? 余を愚弄するか!?』
「力の差は圧倒的だ! すでに、足の臭さだけでも大魔王様より数段劣っているっ!」
「そんなので勝ってどうするのよ!」
 
 三人がギャーギャー言い合っているのを、残りの四人はあきれたように眺めていた。
「何だか、緊張感がなくなってしまいましたね」
「そうやな」
「でも、聞いてると面白いよ」
「ああ、姫さま、どうかご無事で……」
 すっかりリラックスしている仲間の三人とは裏腹に、レミットのことが心配でたまらないアイリスである。しかし、三人の口げんかに口出しすることもできずに、オロオロとするばかり。
 そこへ。
「ちょっとアイリス! アイリスもこいつに何とか言ってやってよ!」
 そんなレミットの声がかけられた。
「は、はぁ……」
 恐る恐るシバブーの前に出るが、何も言うことが思いつかない。
「こいつったら言うこと全部趣味悪いのよ! 少なくとも女の子にもてなかったのは間違いないわね!」
『そ、そんなことはないぞ』
 見えはしないが、おそらくは口元がひきつっているかのような声でシバブー。
「姫さま、少しお話しただけで判断してはいけませんよ」
『その通りだともっ!』
 アイリスの言葉に、シバブーは少し感動したような声を上げる。
「我が大魔王様は魔族の女にモテモテだったそうだぞ。その点でもこちらの勝ちだな!」
『こちらだって負けてはおらん!』
「じゃあ、証拠を見せなさいよ」
『うぐっ……』
 言葉に詰まるシバブー。所詮、この二人に口で勝とうという方が間違っているが。
「へへーん、所詮は強がりよね! どうせ女なんかには縁のない一生を送ったんでしょ!」
 焦って視線をさまよわせた先に、アイリスが止まる。思わず救いを求めるような視線を送ってみるが……
「いけません、姫さま! いくら本当のことでもそんなあからさまに……」
 ブチッ!
 
 ……しばらくの後、シバブーの魔法で吹き飛んだ扉からレミットら六人は逃げ出していった。
 
 
 ズドド〜〜〜ン!!
 地の底から轟音と振動が伝わってくる。
「きゃっ!」
「な、何だ?」
 その震源地のはるか上方、祭壇の間。
 何もすることがなく、ボーっとしていた悠也たち一行が一斉に飛び起きる。
「地震……でしょうか?」
「違うわね。何か下の方で爆発でもあったんじゃない?」
 若葉の言葉をリラが否定する。
「確かに、地震って感じじゃないな……」
 ズドーン!
「うわっ!」
「きゃ!」
 再び襲ってきた振動に、バランスを崩しかける。
「あいつら何やってるんだ!?」
「どうでもいいけど……ここ、崩れたりしないわよね?」
 フィリーが不安そうな声で言う。
 その声に、ふと悠也は天井を見上げてみると。
「!」
 ピシッ……ピシッ……
 先程の振動のせいか、天井の一部にひびが入り、岩の固まりが今にも落ちてきそうになっていた。その下にいるのは……
「危ない、ウェンディ!」
「はい?」
 悠也が警告の声を上げた瞬間、ウェンディの頭上へと岩が落下を開始する!
「きゃああああっ!?」
「ウェンディっ!」
 とっさに動けないウェンディの方へ、悠也はダッシュをかけた。
「「「悠也!」」さん!」
 若葉とリラとフィリーが悲鳴のような声を上げる。
 どう考えても間に合うようなタイミングではなかった……が。
 ガツンッ!
 硬直しているウェンディの頭上で、落石はコースを変えると、悠也の脳天に直撃した。
「ぐはあっ!」
 そのまま、悠也の意識は暗転した……
 
 
 暗い通路に足音が響いている。いや、足音だけではない、何かを引きずるような音も……
「あ〜! あの壁画も興味深いです! 調べさせて下さいよぉ〜!」
「そんなことよりカイルクンを探す方が先決でしょ!」
「……あの人が簡単にどうにかなるとも思えませんが……」
 カイルとはぐれたカレンたちは、その後もさんざん遺跡を調べたがるメイヤーを引きずって、遺跡の奥へと向かっていた。
「あ、分かれ道ね」
 彼女たちの進んでいた通路は、やがてかなり広い……4、5人は並べるくらいの広さのある通路にぶつかっていた。
「どっちに行く?」
「戻るんです! 戻ってあの壁画を調べるのですっ!」
「……右の方から邪悪な気配がしますが……」
「そう? じゃあ、左に行った方がいいかしらね」
「無視しないで下さいよぉ」
 メイヤーが声を上げるが、カレンも楊雲も完全に無視を決め込んだ。ある意味正しい対処法ではないだろうか。
「じゃ、左に……」
 行くわよ、とカレンが言いかけたとき、右の通路から何人もの走る足音が聞こえてきた。
「……?」
「あ、カレンさんに楊雲さんにメイヤーさん!」
「早く逃げないとやばいで!」
 真っ先に姿の見えたキャラットとアルザが、そう叫びながら三人の前を猛スピードで駆け抜けていった。
「……何でしょうか……?」
「さあ?」
 クエスチョンマークを頭の回りに浮かべている三人。そこへ、後続がやってくる。
「もう! アイリスのせいだからね!」
「……す、すみません姫さま」
「はあ、はあ……」
 走りながらアイリスに文句を言うレミットに、同じく走りながら謝るアイリス。そして話すどころではないティナ。
 その三人を見送った後、次に通り過ぎようとした人物のマントの裾をカレンがひょいとつかむ。
「ぐおっ!?」
 当然、それはカイルだった。マントをつかまれ、首を絞められてのけぞる。
「な、何をする!」
「何があったの、カイルクン?」
「いいから放せ。残念ながら戦略的撤退を余儀なくされておるのだ!」
「戦略的撤退?」
「……要は、逃げてきたのでしょう……」
「違うっ! これも戦略の一つだ!」
「だから、一体何が……?」
 ズドォン!
 カレンの言葉を遮るように、右の通路の奥から飛んできた火球が通路の壁に炸裂し、辺りを震わせる。
「……というわけだ」
 額に汗の玉をくっつけてカイルが言う。
「……私たちも、逃げようか?」
「……賢明です……」
「ああん、古代の神秘がぁ〜!」
 カレンに引きずられたメイヤーの悲鳴が、左の通路の奥へと消えていった。
 
 
「いててて……」
「大丈夫ですか?」
 そのころ、若葉の回復魔法により悠也はどうにか意識を取り戻していた。
「その……ありがとうございます、悠也さん」
 悠也の前で、ウェンディがぺこりと頭を下げる。
「いや、ウェンディが無事でよかったよ」
「……でも、意外と今の悠也って便利よね」
「そうね〜。何か攻撃になるようなものは、みんな悠也に当たってくれるんだから」
「お、おいおい」
 リラとフィリーの無責任な言葉に悠也があきれたような声を上げる。
「攻撃を喰らうこっちの身にもなってくれよ」
「でも、今みたいに誰かをかばうときにはいいじゃない」
「間に合わなくたって、攻撃は全部悠也に当たるんだもんね」
「ちょっとひどくないですか?」
 ウェンディが非難の声を上げるが、
「まあ、それはすばらしいですね!」
「そうそう。女の子を引っかけるのに最適よ」
「そういう娘ばかりだとも限らないけどね〜」
 何だか違う方向に盛り上がってしまっている。
「……もう」
 ちょっとふくれるウェンディ。
「ははは、まあいいさ。ウェンディを助けられたのは事実だし」
「……悠也さん」
 ウェンディが悠也の横に座り直したその時、
「もう少しやっ!」
「やっと出られるね!」
 開きっぱなしになっていた隠し扉から、アルザとキャラットが飛び出してきた。
「悠也はんたちも逃げるんや!」
「外に出た方がいいよ!」
 そう言い残して駆け去っていく二人。
 その後から残りの人たちも続々と現れる。
「できるだけ広いところで迎え撃つべきよ」
「ならば、外に出るしかないな」
「ああ〜、貴重な古代の遺産がぁ〜」
「…………」
 途中でレミットらを追い越したカイル一行が、外へと向かって駆け出していく。
 そのすぐ後から、レミットとアイリス、ティナが現れた。
「悠也! 急いで外に出るのよ!」
「一体、何があったのよ!?」
「急いで下さい!」
「何だか知らないけど、従った方がよさそうね」
「そうだな。急いで外に出よう」
 悠也の声に、レミットたちと共に五人は移動を開始した。
 
「あっ!」
 もう少しで出口と言うところで、一番後ろを走っていたアイリスが、小石にでもつまづいたのか転んでしまった。
「アイリスさん!?」
「なにやってるのよ、アイリス!」
 それに気がついた悠也とレミットの声に、慌てて立ち上がるアイリス。
 だが。
『ようやく、追いついたぞ……』
 アイリスのすぐ後ろに、影が立っていた。
「シバブー!」
「レミット、なんだよありゃ!?」
「古代の魔王とか言うただのバカよ!」
『……さんざん余をバカにしてくれおって……』
 ギン、とシバブーの目が輝き、アイリスはたちまち金縛りにかけられてしまう。
「ひっ……ひ、めさ、ま……!」
「アイリスぅ!」
「アイリスさんっ!」
 悠也とレミットが行動を起こそうとする前に、シバブーの両手から魔力の光があふれ出た。
『まずは一人!』
「させるかっ!」
「しゅ、悠也!?」
 飛び出した悠也に驚いて声を上げるレミット。
「ちょっと、今のあんたは!」
「確かに、こういうときには便利だよな!」
 
 ズドォォォ〜〜〜ン!!!!!!!
 辺りに、爆発音が響きわたった……
 

 
中書き・6
 
 今回、あんまりギャグにできませんでしたねぇ。
 相変わらず無責任な続け方してます、ごめんなさい。前回よりも更にひどくなってますなぁ。どうか、主人公君に安らかな眠りを……って、違う!(笑)
 
 とりあえず、カイルエンディング防止計画を発動しようと思っていたのですが、あんまりそんなふうにはできませんでした。なかなか難しいなぁ。まあ、まだ海賊の島を過ぎたところなわけですから、決定的に仲が悪くなっているわけではないので仲間とのエンディングも可能でしょうし、レミットやアイリスさんとのエンディングになる可能性もあるわけだし。ま、いっか……。
 そうそう、シバブーにはお約束通り金縛りの魔法を使わせてみました。女神転生シリーズをやったことのある人でないとわからないかもしれませんけど。シバブーって言う金縛りの魔法があるんですよ。
 
 今回も結構遅れてしまったんですが、これから先もすごく忙しくなりそうです。春休みだってのに……(泣)。というわけで、次回まわってきたらいつ書けるかさっぱりわかりません。気長に待って下さい。
 

 
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