第四話:三人寄れば、あるいは、船頭多くして…の巻。
「飲んだ…って?」
「あの…ペンダントを…か?」
尋ねるレミットもカイルも、心なしか顔が青ざめている。
「ペンダントかどうかは知らないが…とにかく、今飛んできたものなら…」
「ちょっとあんたたち! あれは一体何なのよ!?」
悠也がいくら止めても止まらなかったケンカをやめ、茫然と悠也を見ているレミットとカイルに、不安になったフィリーがくってかかる。
「あの〜?」
「なにか…あったんですか?」
騒ぎに気づき、宿の中から若葉と、ようやく立ち直ったウェンディが出てくる。
「あー! バカイル! 怪しいとは思ってたけど、やっぱり何か悪さしに来たのね!」
リラも宿に帰ってきた。そして悠也の仲間達にぐるりと周囲を取り囲まれたカイルは、仕方なく、ことの顛末を説明した。
「な…」
一気に顔から血の気が引く悠也。
「そういうときには逆さにして背をとんとん叩くといいと聞きましたけど…?」
「…若葉、それは赤ん坊の話…」
ボケる若葉とつっこむリラ。
「そんなんじゃ、もう助かりっこないじゃないですか…。ハエタタキからV.レイまで、ありとあらゆる攻撃が悠也さんに襲いかかるんでしょう? もう終わりだわ、破滅だわ…。悠也さんは消し炭一つ灰の一粒残らずに消え去ってしまうのよ…」
頭の中に備わった悲観回路が全開になるウェンディ。
「ちょっと、悠也! 早く出しなさい! 上からでも下からでもいいから!」
焦りのあまりいささかつつしみにかけるセリフを吐くフィリー。
とまあ、パニックに陥る悠也達を見ていたカイルは、逆に少しずつ冷静になってきた。
(考えてみれば、当初の予定はこれで果たしたではないか。まして、飲み込んでしまって絶対に外せないとなればなお好都合。オレ様の野望を阻む者が確実に一人減ったな…フフフ、さすがオレ様)
考えがまとまったカイルは仁王立ちになると、
「ハーッハッハッハッハ! 終わりだな悠也! オレ様の恐ろしさを思い知ったか! 周囲の攻撃はすべて貴様を狙う! 恐怖に怯えながら宿の部屋で小さくなっているがいい! では、さらばだッ!」
と、大見得を切って、マントを翻す。しかしそんなカイルの後ろ襟をむんずと捕らえる者がいた。
「ぁおぅっ!」
首が締まって奇妙な声を上げるカイル。
「何をする!?」
振り向いたカイルは、拳を握りしめムッとした顔をしているリラに気づき、言葉を失った。
「バカイル。今の話からすると、さっきあたしによこしたペンダントって…」
「…いや、あの…。それは…」
「かよわい女の子のあたしを、そーゆー目に遭わせようとしてたわけね、アンタ」
「誰がかよわいって?」
つい、言ってはいけない一言を言ってしまうカイル。
ぷつん。
「ぶん殴るわよ!」
みしっ。
リラの拳がカイルの顔面にめり込む。
「このオレが…こんな所で…」
パーツ全部を顔の中央に集められた無様な状態のまま、カイルは仰向けにひっくり返った。
「うわあああ! やめろおお!」
「…ん…?」
ものすごい絶叫が聞こえてきて、カイルはようやく目を覚ました。
「…ようやく…お目覚めですか…」
「大丈夫? カイルクン…」
気づくと、楊雲とカレンが自分をのぞき込んでいる。
「オマエら…?」
「もう! 一人でムチャするからよ」
ちょっと怒ったようなカレンの話によると、リラにKOされひっくり返ったカイルが、あわやそのままその場の面々にタコ殴りにされるか、というとき、追いついてきた楊雲、メイヤー、そしてカレンが、間に入ってくれたらしい。
カイルだけならまだしも、一流剣士のカレンや大規模攻撃魔法を得意とするメイヤーと町中で本気で戦うわけにはいかず、結局その場は一時休戦ということになり、気を失ったカイルをカレンがここまで担いできたのだという。
「そうか…」
「大丈夫ですか?」
楊雲がカイルの顔をまっすぐにじーっと見つめて尋ねる。別にカイルの顔を見たかったのではなく、そこにあった傷を心配していただけなのだが、カイルは妙に気恥ずかしく、目を逸らしながら尋ねた。
「と…ところで、メイヤーのヤツはどうした?」
「あ…んー。メイヤーなんだけどね…」
カレンが少し言いにくそうに口ごもる。すると、その後を引き継ぐように、
「やめてくれええ! まだ死にたくないいい!」
と、カイルの目を覚ました絶叫が再び聞こえてきた。
「何だ?」
「…行ってみればわかります…」
ふうぅ、とため息をつきながら、あきれかえったように楊雲が言った。
「大丈夫です! 無事取り出して見せます!」
カイルが、絶叫の聞こえた部屋に行ってみると、リラとアルザに取り押さえられたメイヤーがじたばた暴れている。部屋の隅には悠也が怯えたようにうずくまっており、その前にかばうように若葉とウェンディ、そしてキャラットが立っている。そんな光景を見てティナとアイリスはおろおろと右往左往しており、レミットはそんな二人を叱咤している。
「これは…何事だ?」
「ああっ、カイルさん! いいところに! 手を貸して下さい、悠也さんのお腹の中のペンダントを取り出すのです!」
やってきたカイルを見つけたメイヤーが嬉しそうに叫ぶ。その声を聞いたリラとアルザが、より強くメイヤーを押さえつけた。
「だから、あかんて!」
「そんなことはさせないわ!」
「…?」
カイルは一瞬困惑した。あのペンダントはメイヤーの発掘品だから、メイヤーが血眼になって取り出そうとするのはわかる。だが、どうして悠也の味方であるはずのリラがその邪魔をするのだ?
「カイルさんもメイヤーさんを止めて下さい! メイヤーさんは悠也さんのお腹を割いてでも、なんて言い出したんです!」
大慌てのアイリスがカイルの疑問を解決してくれた。そう言われてみてみれば、メイヤーは珍しくも刃物を振り回している。一瞬、キチ○イに刃物、というフレーズがカイルの脳をよぎった。
「だが、メイヤーは無事取り出してみせるとさっき言っていたではないか」
カイルは一瞬、メイヤーに外科手術の心得でもあるのでは、と思った。が…。
「もちろんです! ペンダントには傷一つ付けはしません!」
あまりにもメイヤーらしい答えが、彼女自身から帰ってきた。
「ええいっ!」
業を煮やしたメイヤーが、持っていたナイフを投げる。とはいえアルザとリラに押さえられているため、それはまるであさっての方向にすっ飛んでいった。しかし、
ドスッ!
「ひいいい!」
ナイフは途中で有り得べからざる軌道を描き、若葉とウェンディとキャラットの三人がかりのガードを見事にかいくぐり、悠也の脇腹をかすめて壁に突き立った。よく見てみれば同じようにナイフが何本か壁に刺さっている。どうやら、さっきから聞こえた絶叫の原因はこれらしい。
「どうしてよけるのですかっ!?」
イライラしながらメイヤーが、またもどこからかナイフを取り出す。
「もう止めて下さい!」
「メイヤーさん、切腹の介錯でしたら首ですわ」
とか何とか言いながら、ウェンディと若葉がメイヤーを押さえるのに加わる。若葉はどうだか知らないが、ウェンディは、ひとたび攻撃されてしまってはいくら守っても無駄だと悟ったらしい。
「本当に悠也さん死んじゃうよ!」
キャラットもまたメイヤーに組み付くが、
「かまいません!」
と、メイヤーは限りなく非人道的なことを言う。
結局、その場にいたカイル以外の全員がメイヤーを押さえるのに加わり、メイヤーの攻撃を完全に封じるまで、その騒ぎは続いた。
(…今度…今度こんな事があったなら…古代の便秘薬でも用意することにしましょう…)
魔法も使えぬよう口もふさがれたメイヤーは、一人心中でそう誓った。
「…よろしいですか…?」
楊雲が、まっすぐメイヤーの瞳を見つめながら尋ねる。
メイヤーを野放しにするわけにはいかないが、残念ながら今の悠也の状態を一番把握しているのはメイヤーだ。どうやらメイヤーは悠也の状況を把握した上で、あの暴挙に出たらしいから。
とはいえメイヤーをただ解放したのでは悠也が血の池地獄に沈むのは明白だ。仕方なく、メイヤーから事情を聞くため、全会一致で楊雲が催眠術をかけることになった。
「楊雲って、意外と多芸なのね」
感心したようにカレンがつぶやく。
「別に…それほど大した芸というわけではありませんが…」
謙遜しながらも、メイヤーはちゃんとトランス状態に陥っている。
「では、始めます…。何から尋ねましょうか?」
「今、ペンダントはどういう状態なの?」
カレンが尋ね、楊雲がそれを静かにメイヤーに伝える。
「…悠也さんの、胃の中に」
「どうやったら、出せるのですか?」
「物が大きいので…吐かせたりは無理だと思います…。自然に排泄されるのを待つというのも…おそらく無理でしょう…。強力な下剤でもあれば…あるいは。さもなくば…腹を割くしか…」
「よくそんなもの飲めたもんね」
リラが呆れたように肩をすくめる。
「…何か他に聞きたいことは?」
「ペンダントの呪いそのものをなんとかすることはできないの!」
レミットが食って掛かる。
「…静かにして下さい。大きな声を出すと、術が解けてしまいます…」
楊雲はレミットを制すと、疑問だけはメイヤーに伝えた。
「…調査中です…」
メイヤーの答えを聞き、一同が深くため息をつく。楊雲が再び皆を見回すと、今度は皆が首を横に振った。
「もう、結構です」
楊雲がそれを見て言う。すると、
「はっ? ここはどこ? 私は一体?」
メイヤーがきょときょと周囲を見回し始めた。
「さて…どうしましょうか?」
一同を見回して、カレンが言った。皆一様に難しい顔をして、うーん、とうなる。
「そうだ!」
突如、フィリーがぽん、と手を打った。
「強力な下剤があれば何とかなるかもしれないんでしょう?」
「それはそうですが、心当たりでも?」
催眠術のせいかようやく落ちついたメイヤーが、訝しげに尋ね返す。
「若葉! 料理を作りなさい!」
「は? そ、それはどういう…」
きょとんとしている若葉にフィリーは迫り、人差し指を眼前に突きつけて怒っているように言った。
「いい? よーく聞きなさい! この間あんたの料理食べた悠也はねえ…モガガ」
あわてて悠也がフィリーの口をふさいだ。
「止めろフィリー…いきなり真実を告げるのはあまりにも酷だ」
じたばた暴れるフィリーの手がものの見事にすべて悠也にヒットしているが、さすがにフィリーのパンチくらいならすべて受けても大したことはない。
「メイヤーさんの持っている石の箱で何とかならないんですか?」
ティナが恐る恐るといった感じで尋ねる。
「確かにこの箱には、ペンダントを無力化する働きはありますが…」
メイヤーは懐から三つの石の箱を取り出した。うち二つには、レミットとカイルから回収したペンダントが収められている。
「…箱の中にペンダントを入れれば、の話です。この箱で何とかするのなら…悠也さんにこの箱を丸飲みしてもらって、胃の中でペンダントを箱に入れでもしないことには」
「…そんなの、できっこないじゃないですか」
ウェンディが横目でメイヤーをにらみながら言う。
「うーん…。こうなると、本当に腹かっさばいて…しかないかしらね…」
リラがちらりと悠也を見て物騒なことを言う。
「ですよね」
メイヤーが懐からまた刃物を取り出そうとする。何故か、いくら没収してもメイヤーはどこからか刃物を出すのであった。
「それじゃ悠也さん死んじゃうよう!」
今にも泣きそうな顔でキャラットがそれを止める。
「まあ、そりゃそうなんだけど…死ぬ前に若葉か楊雲が何とかするっていうのはどう?」
ここにいるメンバーの中でも回復力に長けた二人を眺め、リラが言う。
「わたしがですか? …うまくいきますでしょうか…?」
不安そうな顔の若葉に対し、楊雲は表情一つ変えず、
「無理です」
と言ってのける。
「なんでや?」
不思議そうに尋ねるアルザに、楊雲は冷たく説明した。
「腹を割くなどという痛みに普通の人が耐えられるとでもお思いですか? たとえ傷は治せても…狂い死にます」
「そんなの、やってみなきゃわかんないじゃないのよ!」
怒鳴るレミットをひややかに見つめながら、楊雲はため息をついて言った。
「私には…やってみなくてもわかるのです…。こと、人が死ぬことに関しては…」
「あ…」
そうか。楊雲は影の民だ。その楊雲が「死ぬ」と言うからには死ぬだろう。一気に場の空気が重くなった。
「困りましたねえ…」
アイリスの言葉はその場の全員の気持ちだった。
「仕方ないわね」
カレンが立ち上がり、両手をぽんぽん打った。
「とりあえず…煮詰まっちゃったみたいだから、明日また考えましょう。ゆっくり寝ればいい考えも浮かぶかもしれないしね」
「でも、悠也このままにしておいていいの?」
レミットが少し不安そうに尋ねる。
「そうねえ。悠也クンの周りの攻撃を、誰かが一晩中邪魔し続けないといけないわね…」
ぐるりと周囲を見回すカレン。一人残らず目を逸らして拒否の意志表示をする乙女達。いくら緊急事態だとはいえ、夜通し男の部屋にいたいとは誰も思わない。
「そりゃそうか…」
カレンはため息をついた。カレン自身も御免だから、誰も責められない。
「じゃ、しょうがないわね。カイルクン!」
「あ?」
今までずっと、この場にいただけで何もいわなかったカイルが、突然話を振られて困惑したような間抜けな声を上げた。
「キミ、悠也クンを守ってあげなさい」
「なっ!? なぜオレ様が!?」
「仕方ないでしょう、男の子はキミだけなんだから。それに、こうなった責任はキミにあるんだからね」
「だ、だがな、ヤツは敵だぞ」
「大切なライバルなんでしょ?」
「そ、そうは言ってもな…」
「それともカイルクン、キミ…そーゆー趣味でもあって、照れてるの?」
「ばっ…バカを言うな! オレは確かに女嫌いだが、そんな趣味など決してない!断じてない!!」
「じゃあいいじゃない。おねーさんの言うことは聞いておくもんだゾ」
「・・・・・・」
カレンが自分を「おねーさん」と言ったとき、彼女に逆らうと本格的に彼女の機嫌を損ねてしまう。今までの旅でそれを知っていたカイルは、深い深いため息をついた。
「…仕方あるまい…」
「そーじゃなくっちゃ」
カレンは笑いながら、カイルの背を叩いた。
「じゃ、頼んだわよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
夜中、悠也の部屋。しぶしぶ不寝番を引き受けたカイルと、眠れるはずもない悠也は、ただ黙って顔を付き合わせていた。
「オマエは…」
「ん?」
ようやく、カイルが口を開く。
「なぜそれほどまでに、『もとの世界』とやらに帰りたがるのだ?」
「なぜって、そりゃあ…」
「オマエの『もとの世界』での生活は、それほどいいものだったのか?」
「・・・・・・」
「…どうでもいいことだったな」
カイルは再び悠也に背を向ける。
「オマエがいまここにいて、このオレと、ライバルとしていがみ合っている…。オレにとってはそれがすべてで、それで充分なのだからな」
「カイル…?」
「…くだらん事を話したな。とっとと寝てしまえ。安心しろ、寝込みを襲うような卑怯なマネは、このオレの誇りにかけてせん」
それきり、カイルは口を閉ざし…悠也も、何も話しかけることができなかった。
次の日の朝。再び全員が集合し、今後の方針を話し合うことになった。なんだか妙にニコニコしたメイヤーが進み出て、思わずびくっと悠也が身を震わせる。そんな悠也を横目でちらっと見、メイヤーは口を開いた。
「昨日一晩考えたのですが…ペンダントを取り出すのはおそらく無理だと思います。…腹を割きでもしない限りは、ですけどね」
「ちょっと、メイヤー」
カレンが苦笑しながらたしなめる。
「…冗談です。そこで、ペンダントの魔力そのものを何とかするしかないでしょう」
「方法が…見つかったのですか…?」
楊雲の問いに、メイヤーは首を横に振る。
「はっきりとは、まだ。ですが、資料を解読してみたところ、このペンダントを見つけた遺跡にはまだ未解明の部分があるようなのです。そこに謎を解く鍵がある可能性は高いでしょう」
「え〜? じゃあ、またコスイまで戻るわけ?」
不満そうに言うリラに、
「古代の神秘を解明するためです」
メイヤーは即答する。
「悠也さんのためじゃないの?」
キャラットが尋ねると、メイヤーはほんの一瞬だけ硬直し、
「それももちろんです」
と、取り繕うように言った。
「ついでって訳ね」
レミットが冷ややかにメイヤーをにらみながら言った。メイヤーはそれを完璧に無視した。
「よぉしメイヤー、案内しろ!」
「ヤケにはりきるわね、カイルクン?」
「…! そ、それは、その…。ペ、ペンダントの効果を打ち消すアイテムを我が物として、悠也を一生そのままにしてやるのだっ!」
「…無理をなさらなくても、よろしいのに…」
「ええいうるさい! 行くぞっ!」
少し照れたようなカイルの様子に、カレンは楊雲を見て苦笑した。楊雲は表情こそ変えなかったものの、小さく肩をすくめてそれに答える。
すごくご機嫌なメイヤーを先頭に走り出すカイル達の後を、レミット達と悠也達も、またいつものように追うのだった。
・中書きその4
あうあう。カゼひいたー。2日で書けるはずのものが5日もかかっちゃったー。皆様おくれてごべんだだい。
さて、精神的余裕がなくなると話がシリアスになるのが私の傾向でして…。後半、カイルがバカイルでなくなってるのはそのせいです。うーん、これだとエンディングはカイルかなあ…。もしかしたら姫さまのイベントにも成功してアイリスさんになるかもなあ…。
今回はオールスターキャスト(ロクサーヌ除く)になりました。はたして書き分けられたでしょうか…? セリフが少ないキャラもいますが、とりあえず全員のセリフが最低一つはある…はずです。
まあ、ポイントは、多くのSSに反して(苦笑)「カイルにはそういう趣味はない」ということですね。
…意外と、カイルには愛があるのかもしれないなあ…私。
頭がボーっとしてきたので…このへんで…。あうっ。