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第三話:人を呪わば穴二つ、の巻。
 
「今日は一日、自由行動にしようか」
 少し時をさかのぼって、姫様がひどい目にあったその日の朝、リョウコウのある宿屋の一室でそんな会話がなされていた。
 言ったのは悠也。カイルやレミットも含めて、彼女らが旅を始めるきっかけとなった異世界からの迷い人である。最近はすっかりこっちの世界になじんでしまったようだが。
「いいの? 追い抜かれたりしないかしらね?」
 テーブルの上に座っている小さな妖精、フィリーが言った。フィリーはこの旅の案内役で、確かに彼女がいなければ旅はできなかっただろう。しかし、フィリーが数多くトラブルを招いている、というのもまた事実である。
「たぁいじょうぶよ! あいつら、なんだかんだ言って先行こうなんてしてないじゃない」
 右手をパタパタと振りながら、リラ。悠也のパーティの一員で、シーフをやっていた。最近は本気で足を洗おうかとか考えているらしい。
「そうでしょうか?」
 そんなリラをちょっと疑わしげな目で見つめながらウェンディ。悠也の仲間になった当初は、ほとんど人間不信に陥っていたのだが、ようやく立ち直ってきている……たぶん。
「まあ、今日はお休みですか?」
 ぽん、と両手を合わせて、若葉がいきなりずれてることを言った。大きなピンクリボンに着物がよく似合うかわいい娘だが、天然ボケに破滅的な料理の腕前、一大スペクタクルな方向音痴という、ある意味最強のリーサル・ウェポンである。
「……あら、どうしました?」
 周りでこけている四人にようやく気づく若葉。
「あー、とにかく、そういうことならあたしはちょっと出かけてくるから」
 リラは何とか立ち上がると、そう言って扉を開けた。
「あたしは昼寝でもしてくるわね〜」
 フィリーが後に続く。
 二人が出ていった後で、ウェンディはようやく立ち上がると、パタパタと服のほこりをはたいた。そして、最近編み始めたセーターの続きでも編もうかな、と考えていると、
「ウェンディさん、ちょっとよろしいでしょうか?」
 そう若葉が声をかけてきた。
「はい?」
「あの、ちょっとお願いしたいことがあるのですが……ここでは何ですから、下で……」
「そうですか?」
「それでは失礼します、悠也さん」
 そう言って、ウェンディと若葉は出ていった。最近なんだか仲のいい二人である。だが、悠也に二人の関係を邪推しているような余裕はなかった。
 笑って手を振って四人を見送った悠也だが、二人が出ていって、足音が聞こえなくなったのを確かめるとダッシュを開始した。
 廊下を駆け抜け、階段を一段飛びどころか三段跳びくらいの勢いでおりると、目の前にある小さな個室に突進する。
 バタンッ!
 ガチャ。
 大きな音を立てて扉が閉まり、鍵のかかる音がした。
 ……その個室には、次のような表示が出ていた。
『W.C.』
 どうやら、数日前に食べた誰かさんの料理の後遺症はかなりしつこいらしい。
 
◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆
 
「ふう、ひどい目にあったな」
 首をコキコキと鳴らしながら、カイルは町中を歩いていた。
「しかし、あのガキんちょに対しては作戦はうまく行った。次は……」
 手にしている石の箱の中の残り二つのペンダントに目を移す。
「あと二つか。一つは悠也の奴に着けさせるとして、もう一つは……お?」
 何かを発見したカイルは、慌てて路地に身を隠した。そして、そっとその陰から通りをうかがう。
「あれは……」
 
「んー……ちょと高いわよねえ」
 色々な店の並んだ通りで、リラはウィンドウショッピングを楽しんでいた。手にはその辺りの露店で買った焼きたてのクッキーの入った紙袋を持っている。
「ったく、この辺の店は商売ってものをわかってないわね」
 そんなことをつぶやきながら、紙袋からクッキー取りだして一口かじってみる。
「あら、意外とイケるわ」
 その時。
 ドンッ!
「きゃ!」
 突然、後ろから突き飛ばされて、リラは前につんのめった。その拍子に手から紙袋が飛び出し、道に中身がぶちまけられる。
「何すんのよ!」
 くるりと後ろを振り返って、ぶつかってきた奴にくってかかる……が。
「す、すまない!」
 そこにいたのがカイルだったという事実よりも、その口から出た言葉がリラを凍り付かせた。あのバカイルから謝罪の言葉が出てくるとは……
 ぼーぜんとしているリラに構わず、カイルは言葉を続ける。
「急いでいたものでな、大丈夫だったか?」
(……怪しい)
 謝っているのにそう思われてしまうというのは、これもカイルの人徳とゆーものだろうか?
「あー……」
 あまりにも意外な展開に、何となく毒気を抜かれてしまったリラである。
「まあいいわよ。怪我もなかったし。……でも、落としちゃったあれの弁償くらいしてくれない?」
「実は、今手持ちが無くてな」
「なぬ?」
 ピクン、とリラの眉毛が跳ね上がる。
「ああ、ちょっと待ってくれ! 現金はないのだが」
 ごそごそと懐を探るカイル。
「これでどうだ?」
 そう言って、カイルはリラにある物を差し出した。
 ……例のペンダントである。
「いいの? 何だか値打ちものみたいだけど」
「俺様には必要ないものだからな」
「何でそんな物をあんたが持ってんのよ。まさか……」
「お、俺様には断じてそんな趣味は無いぞ!」
「……まだ何にも言ってないって」
 言いつつ、カイルからそのペンダントを受け取る。
「ま、これで勘弁してあげるわ。じゃね」
 リラは、くるりとカイルに背を向け後ろ手に手を振ると歩き出した。
「……」
 しばらくその後を見送っていたカイルだが、
「フッフッフ、うまくいった」
 ニヤリ、と小さく笑みを漏らした。
「悠也の奴にもう一つを渡す前に、少し笑わせてもらうか」
 そう言って、リラの後をつけはじめた。
 ……はっきり言って、かなり怪しい。挙動不審で捕まったりしないだろうな。
 
「お?」
 しばらくリラの後をつけていたカイルだが、リラがある店の前に立ち止まったのを見て、自分も足を止めた。リラからは死角になるような位置からその様子を観察する。……事情を知らない人が見れば、間違いなくストーカーだよなぁ。
 さて、その店の前で考え込むような素振りを見せていたリラだが、しばらくしてその中に入っていった。
「ふむ……何の店だ?」
 カイルが店の看板を見上げると……
『質屋』
「なに〜〜〜〜!」
 カイルの財布がスッカラカンになってしまったことだけをここには書いておこう。
 
◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆
 
「……この宿か」
 リラによってふところに大ダメージを受けてしまったカイルは、今度こそ、とばかりに悠也たち一行を探していた。
 そして、ようやく彼らが泊まっている宿を発見したのだった。
 裏口に回ろうと、宿の横の路地に入り込んだ時である。
「ん?」
 ふと、聞き覚えのある声を聞いて、カイルは立ち止まった。
「こうでしょうか?」
「いえ、だからそうじゃなくて……」
 小さな窓……換気用の、格子のついた小さな穴がそばにあるところを見ると、台所だろう……から、聞こえてくる。
「この声は、悠也の仲間のウェンディとか言うやたら景気の悪い奴と、若葉とか言うボケッとした奴か」
 なにげに的確だぞ、カイル。
 とにかく、そこにある窓から中を覗いてみると。
「ここでお塩を入れるんですよね?」
「……それはお砂糖です」
「あ、あれ? ではこちらでしょうか?」
「それはコショウですってば」
 中には、お約束なボケをかましている若葉と、つっこみにも疲れてきた様子のウェンディがいた。
 どうやら、ウェンディが若葉に料理を教えているようだ。
「ふっふっふ、先程は失敗したが、今度こそ……」
 小さくつぶやきながら、窓からそっと離れるカイル。
 ペンダントを取り出すと、どこからともなく取りだした小箱にそれを収め、綺麗な包装紙に包んでリボンをかける。
 ……どっから持ってきた、そんなの。
「うーん、我ながら完璧な偽装だ! これで奴らも騙されること間違いなし!」
 ほれぼれするような目でそれを眺める。
「おっといかん。忘れるところだった」
 そう言ってペンを取りだし、『悠也より』と書き入れた。
 確かに、何も書いてなかったら落とし物だとか思われてしまうだろう。
「ふふん、おまけに売り払われる心配もないぞ。……後はこれを奴らの目に付くところにでも置いておく、と」
 早く裏口を探してそこから入ろうとカイルが歩き出したその時。
「ああっ!」
「きゃーーーっ!」
 ガシャーン!
「うをおぉあっ!?」
 タンッ!
 カイルは硬直していた。
 つーっ、と頬から一筋の血がたれる。
 その横の壁には包丁が突き刺さっていた。突然窓を突き破って飛び出してきたのだ。まだビリビリと震えている。
「す、すみませんウェンディさん! 手が滑ってしまいました!」
「……よかった……生きてる……」
「あの、ウェンディさん?」
「……生きてるって、すばらしいわ……」
「あの〜?」
 何があったかを解説すると、若葉が手を滑らしてウェンディめがけて飛んでいった包丁が、ペンダントの力に引かれて、ウェンディに突き刺さる直前でカイルへとその矛先を変えたのだ。
「い、今のは手を滑らして飛んできたようなもんじゃなかったぞ……」
 どうにかショックから立ち直ったカイルが震える声でつぶやく。
 気を取り直して歩き出そうとしたカイルの耳に、再び若葉の声が届いた。
「仕方ないですね。後はわたしが一人で……」
(げっ!)
 嫌な予感がカイルを襲う。
 それが現実となるのに、10秒とかからなかった。
 
「きゃーっ!」
 ガシャーン!
「うおおおぉぉぉぉっ!?」
 乱舞するお玉やさいばし。勢いよく飛んでくるフライパンや鍋。雨のように降り注ぐ熱湯や料理……のようなもの。
 何だか攻撃でないものばかりのような気もするが、とにかくそういった物がカイルに集中する!
 ……カイルに、抵抗する術はなかった。
「なぜだぁぁぁぁぁぁっ!?」
 ドガシャーンッ!
 
 ……合掌。
 
◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆
 
「う〜、まだ調子が悪いよ」
「まったくバカなんだから。あんなの全部食べるからよ」
 宿の玄関から外に出ていこうとしながら、悠也とその頭の上のフィリーはそんなことを話していた。
「あんなのって、そんな言い方若葉に悪いだろ」
「なに言ってんのよ。あんなの食べ物じゃないわよ」
「少なくとも、食べられはしたぞ」
「食べてお腹壊すような物は食べられるとは言わないの! やせ我慢して甘やかしてないで、悪いところは悪いってちゃんと指摘するべきよ。あんたは若葉にもウェンディにも甘すぎるの」
「そうかなぁ」
 どうにかお腹の調子が一段落した悠也は、ちょうど昼寝から起き出してきたフィリーとちょっと町を見てこようと出かけるところである。
 
 それを、路地の陰から見つめる影が一つ。
「今度こそ、今度こそ!」
 どうにか復活したカイルだった。あれだけの目にあっておきながら懲りもしないのは、さすがと言うべきか。
 その時である。
「やっと見つけたわよバカイル!」
 かなり怒気を含んだ声が後ろからかけられた。
「誰がバカイルだ! ……って、げげっ!」
「よーくーもやってくれたわね!」
 そこには仁王立ちになったレミットがいた。その後ろにアイリスがいる。ちなみに、他の三人は町の違う場所を探しているはずだ。
「あたしの次は悠也を狙うつもりだろうけど、そうはいかないわよ!」
「ひ、姫様、できれば穏便に……」
「アイリスは黙ってて!」
「は、はいっ」
 こういう状況で、穏便に済ます方が無理だと思いますよ、アイリスさん。
「とにかく! 覚悟してもらうわよバカイル!」
「ふん! この俺様がガキんちょにやられるとでも思うのか!」
「い、言ったわねっ!」
 レミットがカイルに飛びかかり、たちまちケンカが始まる。
 戦いでも喧嘩でもでもなく、ケンカである。ポカポカポカ……という擬音が似合いそうな。レミットはいいとしても、大人げないぞカイル。
 ちなみに、ペンダントを持っていたカイルになぜ攻撃が集中しないかというと、実はレミットも持っていたりするのであった。お互いに持っている者同士なので、ペンダントは効果を発揮していないのである。
 
「何だ、一体?」
「ケンカかしら?」
 ちょうどその時、悠也とフィリーが宿から出てきた。
 やっかい事というのは、否が応でも目に付くものである。
「あ、悠也さん!」
 そこへアイリスさんが駆け寄ってきてすがりついた。
「お二人を止めて下さい!」
「そんなこと言われてもなぁ……」
 ちらりとケンカを続けている二人に目をやる。
「このこのこの……ばかーっ!」
「やったな、このこのこのっ!」
 ポカポカポカ……とケンカは続いている。
「みょーに仲がよさげに見えてしまうんだけど……」
「子供のケンカよねー」
「そんな悠長な! 姫様にもしもの事があったら……」
 よよよ、という感じで泣き崩れるアイリスさん。
「わかりましたよ、何とか止めてみます」
 そう言って、悠也は二人に近づいた。
「二人とも、ストップ!」
「いたっ! えいえいえいっ!」
「うりゃうりゃうりゃっ!」
 ポカポカポカ……
「やめろってば!」
「このこのこのぉっ」
「おりゃおりゃおりゃーっ!」
 ポカポカポカ……
 ピクッ、と悠也のこめかみに青筋が浮かんだ。
「……いーかげんに、しろーーーーーーーーーっっっっ!!!!!!!!!」
 悠也がキれて叫んだ時である。
 乱闘のせいか、プチン、とカイルの手にあったペンダントのひもが切れ、ペンダントの蒼い石が飛んでいった。
「……ンがッ!? げほっ、げほごほっ!」
「ちょっと、悠也、大丈夫?」
 その言葉に、ピタリとケンカが止まる。
 レミットとカイルの視線が喉を押さえてうずくまっている悠也とその背中をさすっているフィリーに集まった。
「あの、悠也……?」
「……今飛んでったの、どうした?」
 どうにか落ち着いた悠也が、荒い息をつきながら言った。
「……飲んじまった……」
「「「「ええーーーーーっっっ!?」」」」
 四人の声が、夕暮れの通りに響きわたった……
 

 
中書き・3
 
 うをーっ、不本意な出来だーっ!
 今回はこれに尽きます。めちゃくちゃな展開ですみません、はい。同じパターンを三回も続けたくなかったので、主人公パーティ編のはずがカイル主役になってしまいました。しかし、「主役」って「ひどい目にあわされる」と同義のような気がしてくるな……。
 ところで、やっぱりタイトルを考えるのって難しいですね。うまい付け方があったら伝授してもらえません?(笑)
 
・主人公について
 この主人公は、とりあえず誰か一人を狙ったりしてはいません。そんなこと考えてもいない、ってとこでしょう。このままだったらフィリー&ロクサーヌエンディング直行ですな。
 
・フィリーについて
 いかん、自分の書いてるSSを引きずってる……。しかし、主人公とフィリーの会話って、一番書きやすかったなあ。やっぱり書き慣れてるからか?
 ごく一般的なイメージのフィリーのつもりです、自分では。
 
・リラについて
 「これが最後の仕事」は終わってるので、盗賊やめようかな、と思っている、ということにしてます。
 
・若葉について
 自分がいかにNIFTYに毒されているかがよくわかりました。若葉の料理=致死毒というイメージがどうしても頭を離れない(笑)。この話の中では、それほどではありません。ちょっとお腹壊すくらい。
 
・ウェンディについて
 こう振ったらこう反応する、というのがよく見えないです。おかげで若葉と共にほとんど出番無し。ごめんね。
 ウェンディはかなり立ち直ってきている、ということにしました。そうでもしないとギャグは辛いし。深刻になりかけますから。
 
・質屋について
 実はリョウコウでは質屋のバイトはできないんですが……あったけど別にバイトを募集していなかった、ということにして下さい。ギャグの都合、って奴で(笑)。実際、「村」であるオールにあるんだから、「町」であるリョウコウにあってもおかしくないでしょう?
 
 さて、そろそろ大きな事件を起こさにゃならんだろう、と無責任に次回につなげましたが……次の人、がんばってください。
 

 
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