HOME
 
第一話へ     二次創作文庫メニューへ     第三話へ
 

 
第二話:バカイルの陰謀、姫さまを泣かす、の巻。
 
 チュン、チュン、チチチチチチ……。
 窓辺に止まる小鳥のさえずりが、さわやかな朝を告げる頃。
 我らがマリエーナ王国の第3王女たるレミット姫は、その愛らしい寝顔をふわふわしたマクラに預け、未だうたた寝おねむの状態にあらせられた。
「姫さま、姫さま……」
「う〜ん……アイリスぅ。あと5分〜」
 常に彼女に付き従う献身的な侍女の鏡、アイリスさんの優しい声にも、むにゃむにゃと夢うつつに生返事。困った様にアイリスさんは、もう一度優しく姫さまに呼びかけた。
「でも姫さま、もう皆さん下でお待ちですし……。そろそろ出発の用意をしないと、あの方たちに追いつけなくなるかも知れませんよ?」
 その言葉を聞くや、がばっとレミットは毛布をはねのけ、ごしごしと両手で目をこすり始める。微笑ましげに彼女を眺めつつ、アイリスさんは手際よく姫さまの着替えを揃えていった。白い絹のワンピースに、赤い襟とピンクのリボンでアクセントをつけた、専用のお忍びルックである。
 もっとも、姫さまがパーリアの町でとある青年と出会い、彼の邪魔をするため(だけ)に結成したパーティで旅を始めてからは、お忍びルックというよりも旅装として扱われている。ところどころに綻びも増えたが、その度にアイリスさんが修繕しているので、品質はさほど落ちず保たれていた。
「あれ? アイリス、それ何?」
 その衣装をもぞもぞと着こみ、背中のリボンを結んでもらっていたレミットは、ベッド脇のテーブル上に置かれていたペンダントを目ざとく見つけた。
 言われて初めて気がついたのか、元から細い目をさらに細めて、アイリスさんは首をかしげる。
「さあ、私は覚えがありませんけど……。どなたかの忘れ物でしょうか?」
「そーなのかな。でも、きれいなペンダント……」
 一瞬、レミットはうっとりとした瞳で、ふぅ、と小さくため息をつく。御年13歳にあらせられる少女ではあるが、だからこそ、こうした綺麗なアクセサリーには純粋に目がないのだ。
 実際、そのペンダントは侍女であるアイリスさんの目から見ても、十二分に価値ある物に思えた。どちらかというとカメオに近く、美しく複雑な模様が細工されている。窓から差し込む朝日を受けて、淡く蒼く輝いていた。
 透き通った光が、微かにゆらめいている。
「ねえ、アイリス。これ、着けてっちゃダメかな?」
「姫さま……」
「大丈夫よ! 誰かのだったら返しちゃえばいいんだし!」
「そう……ですね」
 落ち着かない声で、一応アイリスさんは納得する。確かに姫さまの言う通り、旅の仲間の物であれば、返してしまえば一件落着だろう。でも何となく……悪い予感がする。予感だけなので、何とも言えないのがもどかしい……。
「何ぼーっとしてるの、アイリス! 先に行っちゃうわよ?」
「は、はい。姫さま」
 部屋の扉を開き、ぱたぱたと階下に元気よく駆け降りる姫さまの後を追う。その胸元で大きく揺れるペンダントに対する不安を、拭い切れないままに。
 
 ここは海賊王ブロスの島を望む街道沿いにある、リョウコウの街。
 動物園や東方風の庭園、果てはアトリエや競技場まで備えた、ちょっと大きな街である。レミットたちが先週立ち寄ったコスイの村に比べれば、かなり整備されていると言えよう。当然のことながら宿屋も立派な造りのものがあり、姫さまは久しぶりに、ふかふかのベッドで睡眠を満喫されたというわけだ。
「おはよー、レミット!」
「おはようさ〜ん」
「おはようございます。夕べは、よく眠れましたか?」
 二階から駆け降りてきた姫さまを、三人の少女たちが迎えた。
 一人目は、うさ耳にうさ手足にうさ尻尾が特徴の、フォーウッド族の娘、キャラット・シールズ。明るくて元気で無邪気なのが取り柄……だろうか。
 二人目は、獣人族と人間の合の子である牙人族の娘、アルザ・ロウ。ぼさぼさの赤い髪からピンと飛び出す長い耳が印象的だ。活動的でパワフルで、ついでによく食べる。
 三人目は、少し儚げな雰囲気を持った少女、ティナ・ハーヴェル。長い栗色の髪を首に巻いて背中に流すという、独特のヘアスタイルを貫いているが、それ以外は物腰も丁寧で控えめな娘だ。
 この三人が、パーリアの町でレミットが結成した「第3王女親衛隊」の面々である。その目的はただ一つ。伊勢海……もとい、異世界から来たという青年が、魔宝と呼ばれる5つのアイテムを集めて、もとの世界に戻るのを邪魔すること。これだけだった。
 たったこれだけのために、パーティを結成してしまうレミットの統率力とカリスマは、ひょっとしたら彼女の非凡な才能の証明なのかも知れなかったが、歴史はまだその価値を記録するには至っていない……。
「もう先に、朝ご飯食べちゃったよ?」
「あんまり遅いから、ウチ退屈してもうたねん」
「レミットさんとアイリスさんの分、いま作り直してもらってますから」
 ……と、いうわけでもなさそうだ。
「うう、みんなズルい〜!」
「まあまあ姫さま、寝坊なさったのは姫さまなんですから……」
「でもアイリス! ちょっとくらい待っててくれてもいいと思わない!?」
「はあ、でも……」
 何とかなだめながら、アイリスさんは姫さまを席に着かせる。昨日、宿の主人に頼んで出してもらった、レミット用の高脚ものだ。
「……?」
 レミットが席に座った時、その胸元で揺れた蒼いペンダントにティナが気づく。不思議そうな視線を察したのか、姫さまは彼女に恐る恐る尋ねてみた。
「え〜と、これ、ティナの?」
「いえ……そういうわけじゃ……。でも、どこかで見たような気が、します」
「なら、キャラットかアルザの?」
「どうでしょう……。違うと思いますけど……」
 そう言って、ティナは残る二人に視線を向けた。キャラットはきょとんとした表情で、アルザは目をきらきらと輝かせて、こちらを見ている。
 いや、訂正。アルザの視線はティナを通り越し、給仕の持ってきたレミットとアイリスさんの朝食に注がれている。
「なあ、姫さん〜。ほんのちょっと、ほんのちょっとでええんや〜」
「ダメよ! あたしだって、たくさん食べて早く大きくなるんだからぁ!」
 さっそく、熾烈な争奪戦が開始されようとしていた。
「レミット、大きくなるには牛乳がいいんだよ!」
「ああっ、姫さまっ、そんな、はしたない……!」
 横からキャラットの茶々と、アイリスさんの悲鳴が重なる。ちなみにアイリスさんの分は、とうの昔に半分以上、アルザの胃袋に収まってしまった後だ。
 そして、当然の如く……。
 どんがらがっしゃーんっっっっっっっっ!!!!!
 派手な音を立てて、姫さまの朝食が宙に舞った。
「きゃああああっ!」
「うひゃあああっ?」
「姫さまぁっ!」
 パンにマーガリン、ジャムにスープ、ウインナーにケチャップに牛乳、トマトとレタスの盛り合わせなどが、ばらばらとアルザとレミットに降り注ぐ。がたっと椅子を蹴ったアイリスさんが姫さまをかばおうと動き、間一髪で間に合った……かに見えた。
 だが、宙に舞った様々な食品は、器用にアルザとアイリスさんを避けて全て床に落ち、跳ね返ってレミット一人に集中する。
 びたっ、べしゃっ、ねちゃっ、ぱしゃっ、べとっ、ぬるっ、ばしゃっ、べたっ、ぱさっ……。
 哀れ、我らがマリエーナ王国第3王女殿下は、民衆のクーデターで卵を投げつけられるより、遥かに手ひどい状態まで陥ってしまっていた。
 美味しいはずの朝食で、お忍びルックをべとべとにされてしまった彼女の惨状は、これ以上あえて語るまい。王女の名誉のために。
「ふ、ふえええええええええん!」
「ひ、姫さまぁ! ああっ、どうしてこんな……」
「ウ、ウチのせいじゃないでぇ」
「は、早く片付けなきゃ、お店の人に怒られちゃうよ!」
 てんやわんやの光景にどう対応していいか分からず、ティナはおろおろとレミットたちを見回す。ふと、可哀相なレミットの姿の中で、唯一輝きを保っているペンダントに気づいたのだが……。
「あの……レミットさん……」
「ふえええええん!」
 結局、口を出せないまま、後始末に追われる羽目になってしまった。
 だが、レミットの惨劇は、これに留まらなかった。
 一張羅がダメになったので出発を一日遅らせ、今日は気分転換にリョウコウの動物園へ遊びに行くことに決めたのだが……。
 
 ガラガラガラガラ……、バシャッ。
「おっと、ごめんよ」
 街中で馬車が跳ねた泥は、かばおうとしたアイリスさんを器用に避けて、およそ有りえない軌跡を描いて姫さまに浴びせられた。
 
「うっほほうほうほ!」
 動物園でマントヒヒが放り投げた糞は、ものの見事に姫さまに命中した。
 
「ぱおーん!」
 同じく象が噴き出した水は、キャラットが慌てて張った<アースシールド>に当たって軌道を変え、無理やり姫さまに降り注いだ。
 
「何よぉ、どーしてあたしばっかりぃ!」
 堪忍袋の尾がぷっちんと切れた姫さまが蹴り上げた空き缶は、放物線を描いて、ものの見事にその場を離れた彼女の脳天を直撃した。
 
「もうイヤぁ! こんな野蛮な生活ぅぅぅぅ!!」
 泥と糞が乾きかけたところに水を喰らってべとべとになり、さらには頭におっきなコブをお作りあそばされたレミットは、べそをかきながらアイリスさんにひしっと抱きついて離れようとしなかった。
「姫さま……私がもっとしっかりしていれば……」
 自分の服まで汚れるのも構わず、アイリスさんは姫さまを慰めようと必死だ。ベンチに彼女を座らせ、ぎゅっと抱きしめて、何が来ても守れる体勢を取っている。
「元気出してレミット! こんな事でくじけてちゃ、カイルさんにも負けちゃうよ!」
「そーやそーや! まだ魔宝の一つも取れないマヌケに、負ける訳にはいかへんでえ」
 キャラットとアルザも、自分なりにレミットを元気づけようと頑張っていた。
 ちなみにティナは、レミットの着替えを買いに行っていて、この場にはいない。
「いいもん。どうせあたしは、世界で一番不幸な女なんだもん!」
「姫さま……」
 だが、彼女たちの努力にも関わらず、レミットはすっかりイジけてしまっていた。それもそうだろう。プライドの高い彼女にとって、この様な出来事はとてもではないが耐えられる限界を越えていた。
「アイリス、あたし、帰る!」
 不意に、すっくと姫さまは立ち上がった。
「これ以上、こんなところに居たくない! 部屋に帰る!」
「ひ、姫さまぁ!」
 憮然として、すたすたと歩を進めるレミットを、慌てて追いかけるアイリスさん。残る二人も、その後に続く。
 ふと、キャラットがうさ耳をピンと立てて、不思議そうな声を出した。
「何か、近づいてくるみたいだよ。蹄の音……かな?」
 ドドドドドドドドドドドドドド…………。
 ポロロン。
「大変ですーっっ! 動物たちの、檻の鍵が壊されていますーっっ!!」
 どこからともなく聞こえて来る、説明的な誰かさんの声。
 ドドドドドドドドドドドドドド…………。
 だんだん大きくなって来る、騎馬隊の様な地響き。
「う、ヤな予感……」
 ドドドドドドドドドドドドドド…………!!!!
「い、いやああああああああああっっっっ!!!!」
 すっぽーん。
 きらりーん!
 哀れ、可哀相なお姫様は、動物たちの群れに撥ね跳ばされ、お星様となって消えていきましたとさ。めでたしめでたし……。
「姫さまあああああああああああっっっっ!!!!」
 後に残るのは、ただただ、アイリスさんの悲鳴だけ……。
 
「クックックック、ハッハッハ、アーッハッッッハアハハハアア、ゼヒ、ゼヒ……」
 そんなレミットたちの惨状を、木陰からじーっと覗く魔族が一人。
 言わずと知れた、カイル・イシュバーンその人である。
「ゲホゲホ……。と、とにかく成功だな、この作戦は! 流石はオレ様! 素晴らしきかな、『呪いのペンダントでボコボコにしちゃうぞ作戦』!!」
 バックに星などきらめかせて、うるうると自分に酔っている。
 傍から見ればどう見てもバカにしか見えない彼の通称は、バカイル。我らがマリエーナ王国第3王女、レミット姫直々の命名という、ありがたーいアダ名である。
「クックック。そもそも、あのガキんちょは前々から気に入らなかったのだ。なーにが、バカイルだ! 偉大なる大魔王様復活に情熱を燃やす、魔族オブ魔族のオレを指して、バカイル呼ばわりなどしおって……。よりにもよってバカイルなどと……」
 だが、どうも本人は気に入ってないらしい。
 それどころか、コンプレックスすら感じている様だ。所詮はバカ魔族。姫さまのありがたーい御心が理解できないのだろう。
「しかし! これに懲りれば、二度とオレの邪魔をしようなどとは思わんだろう! あのメイヤーの遺跡フェチも、たまには役立つ事があるのだな! さすがオレ様、こうなる事を見越してパーティを結成するなど、真の天才にしか為しえん事だ!」
 レミットが消えていった青空に吠えるカイルの手には、大っきなスパナが握られていた。よく見れば彼の衣服やマントに、動物たちの毛がかなり付いている。さらに目立つことには、その背中側に幾つもの足跡がくっきりと印されていた。
 彼がどんな陰謀を企み、どんなロクでもない目にあったかは、ご推察の通りである。
「ふぅん……そういう事、だったのね」
「なっ?」
「動かないで! 動くと首が飛んじゃうから……クスクス」
 不意にかけられた声に、思わず振り向こうとしたカイルは、その首筋に細く冷たいモノを感じて、動きを硬直させた。
 かろうじて視界に入る限りでは、背後にいるのは女の様だ。細い指が銀糸を握っているし、声もどこか聞いたことのある感じの少女風だ。
「貴様……気配も感じさせず、オレの背後を取るとは……何者だッ!?」
「フフ……貴方みたいなバカの背後を取るなんて、サルでも出来ることよ……」
「な、何だとッ?」
 怒りの余り、拳を振り上げようとしたカイルの首に、キュッと銀の糸が食い込む。
 普通だった顔色が、やや青く変色し始める。
「……それで、オレに何の御用でしょうかぁ?」
 態度豹変。カイルは仲間たちを全員、義勇団のバイトに放り込んで来た事をいたく後悔していた。
「大した用じゃないわ。レミットさんの着けてる、呪いのペンダントの具体的な効果と外し方を教えて」
「き、貴様! 何故それを!」
「今、自分で吠えてたコト、もう忘れちゃったの?」
 呆れた声。さらにキュッと、銀の糸がカイルの首に食い込んだ。
 少しずつ、カイルの顔色が赤くなっていく。
「む、むーっ、教えます、教えます! アレはただのマジックアイテムでーす! 効果は周囲の攻撃を一人に集中させるもので〜。単なるアイテムですから、外そうと思えばカンタンに外せまーす!」
「ホントに……?」
 さらに、キュッ。
 今度は紫。器用な男である。
「む、むぐぐぐぐっ、ホ、ホントだーっ! オレ様自ら試したッ! 嘘は言わん!」
「そうなの……。夕べ、貴方がレミットさんのベッドの傍に現れて、ペンダントを置いていった時、あんまり頬が緩んでいたものだから、てっきりそういうヒトかと期待してたのに……残念ね」
 さらに、キュキュッ。
 紫を通り越し、ドス黒く顔色が悪くなる。
「む、むぐぐぐぐぐぅっっっ!」
 キュッ、パタン。
 いやにあっけなく、魔族オブ魔族あるいはバカイルこと、カイル・イシュバーンは地面に転がった。口から泡がプクプクとこぼれ、目はぐるぐるうずうず状態である。
「ふふ……殺すつもりなんかないわ……。私、貴方にも興味あるもの……」
 優しいというより、妖しい微笑を浮かべながら、その少女は手に持った糸巻きに、するすると器用に銀の糸を収めていった。
「でも、今はレミットさんが彼を追っかける事、邪魔されるわけにはいかないのよ。悪く思わないでね、バカイルさん……」
 細く白い指で、そっとカイルの頬を撫で、彼女はすっとその場を立ち去った。
 一連の動物大脱走騒ぎのせいで、この光景を見た者は、幸いにも誰もいなかった。
 もし居たとしたら、容赦なく……。
 
「ぶっ殺してやるんだからぁ!」
「ひ、姫さま! そんな、はしたない!」
 辛うじて宿屋に辿りついたレミットは、ティナの提案で昨夜のセキリュティー水晶玉の映像を鑑賞し、全ての真相を知った。
 ちなみにセキリュティー水晶玉とは、一部の宿屋や売店、酒場やコンビニエンスストアなどが採用している、防犯用の映像記憶媒体の一種である。普通のクラスの宿屋では高価で置けない代物だが、たまたまレミットたちが泊まった部屋は、この街でもトップクラスのロイヤルスイートだったため、これがあったのだ。
 見れば、確かに空中からカイルが出現し、レミットの寝顔を見ながらほくそ笑む。
 そして懐から例の蒼いペンダントを取り出し、サイドテーブルに置いて去っていく映像が、エンドレスで部屋の壁に投影されていた。
 ご丁寧にも、カイルは怪しいほっかむりをしていたが、それはまあ、この際ワキに置いておく。
「でも、アイリスぅ。どうしよう、コレ……」
「どうやら呪いのペンダントのようですから、迂闊に触る訳には……」
 おずおずと、アイリスさんの伸ばした指が、ペンダントに触れるか触れないかのところで止まる。
「あーあ。ペンダント着けたのがウチやったらなぁ。さっそく焼肉屋に行って、ひと暴れするところやのに〜」
「え〜。どうしてかな?」
「ほな、ケンカして飛んで来た食いもん、ぜーんぶウチのもんやろ?」
「なるほどね! アルザ、賢いね〜」
「へへ、そやろか?」
 決死の覚悟で大ジャンプをかまし、何とかレミットを救ったアルザとキャラットだが、取り立ててペンダントの解呪には役立ちそうもない。
 少し潤んだ瞳で、姫さまはティナの方を見た。
 ティナはティナで、何やら必死に考え込んでいるようだ。
「あ……」
「どうしたのティナ! 何か思いついたの!?」
「思いついたというか……思い出したというか……」
「何でもいいから、早く教えて!」
 さすがに今日一日ひどい目に会って来ただけあって、レミットも必死である。
「はい。そのペンダント、多分カンタンに外せます」
 言うやいなや、ティナはレミットの首筋に細い指を添え、あっさりペンダントを外してしまった。
 おお〜、と一同が感心した眼差しで、彼女に注目する。
「どうして分かったんですか、ティナさん?!」
「はい、アイリスさん。ええと……カイルさんの為さる事ですから、多分、こんな事じゃないかなって思っただけなんです」
「がくー」
 あからさまに、姫さまは肩を落とす。言われてみれば、確かにカイルの企む陰謀はその手のオチが圧倒的に多い。上手く行った試しを、実は見たことがないほどだ。
「やっぱり、バカイルぶっ殺す……!」
「レミットさんっ」
「なあなあ、姫さん。外せたんなら、そのペンダント貸して〜なぁ」
「この街に焼肉屋はないわよ?」
「ええんやそんなもん。酒場に行けば、ぎょうさん食べ物、集まるさかいな」
「いいな〜、ボクも行きたいっ!」
「ダメったらダメ! こんな物騒なペンダント!」
「ええやんか〜姫さん〜」
 それにしても、問題が解決したと思われた途端、これである。ある意味、和気あいあいとしたパーティなのだろうが、とても「親衛隊」には見えない。
 実のところ、このパーティ名は、旅先で旅費を経費で落とすため、アイリスさんが提案したものなのだが……その話は、また後日。
「ああっ!」
 不意に、そのアイリスさんが叫ぶ。彼女の声に、皆シーンとして振り返った。
「カイルさんの企みという事は、もしかすると……」
「そーよっ! 絶対アイツのところにも行ってるわ!」
 姫さまの脳裏に、ピンと走るものがあった。バカイルの行動パターンなど、所詮タカが知れている。魔宝を巡るもう一人のライバルである、彼のところまでペンダントを持って行ったに違いないのだ。
「それなら、早く助けに行ってあげませんか、レミットさん?」
 優しい口調で、ティナが言う。
「せやな。この前、昼飯おごってもらった恩もあるさかいな」
「わーいっ、ボク、フィリーちゃんたちにも会いたいなっ」
 元気よく、アルザとキャラットも口を揃えた。
「決まりっ! じゃあ、さっそく出発の準備よ、アイリス!」
「はいっ、姫さま!」
 幸せそうに、アイリスさんは目を細めた。こんな生き生きとしたレミットには、窮屈な王宮では絶対に会えない。
 姫さまと旅に出て良かった。そう思うアイリスさんであった。
 

 
ちょっと長い中書き・2
 
・第3王女親衛隊について
 メンバーは、我らがマリエーナ王国第3王女たるレミット姫(くどい?)に、アイリスさん。アルザ、キャラット、ティナです。テーマは「人外部隊」(笑)。よく見ると牙人族にフォーウッド、ヴァンパイアハーフと、一人たりとて人間が居ません。まあ、たまにはこういうのもいいんじゃないでしょうか。
 パーティ名の由来については、本文参照のこと。
 ふと思ったのですが、子供まじりのレミットパーティが、主人公やカイルのパーティと同じペースで旅が出来るのは、実はアルバイトしなくていいからなのでわ……。
 
・レミットについて
 相変わらず、元気で、わがままで、愛らしい姫さまです。
 今回の受難の少女(笑)。彼女をいぢめるなんて、私にはとても(後略)。
 
・アイリスさんについて
 このパーティの苦労人です。レミットのお守りだけでも大変なのに、他のメンツがキャラットにアルザじゃあ……。その分、ティナとは仲がいいでしょう。
 
・キャラットについて
 うさぎです。他に何を書けと(笑)?
 一応、<アースシールド>まで修得してます。
 
・アルザについて
 このパーティのボケ要員(?)です。あまり目立ってませんが……。レミットにくっついてると、食費が浮くので幸せかも。
 
・ティナについて
 おとなしく控えめで、丁寧な彼女は、ややもするとアイリスさんと区別がつかなくなりかけます。上手く書いてあげられたでしょうか……?
 セリフも少ないし、オレンジシフォンケーキもないし。すまん、ティナ。
 
・ダークティナについて
 実はパーティの裏の主役だったりします。今回は顔……もとい、セリフ見せ程度ですが。そのうち活躍……するとヤバいかも(笑)。ちなみに、ダークティナは主人公もカイルも狙ってるので気をつけよう! 文字通りの意味だから誤解しないように。
 
・魔宝とロクサーヌとバカイルについて
 魔宝争奪戦、第三戦を終わっての結果は、各パーティ1勝ずつです。内訳は、
 
一戦目:主人公パーティ(青の円水晶)
二戦目:第3王女親衛隊(銀の糸)
三戦目:カイル殺リク部隊(白の聖鍵。但し主人公に譲渡)
 
 と、させて頂きました。
 よって、カイルくんは魔宝をまだ一つも手に入れていないので、本文でのアルザの台詞は正しいのです!(爆)
 ロクサーヌは、何故か動物園に居たかもしれないけど(笑)、奴のことだからきっと、神出鬼没でいつ現れてもおかしくありませんね。でもどうやらカイルくんとも、レミットちゃんとも同行はしていないようです。今のところ。
 バカイルの扱いは、今回もヒドいですが、それでも彼はキャラット&アルザよりも愛着を感じます。ナゼだろう……?(レミットとアイリスさんとティナが居るからだな!)
 
 中書きなのに、長くなりました。今回はここまでです。
 次回は主人公パーティだね。仲間がリラに若葉にウェンディだね。
 問題児集団が残りましたが、頑張ってね〜。
 

 
第一話へ     二次創作文庫メニューへ     第三話へ
 
HOME