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第一話:古代の神秘はいつもハタ迷惑、の巻。
 
 ここは海賊王ブロスの島に程近い漁村、コスイ。
 普段は海賊王の島に近づこうなどという奴もいないので平和で静かな村なのだが、ここ数日なんだか騒がしかった。
 まず、なんだか見慣れぬ格好をした青年と三人の少女、そして一人の妖精という一行が村を訪れ、彼らと入れ替わるように金髪で元気な少女とその連れらしい娘が四人やってきた。
 金髪少女率いる一行が村を出立して、ようやくもとの静かな生活が戻ってくると村人が思っていた、そんな時のこと。
「ほら、カイルクン! いつまでも落ち込んでないで! いつまでもくよくよしてたってしょうがないでしょう?」
 頭にバンダナを巻いた女性が、黒服の青年…信じられないことに、どうやら魔族らしい…の手を引っ張りながら村に入ってきた。
「やはり捨てていった方がよいのでは?」
 そんな二人を呆れ顔で見ながら、大きな丸メガネをかけた少女がついてくる。
「・・・・・・」
 そして、そんな三人から一歩遅れて、黒髪の物静かな少女が続いていた。
 彼らは、「魔宝」というアイテムを探すために旅を続けている「カイル殺リク部隊」の面々である。なお、断じて「戮」が書けなかったわけではない。
 もともと、このパーティは、今はバンダナの女性…名をカレンという…に手を引かれとぼとぼ歩いている魔族の青年カイルが無理矢理作ったものである。だから当然リーダーはカイルなのだが、今の彼はまるで抜け殻のようだった。
 その理由は海賊王ブロスの島の出来事だった。カイルは見事ブロスの亡霊を打ち倒し、魔宝「白の聖鍵」まであと一歩と迫りながらも、それが魔宝だと全く気づかず、同じく魔宝を集めているライバルにそれをあっさり…しかも、彼自身の手で…渡してしまったのである。
 そのショックで真っ白に燃え尽きてしまったカイルをなだめてすかして引きずって…カレンたちはなんとかこのコスイまでたどり着いたというわけだ。
 さて、ここまでの経緯を説明している間に彼らは宿屋にたどり着いたようである。チェックインを済ませ部屋にカイルを引っぱり込み、彼をベッドに座らせてカレンはようやく一息ついた。
「ほぉらぁ! いつまでも落ち込んでないの! 早く立ち直らないと、魔宝全部取られちゃうわよ!」
 とかいいながら、業を煮やしたカレンはカイルの頬を二三発軽くひっぱたいてみる。それでもカイルは、焦点の定まらない目で虚空を眺めながら何やら訳の分からないことをぶつぶつつぶやいているだけだった。
「…はあぁ…」
「お疲れのようですね」
 そんなカレンに、最後についてきた黒髪の少女…名を楊雲という…が、表情一つ変えずに話しかけてくる。
「どうにかならないかしらねえ、カイルクン」
「…放っておけば、いずれ立ち直りましょう…。いつまでも悩んでいられるような、繊細な人ではありません…」
「まあ、そうだとは思うんだけどね…。で、どうしたの?」
「お食事の用意が調ったそうです」
「わかったわ…」
 歩きだそうとしたカレンは、心配そうにカイルを振り向く。
「空腹に耐えられなくなれば、勝手に食べに来るでしょう」
 そんなカレンとカイルを見て、楊雲は言う。カレンは苦笑しながら頷いた。
 
「あ、お先に失礼してますよ」
 カレンと楊雲が宿屋の一階に降りていくと、最後の仲間メイヤーが、すでに一人で食事を始めていた。
「どうしたの、メイヤー?」
 カレンがテーブルに着きながらいぶかしげに尋ねた。メイヤーが、やけに楽しそうな顔をしていたから。
「実はですね、この近くに興味深い研究テーマを見つけたのです」
「また遺跡?」
「もちろんです」
「よくそういつもいつも遺跡見つけられるわねえ」
 半分感心し、半分呆れてカレンが言うと、メイヤーはさも意外、といった風情で言葉を返した。
「あら、カレンさん。古代の遺跡というものは人々の生活の跡なのですから、昔から人の暮らしているところであればどこにでもあるものなのですよ。にもかかわらず人々がそれに気づかないということは、先人の遺した偉大な文化を敬う心が失われ始めているということではないでしょうか。実に嘆かわしい限りです。そもそも…」
「そ、それで、その遺跡を調べに行こうっていう訳なのね?」
 あわててカレンはメイヤーの言葉を遮る。このまま放って置いたらメイヤーは、大学で一年間講義ができるくらい話し続けてしまうだろう。
「おっと、そうでした。研究の時間が惜しいので急いでいるのです。今までカイルさんは私の研究を一切許してくれませんでしたからね、この隙を逃す手はありません」
 言うが早いか、メイヤーは食事を再開する。そして見る間に食べ終わると、パンだのチーズだのをザックに手当たり次第放り込み、「では!」と残った二人に手を挙げ、すたこらさっさと駆け出してしまった。
「元気ねえ」
「…いつものことです…」
 楊雲はそんなメイヤーの様子にも眉一つ動かさず、静かに食後の烏龍茶を飲んでいた。
 その遺跡は、コスイ近郊の崖にあった。引き潮の時だけ入り口が現れるらしい。
「ここが…」
 ランプを掲げ、メイヤーは足を踏み入れる。しばらくは天然の洞窟だったが、やがて明らかに人工のものである石組みが見え始める。
「ふ…ふふ…ふふふふふ…」
 古い遺跡を前にして、メイヤーの口から不気味な含み笑いが漏れる。
「ふふふはははは……ヒーッヒッヒッヒッ」
 含み笑いは哄笑に変わり、徐々に人間離れしていく。遺跡には実はモンスターも何匹かいたのだが、メイヤーの笑い声に皆恐れをなしてしまった。
「お…おい、何だよあの人間」
 と、モンスターA。
「や、やべーよ。ホントに人間か、あれ?」
 と、モンスターB。
「けっ! ビビってんのかよてめーら!? あんな人間なんざ俺さまが一撃だぜ!」
 と、勇敢なモンスターCがメイヤーの前に躍り出たが、
「ライトニング・ジャベリン!」
「ぎゃーっ!」
 一撃で完全に沈黙してしまった。
 …教訓。遺跡で悦に入っているメイヤー女史の邪魔をしてはいけない。
 
 そんなこんなで、メイヤーは遺跡の一番奥までやってきた。奥には祭壇らしきものがあり、何かを封印しているような図形が描かれている。
「これは…」
 メイヤーは床に座り込むと、ザックから本を取りだし、急いでページをめくった。
「これでもない…この本も違う…」
 ぶつぶつ言いながら、ザックから次々と本を取り出すメイヤー。今や取り出された本の体積は、明らかにザックの容量を超えている。まさに古代の神秘。
「あった! これだわ!」
 本の山を二つ三つ築き上げた後、メイヤーはついにお目当ての資料を見つけだしたようだ。図形のあちらこちらをうろうろしながら、何やら呪文をぶつぶつ唱える。最初の呪文で図形は光を放ち始め、メイヤーが呪文を唱える毎にそれは強くなっていった。そして、
「…これで封はとけるはず」
 最後の呪文を唱え終わったメイヤーの目前で、図形は、祭壇ごと左右にばっくりと割れた。期待に目を輝かせ、メイヤーは祭壇の下をのぞき込む。
「これは…!」
 
「ねえカレンさん」
「あらメイヤー、帰ってたの?」
「実は、いつもお世話になっているカレンさんにほんのお礼のしるしを…と思いまして」
 ニヤリと怪しげな笑みを浮かべ、メイヤーはカレンに古びた石の箱を差し出す。
「・・・・・・」
 冷や汗をかきながら、不気味な石の箱とそれ以上に不気味な笑みを満面にたたえた不気味なメイヤーを代わる代わる見つめるカレン。恐る恐る石の箱を受け取り、蓋を開けると、中にはカメオのようなペンダントが収まっていた。なかなか美しいものなのは間違いないのだが、このペンダントから…そして、それを渡したメイヤーから、かなりヤバい雰囲気が伝わってくる。
「ご…ごめんねメイヤー、私、あの、えーと…ほら、いつも剣振り回して戦ったりしてるから…こういう揺れるものは、ちょっと…。気持ちだけ受け取っておくわ、ありがとうね」
「そうですか…それは残念ですね」
 メイヤーは心底がっかりしているようだった。だが、カレンはまだ自分の身が可愛い。肩を落として立ち去るメイヤーの後ろ姿を見ながら、ほっ、と安堵のため息をついたのだった。
 
「ねえ楊雲さん」
「…何か…?」
「実は、いつもお世話になっている楊雲さんにほんのお礼のしるしを…と思いまして」
 ニヤリと怪しげな笑みを浮かべ、メイヤーは楊雲に古びた石の箱を差し出す。
「・・・・・・」
 楊雲はそれでもなお表情一つ変えずに、石の箱とメイヤーを代わる代わる眺める。
「この箱の中から…」
「え?」
「危険な気配を感じます…」
「! …い、いやですねえ、そんな…!」
「それに…」
「え?」
「貴女から…とても悪い気を感じます…」
「は…ははは…あはははは…」
 ばつの悪さをごまかすようにメイヤーは笑うと、石の箱を後ろ手に隠し、すごすご立ち去った。
「…そういえば…。先程、カイルさんに死相が…」
 楊雲は、メイヤーが立ち去った方を見るともなしに眺めながら、テーブルの上の桃饅頭を手に取り、ふう、とため息をついた。
 
 案の定というか、何というか…。
 次の日、無理に出発させようとカレンがカイルを引きずり出しに行ったときには、カイルの首には例のペンダントがかかっていた。
 カレンと楊雲がメイヤーを見ると、彼女は、そのペンダントが入っていた石の箱をいろいろ眺めながら、分厚い本をひもとき、
「この文字は…うぅん…。D…? ならこちらもDだから…。D…D…」
 などと訳の分からないことをつぶやいている。
「メイヤー、そろそろ出発するわよ」
「え? あ…はい…。D…。まあ、カイルさんを見ていれば…」
「何か言った?」
「いえいえ何も」
 何やらよからぬことを企んでいるに違いないメイヤーと、そんなメイヤーに警戒感を露にするカレン、相変わらず表情一つ変えない楊雲、そして相変わらず抜け殻のカイルが宿を出発しようとした、そのときだった。
「この野良猫め!」
 宿のおかみが、ごみ捨て場をあさっていた野良猫に、ほうきの柄を力一杯振り下ろした。野良猫がそれを避けようとしたその瞬間、
 ぐあしっ!!
「カイルクン!?」
 なぜか、そのほうきはカイルの脳天を直撃した。
「ぐああああ!!」
 さすがのカイルも抜け殻でい続けることができなくなったらしく、頭を抱えてのたうち回る。
「ちょっと!」
 カレンが詰め寄るが、一番困惑しているのは殴った当のおかみだった。確かに猫を叩いたはずなのに…。
「何をするっ!!」
 ようやく抜け殻状態から脱したカイルはおかみを怒鳴りつけた。おかみはただひたすら平謝りに謝り、カイルも腹立ちがおさまらない様子だったがとりあえずその場は大事にならずに済んだ。
 だが、カイルの受難はそれでは済まなかった。
 
「あー、ヘビだー。石なげてやれー」
 石はすべてカイルに当たった。
 
「ああ! 子供が魔法馬車にっ!」
 次の瞬間はねられたのはカイルだった。
 
「なんて大きな猪だ。すげえ獲物だぜ、一撃でしとめてやる」
 カイルの眉間に矢が突き刺さった。
 
「いいかげんにしなさい!」
 ツッコミの裏拳はカイルに直撃した。
 
「どういうことだ一体ッ!?」
 ほうきと小石でコブができ、馬車にはねられだばだば血を流し、眉間に矢が刺さったままのカイルが、仲間三人にくってかかった。
「…よく、生きてますね…」
 楊雲が呆れたようにつぶやく。
「カイルクン、ようやくいつもの調子に戻ったみたいね、そーじゃなくっちゃ。おねーさんうれしいわ」
 カレンがニコニコ笑いながら、カイルの肩をぽん、と叩く。
「ほほう…なるほど…」
 そんな中、メイヤーだけが一人、一生懸命本をめくっている。
「おい」
「この効果からして…かかっている魔法は…」
「こら」
「…とすると…この文字は…」
「貴様!」
「おお! 未知の文字体系が明らかに! 素晴らしい! 世紀の大発見ですよカイルさん!」
「いいかげんにしろーッ!」
 ついに、カイルはメイヤーを怒鳴りつけた。
「…カイルさん」
 次の瞬間、カイルの脳天から、ぴゅーっ、と血が噴き出し、
「…興奮すると…血が止まりませんよ…」
 という楊雲の言葉を聞きながら、彼はその場にぶっ倒れた。
 
「ヒーリング・ウェイブ」
 楊雲の魔法でどうにか復活したカイルは、改めてメイヤーに詰め寄った。
「さあ。説明してもらおうか」
「実はですね。私、昨日この近くの遺跡の調査に出向きまして。その遺跡というのは他でもない…」
「遺跡はいい。この理不尽な現象を説明しろ!」
「そのペンダントを身につけたカイルさんに起こった現象を鑑みると、この文書のこの部分が解釈できまして。それによると古代…あるいは異世界か…まあ、このあたりは解読がまだなんですが、そこでの魔法には現在使われていないものがいくつもありまして…」
「回りくどい解説はいいと言っているんだ! 核心部分をかい摘んで説明しろ!」
「せっかちですねえ。まあ、いいでしょう。そのペンダントをつけている者には、周囲の攻撃がすべて集中します」
「な…なんだと?」
「ですからこのように…」
 メイヤーは遠くの木を指さし、
「エネジー・アロー」
 簡単な呪文を唱えた。次の瞬間、呪文はカイルに炸裂した。
「どこに攻撃しても、当たるのはペンダントをつけている人、というわけです」
「…実演はいい…」
 今のエネジー・アローで再び傷が開いてしまったらしく、カイルは再びだらだら血を流しながら言う。
「そんな危ない物をオレに着けたのか貴様はっ!?」
「いやあ、昨日の時点では効果がわからなかったもので」
「オレで試すなッ!」
「おかげで古代の魔法体系と未知の文字体系が明らかになったのですよ。考古学の歴史に残る大発見です。記念にこの文書をカイル文書と名付けましょう」
「考古学に名前が残っても嬉しくないわ!!」
「だから…興奮すると…」
 ぴゅー。
「あ」
 
「とにかく、このペンダントは危険な代物だということだな」
 ようやく落ちついたカイルが、ペンダントを外してメイヤーに押し返しながら言う。
「そうですね。呪いのアイテムの一種でしょう」
 メイヤーは石の箱にそれを戻しながら言った。どうやらこの箱に入れておけばペンダントは効果を発揮しないらしい。
「で? どうするのそのヤバいペンダント?」
「捨ててしまえそんな忌々しい物!」
 カレンが尋ねると、メイヤーが何か言うより早くカイルが怒鳴った。
「これは考古学上の遺産なのですよ!」
 メイヤーが不満顔で反論した。
「黙れ! そんなものがあっては安心して戦うこともできんではないか! 
 …待てよ? 戦えない…? …ふーむ…」
 カイルはふと、石の箱を見つめながら考え込む。
「メイヤー。そのペンダントは一つだけなのか?」
「いいえ。全部で三つ発見しましたが。それが何か?」
「…ふふふふふ…」
 メイヤーの返事に不気味な含み笑いをもらすカイル。
「何かロクでもないこと考えついたわね」
「…いつものことです…」
 あきれかえるカレンと楊雲を後目に、カイルは、メイヤーから箱ごとペンダントをひったくると、一人、燃え上がる炎をバックにいきり立った。
「そうだ! これさえあればヤツもガキんちょもオレの邪魔などできんではないか! 素晴らしい! 天才のオレならではの実にワンダホーな作戦だ! 名付けて! 『呪いのペンダントでボコボコにしちゃうぞ作戦』!!」
「おねーさん、ネーミングまでわかりやすいのはやめた方がいいと思うナ」
「…こんなものでしょう…」
「壊さないで下さいよ。貴重な資料なんですから」
 パーティの面々の冷たい視線をよそに、カイルのロクでもない陰謀が、今、始まった。
 
<つづく>
 

 
ちょっとした中書き
 
・カイル殺リク部隊について
 メンバーはカイルに楊雲、カレン、そしてメイヤーです。いや、私がEMやるとカイルパーティがこのメンバーになることが何故か妙に多いんで…。
 
・カイルについて
 どちらかというとCD版EMのカイルかな。まあ、バカイルであることに違いはありません。
 
・楊雲について
 このパーティのツッコミ要員。今回のテーマは「点心楊雲」(なんだか韻を踏んでいていいかんじ)です。だって楊雲に烏龍茶とか桃饅頭って、似合いそうな気がしません? まあ、あずきのかき氷もいずれ機会があれば。
 
・メイヤー女史について
 このパーティのトラブルメイカーにして、この話全体の発端を作る役です。本編・小説・CDのすべてのヤバさを抽出したようなメイヤーになっているので、かなりヤバいです。
・カレンさんについて
 いろいろカイルの世話を焼いていますが、別にカイルに特別な感情があるわけではありません。彼女は「おねーさん」ですから、抜け殻カイルを放っておけなかっただけです。 
 

 
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