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STAGE 6 WINNER ver.2
「で? いいことって一体何なのよ?」
 船の上でレミットはフィリーに問う。
 まともに食事も採っていなかったアイリスの体調がようやく戻り、出発できるようになったのはいいものの、一行には行くあてがなかったのだ。楊雲の話はメイヤーから聞いていたものの、その楊雲がどこにいるかもわからない。途方に暮れていた一行に、
「いいからこの船に乗るのよっ!」
 とフィリーが主張した。他にいい意見もなかったため、フィリーとロクサーヌを加えた一行はそのまま船旅と相成ったわけだ。が、当然、フィリーがどうしてそんなことを言い出したのかという疑問は残る。そう言えば最初にフィリーが姿を現したとき、「いいこと教えてあげようと思ってきた」と言っていたっけ。それを思い出したレミットはその疑問をぶつけてみたというわけだ。
「慌てなくてももうすぐ港に着くわ。そうすればわかるわよ」
「?」
 一行は首を傾げるが、確かに視界にはもう陸が見えている。アイリスの出来事があってから、皆、旅をするにしてももう少しのんびりと、と思っていたので、それ以上あわてて追求しようとは思わなかった。

 港についた一行は、思わぬ顔をそこに見つけて驚いた。
「カ…カレン!?」
「はあい。みんな、久しぶり」
 旅立ちの時に別れたきりだったカレンが、そこに待っていたのだ。
「どうしたのカレンさん、こんなところで?」
 キャラットがまず駆け寄って尋ねる。その問いにカレンはいたずらっぽく笑うと、荷物をごそごそと探り、何か白いものを取り出した。
「まあ! そ、それは…」
 若葉が驚きの表情をあらわにする。
 若葉ならずとも、皆が声を失った。カレンが取り出したそれは、第三の魔宝・白の聖鍵だったのだから。
「この間の冒険で偶然見つけたのよ。それで、これはレミットちゃんに渡してあげなきゃな、と思って、フィリーちゃんに伝言をお願いしたの」
「カレン…」
 感動のあまり目をうるうるさせているレミットの後ろで、アイリスは首を傾げる。
「あの、カレンさん?
 そちらの方は…」
 アイリスの視線の先には一人の男がいた。先ほどまで一度も口を挟まなかったが、カレンの連れであることは明らかだ。
 がっちりした体躯のたくましい男だ。人の良さそうな顔をしてはいるが、なぜか両手に風変わりな形の棍を持ち、いつでも戦える姿勢でいる。
「ああ、こいつ? こいつはレイナス、私の冒険仲間よ」
 そこまで言ったカレンの目が、突然鋭くなった。
「腕は確かなヤツよ。
 レミットちゃん? 貴女がこの先まだ旅を続けていけるかどうか、もう一度だけ、試させてくれるかな?」
 なるほど。白の聖鍵は、それでカレンを納得させられたら、というわけだ。
「…いいわよ。うけてたってあげようじゃない」
 レミットはゆっくり剣を抜く。それを見たレイナスという男は小さく笑うと、カレンを振り向いた。
「おい、本当に大丈夫なのか?」
「…甘く見ないことね。もしかすると今のその子、私以上かもしれないわよ」
「まさか」
 レイナスの笑みは消えない。が、カレンが言うなら、といった風情で、まるで子供の遊びの相手でもするかのように、一応、といった態度が見え見えの構えをとる。
「さ、どっからでも来いよ」
 言った次の瞬間、レイナスの表情が引きつる。信じられない速度でレミットが斬り込んで来たからだ。
「…っ!」
 それでもレイナスは手にした棍で、その斬撃を受け止める。
「…ほう。鉤棍とは珍しい得物ですね」
 ロクサーヌが目を細める。キャラットが首を傾げて尋ねた。
「とんふぁー、って?」
「見た通りの形の棍なのですが…。腕に密着した形で構えられるので防御力に優れ、持ち手を軸に回転させればその遠心力で通常の棍を上回る打撃力を生み出すことができます。しかも、あのトンファーは鋼ですね。彼がそれを軽々と振り回せるだけの筋力を持っていることを考えると、殴られたら痛いでしょうね」
 斬り結んだままの姿勢で力比べを続ければ、さすがにレミットの方が分が悪い。押し返してくるレイナスを横にいなし、レミットは距離をとった。が、その瞬間レイナスはにやりと笑う。
「!」
 かなりの距離をとったはずが、レイナスはそれを一気に詰めてきたのだ。先ほどのレミットのそれを上回る凄まじい踏み込みである。
「レミットさん!」
 若葉は悲痛な声を上げるが、アイリスは落ち着いていた。
「大丈夫ですよ。剣に比べて遙かにリーチの短いトンファーを使っている相手なのですから、近接戦が得意だし踏み込みも疾い、ということくらい、姫さまはとっくに見切っています」
 アイリスの言葉通り、レイナスのトンファーはむなしく空を切る。レミットの姿はレイナスの頭上にあった。
「ウィンド・ウィング!」
 空中でレミットは術を解き放つ。そして取り込んだ風の精霊の力で、着地もせぬまま方向を変えると、地上に降り立つなり先ほどに倍する速度で再びレイナスに斬りかかった。
「くぅっ!?」
 辛うじてトンファーでそれを防ぐレイナス。
「…お嬢ちゃん程度の力なら、まともに受けたってどうってことはないぜ」
「…鋼でできてるからね、それ」
 言ってレミットは意味深長な笑みを浮かべる。そして次の瞬間、
「ライトニング・ジャベリン!」
 彼女が放った稲妻の槍がまともにレイナスを襲った。鋼のトンファーはその雷撃を余すところなくレイナスの腕に伝える。
「がっ!?」
 電流で筋肉が異常に収縮し、彼の意志とは関わらず、左手のトンファーを放り出させた。「ちぃ!」
 レイナスはあわてて跳びすさり、魔法を放つ。それを見たカレンは、ふう、とため息をついた。
「勝負、あったわね」
「え?」
 フィリーが怪訝そうな顔で問う。
「あいつ、魔法ヘタなのよ。動いてる相手にはまともに当てられないくらい。
 距離を離したら勝てる相手にも勝てないわ」
 次の瞬間、レミットのクリムゾン・ナパームでハデに吹っ飛ばされるレイナスの姿が、カレンの言葉を如実に証明していた。

「な、なんだ、このコはっ! デタラメに強いじゃないか!」
「言ったはずよ、私以上かもしれない、って。
 正直ここまでとは、私にも予想外だったけど」
 一瞬でボロボロにされたレイナスが、カレンにくってかかっていた。半分は、年端もいかない女の子に手も足も出なかったことへの苛立ちなのだろうが。
「はいはい、恨むんなら未熟な自分を恨むのね。あんたの出番はもうおしまい」
「な…なんだよそりゃあ!?」
 なおもレイナスは抗議の声を上げるが、もうカレンはそれには取り合わなかった。優しく、そして満足げに微笑みながら、レミットの肩に手を置く。
「…正直に言うとね。私、レミットちゃんが飽きたりしてないかって思ってたのよ。
 同じ想いを抱き続けるのは難しいわ。まして、相手が目の前にいてくれないんだもの。
 気持ちがぐらついているのに惰性で旅を続けてたんじゃ、周りのみんなのためにもレミットちゃん自身のためにも良くないと思ったから…試させてもらったの。
 要らない心配だったみたいね。余計なお節介をしてごめんね」
「ううん…そんなことない」
 レミットは静かに首を振る。そして、迷いのない笑みを浮かべた。
「うん、合格!
 じゃあ、はい、これ」
 にっこり笑って白の聖鍵を渡すカレンだったが、次の瞬間、その表情が厳しく引き締められた。
「…実は、こんなことをしたのには、もう一つ理由があるの。
 …カイルクンが、魔宝を狙ってるわ」
「バカイルが!?」
 かつての旅で仲良くケンカしていた自称悪者の魔族の青年の顔を、レミットは思い浮かべた。バカで間抜けでお人好しというおおよそ魔族らしからぬ奴だが、その目的は大魔王復活・世界征服という剣呑なものだ。今回魔宝を狙い始めた理由も、確かめるまでもないだろう。そしてそんなカイルでも、実力の程は折り紙付きだ。以前の旅ではその魔族らしからぬ優しさ故に、いつも手加減して戦っていた節もある。
「カイルクンはもう赤の火輪を手に入れてるわ。それに、レミットちゃんが魔宝を集めてることも知ってる。
 何かちょっかいをかけてくるのは、間違いないわね」
「・・・・・・」
 黙り込むレミットを見て、カレンは再び表情を崩した。
「でも大丈夫。レミットちゃんなら、あんな小悪党には負けないって。ね?」
「もちろんよ! バカイルなんて、返り討ちにしてそうしてやるわっ!」
 レミットが指さした先には、ボロ負けしたあげくないがしろにされ、すっかりいじけて体育座りなどしながら地面に無数の「の」の字を書いているレイナスがいた。
「そう! その意気よレミットちゃん!」
 どうでもいいが、連れのはずのレイナスに対する思いやりはなくてもいいのだろうか。
 レミットと一緒に盛り上がるカレンを見て、アイリスは、何となくそんなことを考えていた。
STAGE 6 あとがき

 というわけでSTAGE6はこの程度の扱いです(笑)。だってヤローなんてどーでもいーじゃないですか。アファのパイロットのみなさんごめんなさい。でも、アファを女性キャラがやるよりは違和感ないでしょ?
 今回のテーマは、前回でコンティニューの憂き目にあってしまった姫さまに一度くらいは「パーフェクト勝ち」をしてもらおう、というもの。そのため、今回のカードは「姫さまasVOTテムジンvsレイナスasOMGアファームド」というカードになっています。だから姫さまは空中ダッシュも右ターボ左も使えるというわけです。残りはフェイとライデンだから、いっそ後の二人もVOT仕様にしちゃおうかなあ。どう思います?
 さて、それでは次回からはまともに戻ることにしましょうか。
STAGE 7 “ルナティック・ダンス”
 NEXT ENEMY
  Tina−Harvel
 Energy-Arrow
 Lightning-Javelin
 Her Nature...
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