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STAGE 3 まわるまわるよアルザはまわる 
〜Aruza Rou〜
 
「あかぁん…。もー動けへん…」
 道端にぺたんと力無く座り込み、アルザは弱々しい声でつぶやいた。
「メイヤーはんも、こんなモンやのうて食いモンくれればええのに…」
 そして、左手に持った、頭くらいの大きさの赤い球体を、恨めしそうに…そして、「食べられへんかな〜…。なんぼなんでも食べられへんよな〜…」などと思いながら…ながめた。
 
 それは数日前のことだった。
「毎日たらふく食べられる」などと目論見ながら働き始めたレストランを…当然と言えば当然…クビになり、腹を空かせて…もっとも、彼女は満腹の状態からでもわずか数秒で空腹に戻れるという特技の持ち主だが…まあとにかくさまよっていたとき。
「あら? アルザさんじゃないですか」
 聞き覚えのある声が背後からかけられた。
「なんや〜? あ!」
 そこに立っていた相手を見て、アルザの表情が険しくなった。
「そんなに怖い顔しないで下さいよ。今は別に私とあなたが戦う理由なんてないんですから」
 その相手メイヤーは、警戒感を和らげようとするかのように、アルザに微笑みかけてきた。
「そー言われてみれば、せやな」
 かつてアルザは、魔族の青年カイルとともに大魔王復活のため旅をしていた…彼女にその自覚はかけらもなかったが。その一方でメイヤーは異世界の青年をもとの世界に戻すために旅をしていた。目的は違えどその手段が同じ「魔宝」であったため、カイルと異世界の青年、そしてそれぞれに協力していたアルザとメイヤーは戦いあい、アルザはメイヤーの攻撃魔法で、メイヤーはアルザの鉄拳で、それぞれかなり痛い目に遭っている。
 確かにメイヤーの言うとおり、異世界の青年が魔宝と暁の女神の力でもとの世界に戻り、カイルも一人だけで大魔王復活にいそしんでいる今、アルザとメイヤーが昔のように戦う理由はない。とはいえ、互いに私怨というものは残っていても不思議はないはずだ。はずなのだが、アルザは納得した途端、警戒心もきれいに捨て去ってしまったようだ。
 そんな素直でさっぱりしたアルザの様子に少し苦笑しつつ、メイヤーは「よいしょ」とか言いながら背の巨大な荷物を降ろした。
「なんやそれ? 食いモンか?」
「ふふ…違いますよ」
「なんや、食いモンちゃうんか…」
 がっかりしたとたん、
 ぐきゅるるるぅ〜…。
 アルザのお腹があまりにも素直な反応を示した。
「お食事まだなんですか?」
 今の時間は日没より少し前。昼食のことを尋ねるには遅すぎるし、晩餐のことを尋ねるには早すぎる。だが、アルザと浅からぬ縁…因縁かもしれないが…のあるメイヤーは、この質問が的外れでないことを知っている。
「せや…。おやつ食うてから二時間も経ってもた…」
 そして、アルザのいう「おやつ」が、大の男の夕食をはるかに凌駕する量であることも知っている。知りながら、メイヤーは言った。
「なら、御一緒しませんか? 久しぶりですし、ご馳走しますよ」
「ええんか!?」
 アルザの顔がぱあっと輝く。メイヤーは懐に手を入れ、財布の中身を確かめながら、覚悟を決めてうなづいた。
 
「もうよろしいんですか?」
「ほんまはもっと食いたいんやけど…あんまり人の銭で食いすぎてもあかんし…」
「はは…そうですか…」
 さすがにメイヤーの財布も空っぽになっているし、店の人からも「店の在庫が食いつぶされる」と泣きつかれている。メイヤーはそのままアルザを伴い、店を出た。
「…いまいちまだ満足でけへんな…」
 一応メイヤーに聞こえないように気を使ってはいるようだが、アルザの不満な声が聞こえてきた。
「はは、すいませんねえ。お詫びに…」
 メイヤーはカバンをごそごそかき回すと、頭くらいの大きさの赤い球体を取り出した。
「これを差し上げましょう」
「…なんやこれ? 食いモンか?」
「…食べられませんよ」
「なんや、食えへんのか…」
「でもまあ、炎の魔法が封じられているアイテムですから…魚を焼く役にくらいは立ちますよ」
「うちは生でも別にかまわへんのやけど」
「いりませんか?」
「…まあ、せっかくくれるゆーんやから、ありがたくもらっとくわ。おおきにな」
「はい」
 メイヤーはにっこり微笑んだ。
 
 結局、メイヤーが何を思ってこの珠をくれたのかは、未だアルザにはわからない。おそらく、メイヤーに直に説明されてもわからないだろう。
 まあとにかくそんなわけでもらった珠は、確かに魚や肉を焼く役には立ったが、食べ物そのものがあまり手に入らない今日この頃では持っていても仕方ないような気もしてきた。
 断っておくが、アルザは別に食うや食わずの生活をしているわけではない。確かにレストランをクビになり再びパーリアを出て、各地を転々としているが、どこの街に行ってもあのバイト親父が必ずいて仕事を斡旋してくれるので、人並み以上に稼ぐことはできるのだ。だから食事も人並みくらいには食べている。だが、「人並み」でアルザが満足できるはずもない。
「はうー…。何か食いに行こかなあ…。せやけど中途半端に食うとよけいお腹すいてまうしなあ…」
 今の所持金も少なくはないが、アルザにとっては「中途半端」な量の食事ができる額でしかない。
「どないしょー…」
 途方に暮れたアルザは、そのまま道端で、赤い珠を恨めしそうにつつき始めてしまった。
 
「メイヤーのヤツがどこに行ったのかはわからなかったけど…どうやらアルザと接触したらしいわよ。
 アルザの方は働いてたレストランをクビになったみたい。この間、二つ隣の街で、お腹鳴らしながら歩いてる牙人族の娘を見かけたって行商人が話してたから、周りの街道でも探してみればそのうち見つかるんじゃない?」
 さすがの情報収集力を持つリラからそう聞いて、レミット達は、かれこれ街道を一週間ほど歩いている。
 時刻はお昼少し前。そろそろお腹も空いてこようかという頃だ。
「姫さま。そろそろ、午後に備えてお食事にいたしませんか?」
 アイリスの言葉に、レミットは街道の向こうを眺めて、道のりがまだ結構あることを確かめると、
「そうね。急いでも簡単には着きそうにないみたいだし…」
 うなづいて、キャラットと若葉を見やった。二人もまたうなづく。
「あ、あそこがいいんじゃないかな?」
 キャラットはめざとく、お昼にちょうどよさそうな広場を道端に見つける。
「いつもアイリスさんばかりに任せきりでは申し訳ありませんから、今日はわたしがお昼の用意をします」
 若葉が言うが、
「いいえ。私は他のことは何もできませんから…食事の用意くらいはさせてください」
 アイリスは巧みに断る。若葉の腕前の程を知っているから。
「そうですか…?」
 若葉が引き下がると、アイリスはてきぱきと用意を始めた。もともとアイリスはアウトドア派ではないのだが、魔宝をめぐる旅では事実上カレンと二人だけで食事の用意をしていたし、今回の旅ではそのカレンもおらず一人だけでレミット達の食糧管理をこなしている。そのため、今では家の中と外とを問わずそつなく料理をやってのけることができるようになっていた。ほどなくして、周囲においしそうな芳香が漂い始めた。
「うわわあぁっっ!!」
 そのとたん、あたりの茂みで暇を潰していたキャラットが、素っ頓狂な声を上げる。
「どっ…どうしたの!?」
「なっ、何かっ…何か、おっきなものが、動いたあ…」
 キャラットが震える手で指差した先では、彼女の言うとおり「何かおっきなもの」がごそごそ動いていた。
「何ッ!? 出てきなさい!」
 レミットは剣に手をかけ、それに向かって怒鳴った。しかし、そこからの返事はあまりにも間の抜けたものだった。
「誰か…何か食べさせてーな…」
 
 結局…。
 レミット達のお昼ご飯になるはずだったものは、すべてアルザの胃の中に一瞬で消えていった。
 レミットはアルザと一緒に旅をしていたわけではなかったが、その健啖ぶりを知らないわけでもない。とはいえ、
「ちょっとアルザ! メイヤーはどこなの!?」
 と尋ねて、
「教えたってもええねんけど…その前に、何か食べさせてーな…」
 と言われれば、食事を差し出すしかなかった。
「いやー、アイリスさん、料理上手やなー」
「はあ…ありがとうございます…」
 褒められて悪い気はしないのだろうが、旅の備えの食料をことごとく食い尽くされ、さすがのアイリスの頬も少しひきつっている。
「おかわり!」
「すいません…もう、ないんですけど…」
「ええーっ…!」
 アルザはかなり不満な顔をしている。食いモンの恨みは恐ろしいというし、このままではメイヤーの居場所を教えてくれないかもしれない。力ずく、というのはレミットも本意ではない。やむなく周囲を見回すと、広場の周りの薮の向こうには森が見える。
「…仕方ないわね! 何か探してくるからここで待ってなさい」
 立ち上がるレミットに、
「あ、私もお供します」
「森の中ならボクに任せて」
 アイリスとキャラットの二人が同行を申し出る。
「では、わたしも…」
 若葉も言ったが、
「若葉はダメ。迷うから。それに、アルザを見ててあげて」
 レミットに言われると、
「そうですね」
 素直にうなづいた。
 
「まだかな、まだかな〜」
 レミット達が食べ物を探しに行き、若葉と二人で残されたアルザは、空っぽにした鍋をちゃかぽこ叩きながら即興で歌を歌っている。待ちきれない様子だ。
「まあ、アルザさん。お行儀が悪いですよ」
 若葉が苦笑しながらたしなめるが、
「せやかて、腹減ったんやもんしゃーないやん」
 アルザにはこたえた様子もない。
「先程、あれだけ召し上がったのに…ですか?」
「中途半端に食べてまうと、余計腹減るんや…」
「中途半端に…ですか」
 さすがの若葉も、ちょっとだけ驚いた。何しろアルザ一人で平らげた食事は、自分たち四人分のものだったのだから。
「何か材料があれば、わたしがご用意するんですけど…」
「まあ、なんぼうちでも霞食うわけにいかんし…。待つしかしゃーな…ん?」
 言って何気なくあたりを見回したアルザは、薮の中に何かを見つけたような様子で、そちらに近づいていった。
「どうしたんですか?」
「ええモン見っけた!」
 そう言うアルザが手に持っている物は、若葉にはただの草にしか見えなかった。
「それは?」
「知らへんの? 塩ゆでにしても炒めてもなかなかのモンなんやで。ま、待っとる間の場つなぎくらいにはなるやろ」
 どうやらアルザは、食べられる野草の知識を持っているらしい。昔の若葉ならそこらの草を食べたりすることには抵抗があったのだろうが、同じような知識を持っているキャラットと長い間旅をしていたため、道端にも食べられる植物は結構ある、ということを知っていた。
「アルザさん、よくご存知なんですね」
「へへへ。せやけどこいつは生じゃ食べられへんから…」
「あ、それじゃ、わたしがそれで何かお作りします」
「ええんか? 何か悪いなあ」
 若葉はかつての旅で、一回だけ、レミット達の食事当番を担当したことがある。そして、その一回だけで、レミット達は若葉に料理をさせなくなった。同じパーティにカレンとアイリスがいたため、無理に若葉に当番をさせなくても一向に困らなかったせいもある。とにかくそんなわけなので、他のパーティにいたアルザが、若葉の腕を知ることはなかったのである。
 …不幸にも。
 ガシャーンとか、バシャアッとか、待っているアルザをずいぶん不安にさせる音がすることしばし。
「はい、どうぞ。味の方は保証できかねますけど…」
「ええってええって。あの草と調味料だけで、そんなまずいモンできっこあらへん」
 明るく笑いながら、アルザは差し出された皿を受け取る。
「ほな、いただきまーす」
 ぱくっ。
 その瞬間、アルザの両の眼から、滝のような涙がだーっと溢れ出た。
「ア…アルザさん?」
「えぐっ…えぐっ…ひっく…。うち…うち、嫌いな食いモンないんが自慢やったのに…せやのに…えぐっ…」
「あの…」
 茫然と見ている若葉を後目にアルザはしばらく泣いていたが、やがて怒りがこみ上げてきたらしい。真っ赤な顔で、
「なんちゅーモン食わすねんー!!」
 若葉を怒鳴りつけた。怒鳴りつけられた若葉の方は、状況が今一つわかっていないようだったが、とりあえずアルザが怒っているようだったので、
「す、すいません、わたし…」
 謝ってみた。
 
 レミット達が戻ってきたのは、そのときだった。
「お待た…ああっ!」
 レミットが見たのは、すごい剣幕で今にも若葉に襲いかかろうとしている(ように見える)アルザと、おびえている(ように見える)若葉の姿だった。
(やっぱりアルザのヤツ、メイヤーに何か吹き込まれてたのね!)
 レミットは一瞬で大誤解すると、
「若葉が危ない! 今助けてあげるわ!」
 とばかりに、
「とぉーっ!!」
 アルザの側頭部に、見事な飛び蹴りをお見舞いした。
「あたーっ!?」
 直撃を受けたアルザは、何が起こったのかもよくわかっていないような有様で吹っ飛ばされた。
「若葉、大丈夫!?」
「はあ、あの…」
「アイリス、キャラット! 若葉を診てあげて!」
「は、はい、姫さま…」
「うん、わかったよ」
「あの、レミットさん…」
 若葉は状況を説明しようとしているようだが、彼女のペースでの話を聞いている心の余裕は、今のレミットにはないようだった。
 
「何すんねん!」
「それはこっちのセリフよ!」
「うちが何したゆーんや!」
「なによ白々しい!」
「ううう…うち、もうキレたで!」
「私だって、もう怒ったわ!」
 とまあ、こんな具合で…レミットは剣を抜き、アルザは構えをとって…うやむやのうちに、戦闘に突入してしまった。
「やあっ!」
 先手を取ったのはレミットだった。カレンやリラとの戦いを経て、今やレミットの剣はすっかり素人のものではなくなっている。しかし、それでもアルザをとらえるにはまだまだ未熟だった。最小限の動きでそれをかわしたアルザは、カウンターで拳を叩き込む。レミットもまたそれをかわすが、刃物を持っている訳でもない拳がすぐ間近をかすめただけで、服の袖にぴっ、と鋭い切れ目が走った。
「…!」
「へえ、よくかわせたやん」
 アルザは嫌味のない笑みを浮かべる。彼女にとっては戦いも、遊びの延長なのかもしれない。しかし、そんなアルザは、カレンやリラに匹敵する実力の持ち主なのだ。リラ同様、アルザも、かつての旅で、カレン以外のレミットのパーティを全滅させたことがある。
 とはいえ、それだけに、レミットもリラからアルザの名を聞いてから、充分対策は考えていた。アルザにはリラと違い、明確な弱点がある。魔法を非常に不得手としているため、ロングレンジでの戦闘ができないのだ。
「これならどう!」
 レミットは飛び退いて間合いを開けると、素早く詠唱を終えた。
「ライトニング・ジャベリン!」
 素早く追おうとしたアルザだったが、行く手を稲妻の槍に阻まれ、顔をしかめてそれを受ける。
「…しゃーないなー…」
 そして、メイヤーから受け取った赤い珠を、レミットに突きつけるようにかざすと、
「クリムゾン・ナパーム!」
 意味も分からず丸暗記している呪文の名前を叫んだ。
「なっ!?」
 自分に迫り来る紅蓮の火炎球を見て、レミットは大きく目を見開いた。クリムゾン・ナパームといえば、物理魔法の中でも相当上級の部類に入る魔法である。それをあのアルザが使うということが信じられなかったのだ。
 無論、これはメイヤーの赤い珠に封じられている術であり、アルザ自身の魔力によるものではない。それだけに、まったく狙いは定まっておらず、本来ならば的を外すことのない魔法でありながら、かなりいい加減な方向に火炎球が降り注いでいる。
「く!」
 とはいえ、クリムゾン・ナパームは広範囲魔法なので、アルザがいい加減な方向に撃ったにもかかわらずレミットは効果範囲内に入ってしまっている。レミットはダッシュで、クリムゾン・ナパームの効果範囲から逃れた。
「今やー!」
 そのとたん、アルザの景気のいい声とともに、
 ごぉん。
 レミットの頭に重い衝撃が走った。
「あ…」
 耐えられずその場にひっくり返るレミット。
「大当たりい!」
 喜びつつアルザは、レミットに当たって跳ね返ってきた例の珠を見事にキャッチした。そう、アルザは魔法の封じられている珠を、直接レミットに投げつけたのだ。
 はしゃいでいるように見えるアルザだったが、無論、チャンスを逃しはしない。レミットが起きあがる隙に、素早く間合いをつめていた。そして、
「フレイム・アーム!」
 クリムゾン・ナパーム同様、丸暗記している言葉を叫ぶ。意味が分かっていなくても、魔法は素直に発動し、アルザの腕が炎に包まれた。
「うちのこの手が真っ赤に燃えるッ!!」
 とかなんとか、訳の分からないことを叫びながら殴りかかるアルザの拳のスピードは尋常ではなく、ガードの間に合わなかったレミットのボディを直撃した。
「ぐふ…」
 しかし、レミットはその場に倒れることはできなかった。アルザのボディブローの威力で、そのまま、体ごと吹っ飛ばされてしまったのである。
「うちの相手にはまだ早いで!」
 地面に転がるレミットを見て、勝ち誇るアルザ。しかし…。
「…待ちなさい…。勝ちゼリフは気が早いわよ…」
 レミットは腹を押さえながら、よろよろと立ち上がる。
「へえ…。まだ立てるんか…」
 感心したようにつぶやくアルザに、レミットは隙を与えなかった。
「…そっちから離してくれるなんて好都合! こっちは紛い物じゃないわよ!」
 言われて初めて、アルザは、自分がレミットを吹っ飛ばしてしまったことによって、自分の苦手とする長距離戦にもつれ込んでしまったことに気付いた。
「しもーたあ!」
「クリムゾン・ナパームッ!」
 レミット自身が言ったとおり、レミットのクリムゾン・ナパームは紛い物ではない。火炎球は正確にアルザを襲った。
「あたっ!」
 そして火炎球を受けようとガードを固めているアルザに素早く駆け寄りながら、
「フレイム・アーム!」
 意趣返しとばかり、執拗に同じ魔法を使う。そして、炎に包まれた剣をアルザの背に叩き付け、そのままダッシュで再び間合いを離す。
「くう…やるやんか…」
「結局あんたは…」
 レミットは炎に包まれたままの剣の切っ先をアルザに向けると、厳しい顔で言い放った。
「いくらアイテム持ってたって、魔法なんて使いこなせないのよ! バカなんだから!」
「バカとはなんやバカとは! うちはアホ言われるんは平気やけどバカ言われるとむっちゃ腹立つんやー!」
 レミットの一言に激昂したアルザは、
「もうホンマにキレたでー!! こーしたるわー!!」
 何を思ったか、例の珠をハンマー投げのようにぶんぶんぐるぐる振り回しながら、レミットに突っ込んできた。ケンカして我を忘れた子供が両腕を振り回して相手につっかかっていくのと同レベルの発想かも知れない。
 とはいえ、振り回しているのは炎の魔力を帯びた珠である。威力は子供のケンカとはケタ違いのはずだ。にもかかわらず、レミットは、あまりにもバカバカしいその有様に、一瞬あっけにとられてしまった。
「うりゃー!」
 ごちん。
 鈍い音とともに、珠がレミットの側頭部に激突する。
「きゃ…」
 またも吹っ飛ばされ、しかも脳に衝撃を受けたレミットは、脳震盪で意識を失いそうになった。しかし、ここで意識を失ってしまってはキレたアルザにどうされてしまうかわからない。渾身の精神力を振り絞り、剣を支えにして踏みとどまると、アルザの追撃に備え、よろよろと構えを取る。
「・・・・・?」
 しかし、いつまでたってもアルザの追撃は来ない。
「あかぁん…目ぇまわってしもたぁ…」
 景気よく回りすぎたアルザは、その勢いで自滅してしまったらしく…惰性でくるくる回ったかと思うと、
 こてん。
 仰向けにひっくり返ってしまった。
「やっぱり…バカ」
「バカってゆーなあ…」
 
「あの…別にわたし、アルザさんに襲われてた訳ではないんですけど…」
「は?」
 ここに至って、ようやく、若葉の状況説明が間にあったようだ。
「じゃあ…」
 顔色を変え、ひっくり返っているアルザを見るレミット。
「何で早く言わなかったのよ!」
「聞いてくれそうにありませんでしたので…」
「・・・・・・」
 これ以上話しても仕方ないと思ったのか、レミットは、アイリスとともに、アルザに駆け寄った。
 
 レミットとアルザとでは、どちらかといえばレミットの方が痛手を受けていた。レミットよりアルザの方がよほど頑丈だったらしい。回した目が元に戻ると、すぐに起きあがった。
「あ…あの…私…知らなかったから、その…」
「よーやっとわかってくれたんか…。ならええわ」
 謝りづらくてもじもじしているレミットを見たアルザは、にっこり笑って立ち上がった。
「あー。戦うたら、また腹減ってもーた…」
 お腹をさすりながら言うアルザを見、
「…ぷっ」
 誰からともなく、吹き出した。
 
「メイヤーはんなら…むぐむぐ…ウェンディに…もぐもぐ…会いに行く…はぐはぐ…言うてたで…んぐんぐ…」
「ウェンディに? どうして!?」
 レミットは尋ねるが、アルザは食べる方が忙しいらしく、
「…知らへん…」
 気のない返事をする。もっとも、メイヤーがレミットを足止めするために自分に接触してきたということも理解していないアルザでは、食べるのに忙しくなくてもまともな返事はできなかっただろうが。
「そう…。じゃあ、さっさとウェンディを探しに行くわよ!」
 レミットは言ったが、
「姫さま? アルザさん…まだ食べるおつもりらしいですよ…?」
「はぐはぐはぐはぐ…。いやー、アイリスはんって料理上手やなー」
「・・・・・・」
 出発は…しばらく、先になりそうだった。
 
                           〈To Be Continued〉
 

 
STAGE 3 あとがき
 
 どーもー、もーらですー。
 メガスピン…生身でやったら目が回る…。そりゃそーだろーなー。
 さすがにファイアーボールを飛ばす方法は思いつきませんでしたので、接近戦専門のフレイム・アームでお茶を濁すことにしました。それにあの「赤い珠」も、あんまりハンマーじゃなかったですね。再現率悪し。
 そしてやっぱり、アルザはんはあまりシリアスができませんね。とはいえ私自身がギャグを苦手としているため、さほどギャグにもなっていませんが…。
 まあ、STAGE3の相手はそういうわけでアルザはん。彼女にドルカス役をお願いしたのは…赤いから…(←それだけか!)。
 本編であった「うちのこの手が真っ赤に燃えるッ!」の後は、本当は、「食いモン掴めと轟き叫ぶッ!」と続く予定だったのですが、本編の流れとはさほど関係ないのでカットしました。しない方がよかったかなあ…。
 しまった! 今回の話でエタメロ3強の出番が終わっちゃったじゃないか! 3強が最初の3人なんて、ペース配分が悪いぞ! 後はひ弱いヤツばっかりだよう(ティナ除く)。
 さてさて、どうなることやら…。
 まあとにかく、次回予告をしましょうか。
 
STAGE 4 “緑の丘からさらなる高みへ”
íNEXT ENEMY
 Wendy−Miseria
 Energy-Arrow
 Heat-Shower
 Lightning-Javelin
 

 
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