6AR5パラシングル製作記     
                                          form 2013.0927   

=================================================

ちょっと前置きが長くなりますが、想い入れが大きいのであえてふれておきます。少しおつきあいください。

ここへ来て、かつて作りたかった真空管アンプも1、2台を残して作り上げることが出来て一区切りがついた
かなと思っていました。

そんな折、かねてから耳にしていた妙高オーディオ倶楽部の発表会が開催されることをMJ誌で知りました。
調べてみると、お隣の新潟県とはいえさほど遠くない。30kmあるかないかだ、おまけに会場は、上信越道の
妙高高原ICの近くらしい。そこで意を決して事務局の方に電話をして参加のお願いをしてみました。快く引
き受けて頂き、参加することが出来ました。
そのようすは、こちらをご覧ください。

さて、本題ですが、前述したとおりアンプ製作も一区切りがついて、後は気に入ったアンプの追い込みかなと
思っていますが、実はまだ日の目を見ない球達がいることが気になっていました。それらというと、30A5とか
35EH5といったトランスレス球であり、東芝製の一体型のステレオから抜いておいた6AR5の4本です。

6AR5といえば、昔は五球スーパーの終段管としてさかんに使われていました。約3W近く絞り出せるのですが、
その割に電流喰いの印象があります。そんな事なら6AQ5や6BQ5の方が脚光を浴びやすいのも当然です。
おまけに、OPTの負荷抵抗も7KΩで、ちょっと使いづらい、そんな印象がある球です。ですので、使ってあ
げたいと思っていながらなかなか使ってあげられず、気にはなっていました。

そんなときに、妙高オーディオ倶楽部の発表会に参加して【6ZP1パラシングル】という発表があり、その音
を聴いて一発で気に入りました。もちろん他にも松並さんの300Bのアンプや6550Aのプッシュプルとい
ったものすごいアンプも発表されていたのですが、もし気に入った一台を上げろといわれれば、私は迷いなくこ
の【6ZP1パラシングルアンプ】をあげます。音のよさはもちろんですがオーディオ球としてはいわば駄球扱
いをされている6ZP1を使ってあげていることがその理由です。

             
              
芥さんの作品 仕上げもコンパクトさも見事です

発表されたのは長野県上田市の芥 孝博さんです。簡単にその中身にふれると、12AX7Para+直結6ZP1Para
のシングルアンプです。直結にするために、D電源を導入するというアイデアが盛り込まれています。
その詳しいことは、別に説明しますが、通常の直結では、それが故に出力管のカソード抵抗から
はかなりの熱が出ますが、この芥さん考案の回路ではほとんど熱が出ません、通常のCR結合の熱程度です。

かねてから直結の音のよさには惚れ込んでいたのですが、何ともPTの発熱さえもパーツ達がかわいそうで気
になっていたのでこの発熱の少なさにはちょっとしたインパクトがありました。

さらに、初段の12AX7もパラ接続で使用していますし、終段もパラシングルとしたことでOPTの負荷抵抗も、
球の内部抵抗も半分になります。これらも相まって私好みの中低音が充実した音になっているのだと思いまし
た。幸いにも、芥さんに声をかけさせていただいた折りに、そのアンプの回路図まで頂くことが出来ました。

発表会終了後の帰路の車中で頭の中を駆け巡っていたのは、あの6ZP1パラシングルアンプでした。パラシングル
で3W程度の出力しかありませんでしたが、芥さんのお人柄も相まったのでしょうか、ちょっと落ち込んでい
た製作の虫がまたまたうずき始めました。

帰宅して、さっそく頂いた回路図をじっくり検討させてもらいました。いくつか不明の点もあり、デッドコピー
で作ろうかと思いました。が、肝心の6ZP1は1本しかありません。ネットで調べてみると3500円もします。
万事休すかと思いましたが、さらに調べて見ると6ZP1はオリジナルが6K6であること、そしてMT管とし
て6AK6があること(これなら1本800円くらいで購入できます)がわかってきました。そこで、6ZP1は無理だ
が、同等管の6AK6を使って組むことを思いつきました。
芥さんの作品は非常にコンパクトに仕上げられていました。その工作技術には及びませんがMT管の大きさならか
なりコンパクトに仕上げることも可能です。
10月に開催される19th真空管オーディオフェアで上京する折にクラシックコンポーネンツさんでゲットしてく
ればいける!!と思い、さっそく部品の検討から始めました。抵抗など小物パーツはほとんど手持ちで間に合い
そうです。となると、作りたくなってしまいます。

気が短い私は、とても10月まで待てそうにもありません。6AK6の出力は1,1W、パラなのでその倍の2.2W、OPTの損
出を差し引いても1.5W位には仕上げられそうだ。待てよ、6005W(=6AQ5)ならまだ6本くらい手持ちがあるぞ
、これにしてみようかなとかいっそのこと6BQ5を使おうか、そうすれば出力も5W以上になるし、と、あれこれ検
討しながら10月までまで待てない気持ちを落ち着かせていました。しかし、6005Wも6BQ5ももう作ってあるし、
ここで使ってもありきたりだし・・・結局、あきらめてしまいました。

やはり6AK6しかないのかなと思っていた矢先、ふと思い出したのが6AR5でした。6ZP1も駄球扱いですし、そう
いう意味では6AR5も最近ではオーディオ管としてはあまり使われていません。幸い私は手持ちとして前述したとお
り4本あります。もし、購入するとしても春日無線で1本1000円で入手できます。出力も3.5Wパラですので7W・・・
5Wもあれば私としては御の字ですので使わない手はない!と思いました。

=================================================


さっそく芥さんから頂いた回路図を書き直す作業に入りました。実はこれが意外とたのしかったりして・・・
『書き直す作業=新しく回路設計をする』ということに気づきました。完全とはいえませんが、オリジナルの
アンプ作りの気がしてきました。

まず、6AR5の動作ですが 私のバイブル「全日本真空管ハンドブック」によると主な規格は

  Ep=250V
  SGe=250V
  Ip=35mA
  SGi=5mA
  Rk =420Ω(バイアス-18V)程度
  RL =7kΩ
  Po =3.2W
と、ありました。となると35+5=40mA 4本分で35*4=140mA 初段も含めて180mA程度のPTが
あればいいことになります。

オリジナルの芥さんの回路では
 PT  KmB240F(0-230-260V 2回路)春日無線・・・230Vを使用
 OPT  OUT54B57春日無線(ちなみにこれの下位のOUT-41-357では音が良くなかったそうです・・・芥さん談)
 CH  1.3H(たぶん春日無線の54B200MA<1.5H200mA)か2H50MA<2H50mA+2H50mAをパラ)かな?

と、特定しました。違うかも知れませんが・・・ そうすると、オリジナルのパーツは使えません。特にPTは容
量不足でだめです。
   

そこで、以下の陣容でいくことにしました。

 PT  PMC−190SH
        ・・・190Mの方が安いんですが、OPTをPMF−7WSにしたために色を合わせました。
           自作したチョークトランスのケースも同じグレーにしました。ハンマートーンはスプレーが入手できませんでした

 OPT PMF−7WS
        ・・・パラで6Wぐらいになりますし、流す電流容量からこれに決めました。
 CH  54B200MA(1.5H 200mA +自作トランスケース
        ・・・実は、待ちきれなくて6005W三結PPから外してきました。10月にもう一個購入して入れます・・・

さっそく、手書きで回路図を書いてみました。
まず、D電源ですが、190mAをブリッジ整流するので190mA*0.63=123mAしか流せない事になります。
と、なると120mA÷4=30mA(1本あたり)しか流せません。そこで、B電圧を下げたりバイアスを調整して何とか収ま
るようにロードラインを引いてみました。 

結局、最終的な回路図が出来ました。 

オリジナルと異なったり、気を付けた点は、

 ○B電圧を下げるためにPTの180Vタップを使う(計画では200Vタップを使う予定だった)

 ○1000μF450Vの電解コンデンサーは手持ちの関係から、470μF450Vを2本パラって940μFとして使う

 ○6AR5のカソード電圧監視回路は省略

 ○遅延のためのオンディレーリレーは手持ちがないことと使い方がいまいちわからずにいたので、SW
  を使って手動で20〜30秒後にオンするようにした

 ○配置は、芥さんのように二階建てのようにはせず、単純に平面配置とした
(コンパクトさは留意した)
  また、木枠+天板アルミシャーシの流儀は継承

 ○組み上げて見たところ、入力感度が高すぎたので初段の12AX7(μ=100)→ 5751(μ=70)に変更

 ○6AR5のカソード抵抗は、試行錯誤から350Ωで落ち着いた また、5751のカソード抵抗は、1.2kΩとした

以上の点です。

       

   チョークトランスのケース作り      
                   鉄シャーシから切り出し    CHをケースに収める     塗装をして完成

組み上げて、最終的にチェックをしてみました。

最初、ラジオの音だったのですがエージングとともに直結らしい澄み切った音を出してくれてます。
中島みゆきのリラの花咲く頃は、しっとりとしてとてもお気に入りになりました。

              

直結のすっきりした音に、パラの内部抵抗の低下に伴ってか中低音の厚みが増したようです。初段のパラも効いて
いるのかも知れません。終段のカソード抵抗の発熱もないのでお気に入りの一台になりました。
芥さんに感謝!!!です。

<2016 0107追記> 追試をしていただいたようですが・・・・

メールを頂きました。回路図を元に制作したが、動作がおかしいとのこと・・・

当方では特に問題なく動作しているので、どうしたものかと思い改めて製作記録を振り返ってみると回路図に間違い
を発見!!! これでは直結の動作に不都合が出てしまうのもありかなと思いました。早速間違いを訂正した回路図
をお送りしました。これでたぶん動作するのではないかと思います。

併せて掲載していた回路図も修正して再掲しました。
ちなみに、修正箇所は整流ダイオードから出た上下2段のうちの下段に47KΩが入っていませんでしたので、追加し
てあります。

追試をしてもらえることもないだろうと勝手に思い込んでしまったお気楽さから、今回の事態を招きました。公開する
にはそれなりの対応をしていかないといけないことを思い知らされました。もし、今回のことがなかったらこのことに
気づくこともなく、単なる見せびらかしにすぎないことを学びました。

ご指摘を頂いた千葉県のTさんには感謝です。


もどる・・・シングルアンプメインにもどる

・・・製作記メインにもどる