四日月


 四日月は、見るものではない。あれは人の寿命を奪う。
ただし、三日月を見ずに翌日の四日月を見た場合に限って、まじない言葉が有効になる。
「クルツキモツキミヌツキハナケレドモヨカヅキミルハコヨイハジメテ」
 そう3度唱えればいい。これは言霊信仰に基づくまじないだ。
現在どれほどの人がこのまじないを知っているか、僕はいささか疑問に思うが。
「夜見、ゲームやろうぜ」
 雨で月を読むことが出来ない日、真樹はたいてい僕とTVゲームで遊ぶことになる。
彼の父親、信志の時はゲームセンターやボーリング、映画などに連れて行かれた。
その前、彼の祖父の時は将棋や囲碁が多かった。
さらにその前は、一晩中連歌をしていたこともある。
 双六、歌合わせ、薫き物合わせ、貝合わせ、てすさび、箏の琴、琵琶、古語り。
 いつの時代の人々も、遊びには事欠かない。ただ、昔の遊びの方がゆったりとした時間と精進を必要としたような気がする。
「くっそーっっ。なんで夜見が連続必殺技できるんだよっ。入力が難しくて、俺でもなかなか出せねー技だぞっ」
「教えられたように入力しただけだ。いい加減諦めたらどうだ?」
 真樹側の画面表示は、一勝二十四敗。二十四連勝しているのは僕。
「あーっ。もう一回っ」
 遊びが変わってしまっても、こんなところは、変わらない。いつの時代の人も、遊びと分かっていながら、勝負事にはむきになってしまう。
「なに笑ってるんだよ。早く選べよ」
 僕はしばらく迷った後、一番隅の一番強いキャラクターを選んだ。

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