十日月


 十日月を毎月拝むと、財産が次第に増えるという。
かなり前、真樹にそう説明してから、彼はたとえ月が見えなくとも欠かさず拝んでいる。今日のように。
「どーか、臨時収入がありますように。小遣いがアップしますようにっ」
 しかし、月に供えてあるものが、そのまま僕の供え物になるところを見ると、御利益は望めないだろう。
「拝み方に誠意が見られないな」
「夜見は黙ってろよ。もう少し拝んだら、供え物やるから」
 一体、何をムキになっているのやら……。
「……いつのころからだろうね、人が貨幣に使われるようになったのは」
 僕が冷ややかに言うと、真樹は拝んだまま答えた。
「そりゃー、貨幣が使われるようになってからだろ。今も昔も、金があれば大抵のことは出来るんだからさ」
 貨幣と富と権力が結び付く時代では、そのとおりだろう。
しかし、飢饉のときは違った。食物をより多く持つ者が富と権力を得ていた。
「極度の食料難が起こらなければ、の話だね」
「大丈夫だろ。滅多に起こらないよ」
 いつの時代でも、平穏な生活の中にいる人は、それが突然壊れるとは考えない。むしろ、そういったことを考える者のほうが、奇人変人扱いをされるようだ。
「きっと、何が起こっても、月は変わらないだろうな……」
 そしてきっと、僕の身体も……。
 僕は目を伏せて、真樹に対して沸き上がってくる嫉妬にも似た感情を、消し去った。

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