二十二日月


 下の弓張。別名、下弦の月とは、弦が常に下になっているわけではない。
月が昇るときは、どちらかといえば上弦である。しかも、月が姿を見せるのは真夜中。
そして、最も高く上るのは、夜明け。沈むのは昼だ。この沈むときになって、弦はようやく下弦となる。
このことを知っている人が、現在どれほどいるのだろう。
 有明の月、暁月夜、朝月夜、残月。十六日以降の月すべてに当てはまる呼び名だが、中でも下弦の月は、最も目立つ存在だ。
「おはよう、夜見」
 今日から新月前夜まで、真樹が供え物を持ってくるのは、夜ではなく早朝になる。
「まだ眠そうな顔だな」
「当たり前だろ。俺、きのう夜見が起きるまで、起きてたんだからなっ」
 時間的には、昨日ではなく今日になるだろうが……。
 ふと顔を上げると、真樹が朝日に重なっていた。まぶしさに、目を細める。月の光とは異質のもの。
「真樹」
「な、なんだよ。急に改まって」
「一昨日はすまなかった。それから、ありがとう」
 暁に染まった月は、僕のわだかまりを消し去ってしまう。真樹が驚いたように僕を見た。
「一昨日……?」
 記憶をたどるために動きを止めてしまった彼から供え物を受け取る。
久しぶりに、陽光の下も悪くないと思えた。自然、笑いが込み上げてくる。
「夜見ぃ、あのなあぁっ 謝るのが遅ーんだよっ。二日も前のこと、知るかっ」
 クスクスと忍び笑いを続ける僕を見て、真樹はようやく活動を再開したのだった。

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