二十五日月


 月が雲に隠れるのを見たら、手を合わせて三まで数えるのを七回、つまり二十一数えてもう一度空を見る。
月が完全に雲に隠れていたら、寿命はまだ長く、半分なら寿命は残り半分、雲から出ていたら死が近いという。
昔からある一種の占いだが、いまどきこれを試す人はいない。
 どのくらい経っただろう。目覚まし時計の電子音が聞こえた。
 東の空を見ると、白く輝く雲の壁が見える。
「おはよう、夜見。ちょっと待ってろよ」
 電子音が止まり、パジャマ姿の真樹が目をこすりながら縁側に現れた。
「急がなくていいぞ」
「……うん…」
 どうも真樹は、目覚めが悪い。急がせると、寝ぼけてとんでもない供え物を持ってくる。
 雲から半分顔を出している月は、日の光にその色を失い始めていた。
「透き通るような白い肌って、夜見みたいなのを言うんだよな」
 小さな呟き。
「なんだ、もう来たのか?」
 眠気に半分浸かったままの顔で、真樹が立っていた。供え物は…どうやらまともだ。
「朝日って、なんか冷たい」
「唐突に何だ?」
 まだはっきり目が覚めていないらしい。
「夢…見た。朝日がさ、眠っている雲を引き裂くんだ。情け容赦なく。すっごい冷徹な光で、なんか怖くてさ」
 それは、闇に安らぎを求める者が見る世界。例外はいくらでもあるが、真樹の見るべき光景ではないはずだ。
 僕は何も答えずに神酒を手にする。
「夢の中で、夜見が言ったんだ。朝日は安らぎの終焉を伝える光だから、って。俺、そういわれて、陰陽の理がなんとなく分かった」
「……ただの夢だな」
「まあね。夜見とこんな話、したことないもんなぁ」
 そう。真樹に話したことはない。話したのは、ずっと昔の……。
 なにか釈然としないものを残しながら、僕は彩りを変えていく空を見上げた。


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