隠れ身


「あわわっ」
メインヤードから降りてきたトワが、慌てて舵場に背を向けると、腕組みしてメインマストに寄りかかっていたリュウガが笑った。
「せっかく見せてくれてんだから、眺めたらどうだ?」
「そ、そんなことしたら、シンさんに殺されちゃいますよっ」
「そうか? なかなか目に愉しい光景だがなぁ」
「ぼ、僕には愉しむ余裕なんかないです」
真っ赤になるトワの身体の変化を察して、リュウガが苦笑した。
「あんなの序ノ口だぞ?」
「わ、わかってますよ。でも…その……」
ヒロインの声が微かに届き、トワが身を固くする。
「そ、倉庫行ってきます」
慌てて逃げ出すように甲板を去っていくトワを、リュウガは笑って見送った。
再び視線を舵場に移す。
シンがヒロインにキスをするついでに、左手を服の中に滑り込ませて悪戯しているだけだ。
おそらくシンも、その先へ進むつもりはないだろう。
案の定、しばらくして身体を離したシンが何か囁くと、ヒロインが耳まで真っ赤にして恥ずかしそうに俯いた。
「聞こえなくても、シンが何を言ってるかは、とてもよく判るね」
リュウガの横にやってきたソウシが、苦笑して呟く。
「そういうお前も、昨夜はシンとナギのいねぇ間に、随分と口説いていたじゃねーか」
「否定はしないけどね。でも…彼女があんな可愛い反応をするのは、シンだけだよ」
ニコニコと穏やかな表情を浮かべてはいるものの、ソウシの眼はとても残念そうだ。
「まあ、大好きだよ、と告げて、あっさりニッコリ、はい私もですと言われた日にゃ、どう考えても対象外だな」
「抜け目ないなぁ。どこで聞いていたのかな?」
ソウシが少し驚いたように、リュウガを見た。
「シンの居ねぇ間に、アイツに何かあったら、船長の信用ガタ落ちだろうが」
笑いながら言うリュウガの言葉に、ソウシもくすくすと笑う。
「ひどいなぁ。そんなに私は信用ない?」
「なんて言っても、天然のタラシだからな、うちの船医は」
「大丈夫だよ。私はシンも好きだからね」
面白そうに語り合うリュウガとソウシへ、ふとシンが視線を送る。
「流石のシンも、今、ソウシから愛の告白されたとは気づいてねぇな」
「してないよ」
二人の雰囲気によからぬものを敏感に感じ取った様子のシンが視線を厳しくし、リュウガは肩をすくめた。


「ソウシさん、起きてる? 一緒に飲まねぇ?」
深夜になって明かりのついていたソウシの部屋へ、ハヤテがやってきた。
「来ると思ってたよ」
ハヤテの部屋は、シンとヒロインの隣である。
「ったく、不寝番しているトワがうらやましいぜ」
壁を通り抜けて、ヒロインがシンに愛されている声は、廊下を隔てたソウシの部屋まで伝わってきていた。
切なく哀願するように何度もシンの名を呼んでいるのは、おそらくシンが意図的にそうさせているのだろう。
漏れてくるヒロインの声は、愛されることが一種の拷問であるかのようだ。
明らかに甘く快楽に溺れた声なのに、ひどく苦しげでもある。
「私なら、そんなことはしないのにね」
残念そうなソウシの呟きに、ハヤテが不思議そうな顔をした。
「? 何が?」
「なんでもないよ。どうせ飲むのなら、甲板に行った方がいいかもね。ここだと…ね」
シンがヒロインを強く刺激したらしい。悲鳴に似た喘ぎが、ソウシの声に重なる。
「……ったく、シンの野郎っ」
苛立たしげに、廊下へ出て行こうとしたハヤテ腕を、ソウシが咄嗟に掴む。
「野暮なことはしちゃダメだよ。ヒロインちゃんが、恥ずかしい思いをするだけだからね」
おそらく、ハヤテがウルサイと騒げば、これ幸いとシンはヒロインを辱めるだろう。
『おまえの声は、廊下まで聞こえているらしいぞ』などとからかう様子は想像に難くない。
言われたヒロインは全身を羞恥に染めて、声を抑えようとシンの愛撫に耐え、結果としてより一層、シンを愉しませることになるのが、目に見えている。
そこまで容易にわかる状況で、シンの思惑に乗るような行動を黙認することはできなかった。
明らかに身体が繋がり愛されているのだろうヒロインの、繰り返し懇願する如くシンの名を呼ぶ声を聞かされるだけで、どうにもやるせない気分なのだ。
「ソウシさん、あいつらに甘すぎっ。だいたい、ヒロインもシンなんかの何処がいいんだか」
不満も露わなハヤテを、ソウシは苦笑しつつなだめる。
「まあまあ。他人の恋路は、邪魔する方が馬鹿を見ると相場が決まっているからね。ほら、甲板へ行こうか」
甲板へ向かう二人の耳に、壁の向こうで次第に切羽詰まって昇り詰めていくヒロインの声が届く。
『ぃやぁ…あ、シンさ……ひっ……あっ、あ、あぁ、あは……シンさ…あ、あぁっ、ああっ…』
その少しくぐもった官能的で魅惑的な女の声は、二人の背後からすり寄り、いたずらに雄の本能を擽って行く。
「本当に困った子だね……シンにお仕置きしちゃおうかな」
ため息をついて立ち止まり、ソウシが微笑する姿に、かすかな恐怖を覚えるハヤテだった。


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…え、ここでこの話が終わったら物足りないですか?
でも、今回は、「隠れ身」として、二人の室内の描写は一切書かずに、書いてみようかと…。
物足りないですか?
こんなの、裏じゃないって?
仕方ないなぁ…。
ソウシのおしおき編が、この続きとしてありますが、
描写を抑えた反動で、この先は、困るくらいにエロいですよ。
いや、もう、エロではなくて、鬼畜蹂躙系ですよ?
読み始めて二行で、ちょっと待て、と思う人がいるだろうと予測して、ここで事前お断りを入れる程度には。
ちょっとブラックになったソウシさんが仕掛けると、こういうことになったりするかも…と。
そして、念のため、最初にネタばらししておきますが
このサイトの鉄則
ヒロインちゃんを実際にひどい目に遭わせることはしない、
という点は、守っておりますので。
うん。
でも、いろいろ壊したくない人は、ここで引き返すことを強くお勧めしておきます。
彼等はソンナコトしないはず、とか。
ええ、その通りですからね。
……と、このくらい警告しておけば、続きを曝してもいいかしら???
彼等はソンナコトしないはず