隠里



ため息混じりにシンが呟いた。
「割に合わないな」
「……」
鎖鎌を手に、背中合わせで立つナギが、フッと笑みを浮かべる。
2人を取り囲んでいる海軍の制服が、じわりと間合いを詰めてくる。
その手にある銃や剣は、間違いなくシンとナギを狙っている。
素早く、自分たちを取り囲む海軍兵士を見渡したシンが、銃把を握る指に力を込めた。
港へ続く道は、明らかに突破困難な様相。
包囲された状況から抜け出すには、港とは反対方向の山林側の方が可能性は高い。
「…一緒…だな」
確認するするようなシンの問いかけに、相変わらず無言のナギが呼吸で応えた。
おそらくヒロインが見ていたら、不思議がるだろう合図。
ナギの鎖が牽制の円を描き、鎌が一定の方向にだけ攻撃に転じる。
「海賊っ 逃がすかぁ、撃てっ!」
指揮官らしき者の号令より一瞬早く、シンの銃が鳴る。
確実にシンとナギを狙っていた銃が、その音の数だけ撃ち落とされて地面に転がり、秒単位で計算していたかのように、海軍から撃ち放たれた弾道をナギの鎖が阻んだ。
思いもかけない攻撃と防御に、海賊を捕らえようとしていた包囲網が、ほんの一瞬の隙を生じた。
まるでそれが判っていたかのように、コートの裾を揺らしてシンが駆け抜ける。
慌てて追いかけようとした兵士たちの足元を、再びあらかじめ計算していたように鎖が通り、数名が次々に転んだ。
転んだ兵士の間を、ナギも走り抜ける。
包囲網を突破する海賊を撃とうとした別の兵士たちは、転び、慌てて起き上がろうとする仲間に銃弾が当たるのを恐れた。
「何をしているっ!! 逃がすなっ!!」
怒鳴る指揮官の声に、ばらばらと兵士たちが海賊を追いはじめる。
しかし、港とは反対方向にある山林へ個々に駆けこんだ二人の姿は、あっという間に木々の向こうへ消え、兵士たちは完全に海賊を見失ったのだった。


ザザっと上の木々が揺れる音に、シンは銃を手にしたまま立ち止まる。
木の枝に絡ませた鎖を支えにして、その傍らにナギが降り立った。
「奴等は?」
シンの問いかけに、ナギは微笑した。
お互い、追手をふりきって合流したわけである。
「…どうやって戻る?」
ナギの問いかけに、シンは暗くなりかけた空を見上げた。
「勘のいい船長のことだ、船は出しているだろう」
「…ああ」
海賊を追っている海軍が、船のある港へ行かないはずがない。
まして、ここの港はシリウス号が海軍の目をごまかして隠れられるような大きな港ではない。
海軍の所有している船もろくに停泊できない港なのだ。
陸の兵士たちに船に踏み込まれる前に、広い海へ出航してしまう方がいい。
「ドクターがいれば、ヒロインも大丈夫だろう…たぶん」
そう言いながら、シンが苦笑する。
その複雑な心情はナギも察してあまりある。
「……ああ、トワも荷物を持って船に戻ったタイミングだったはずだ」
「なら、船長達が餓えることはないな」
「……そうだな」
ナギがふと、足元の草を見て屈みこむ。
しばらく草を観察していた、ナギが、その草を摘み始めた。
「なんだ?」
シンが腕を組んで、草を摘み始めたナギを見下ろす。
「…ハヤテは腹を減らしているだろうからな」
ナギの摘む草が、肉の臭みを消す野草だということは、シンも知っている。ハヤテの名が出たということは、どうやらナギはこの森で、夕飯にする動物の目星をつけたらしい。
「早速、野宿の支度か? 今夜中にハヤテと合流できるかわからないぞ?」
「……合図は残してきた」
「ハヤテがちゃんと見つけるといいがな…」
ナギが野山に残す道案内の合図は、大変見つけにくい。
ソウシやシンでも、時折、ナギの手によるものか自然の仕業か判断しかねることがある。
その時、ふと訝しげにナギが草を摘む手を止めた。
「どうした?」
「…おかしい。このハーブの横に…」
よく見れば、料理に使える野草が種類ごとにまとまって生えている。自然現象にしては、不自然すぎた。
「…好都合過ぎるな……人が植えたものか」
周辺を見渡しても、畑らしき雰囲気はない。だが、用途を考えた人間がまとめて植えているとしか考えられない。
ナギが立って周囲の木々を見渡した。
「………」
枝葉や蔦の様子を観察するようにじっくりと眺め見て、ふと、何かに気づいたように歩きだす。
道なき森の中を足音も立てずに気配を消して進み始めたナギを一瞥したシンは、何も言わずに静かにその後に従った。


「ナギ兄の合図、よくわかんねーしっ」
ハヤテは、苛立たしげにどこを見ても同じ景色の森の中を見渡した。
森へ入って行った様子のナギが残した合図。
初めのいくつかは順調に発見して追ってこれたが、すっかり見失ってしまったようだった。
自分を追いかけてきた海軍を撒いて港へ行ってみれば、シリウス号は出港した後だった。
あのタイミングで海軍の兵士たちに不意打ちを食らっては、自分と同じ市場で買い物をしていたナギや、武器屋に行っていたシンが船に乗れなかっただろうことは容易に想像できた。
だから、ナギやシンが残しただろう仲間に向けての合図を探して合流しようとしたのだ。
二人とも、森に向かった形跡はあった。何より、兵士たちが2人を探してところどころに居るのである。
しかし、見失ってしまったとなると、もう一度引き返してやり直しである。
それはそれで、かなり危険だった。
ふと。
遠くから聞き覚えのある銃の残響が聞こえた気がして、ハヤテは、立ち止まり、空を見上げた。
風に揺れる木々の隙間。
無造作に切り取られたような夕焼け空を、巣に戻っていたはずの鳥の群れが左から右へ逃げるように駆けていく。
「…ってコトは、こっちか…」
実際のところ、シンの銃だとは限らないのだが、ハヤテの第六感は、あの音はシンだ、と確信した。
道なき森の中は、どちらを向いても同じ景色が続いている。
鳥の群れがやってきた左方へ体を向けたハヤテは、剣を抜き、前方の藪を薙いだ。
人の通わぬ森で、背高く絡み合った蔦や雑草が一閃されてハヤテの腰の高さになる。
「まっすぐが近道だよな」
不敵な笑みを浮かべて薙いだ草を踏みしめたハヤテは、両手に剣を持ち、そのまま真っ直ぐ走り出した。


「律儀だな、ナギ」
シンが呆れたように背中のナギに言った。
「……おまえもな、シン。…一人ぐらい、倒したらどうだ?」
言われたナギが、珍しく苦笑を浮かべて応じる。
シンは、うんざりしたように自分たちを取り囲む人々を眺めた。
「どうみても素人のコイツ等をか?」
二人は、武器とは言い難い日用品を手にした人々に取り囲まれていた。
老人、女性、何より子供が圧倒的に多い。
皆、どう考えても先程までベッドの中にいたのだろう服装である。
何よりも、全員目を閉じている。
つまり、眠っている状態なのだ。
それなのに彼らは、歩き、走り、手にした日用品をふりかざして二人に襲いかかってくるのである。
何者かに操られていますと言わんばかりの状況だった。
「……役に立たねぇ銃だな」
「…フン。銃声で起きないコイツ等が悪い」
シンは、ナギの肩に両手を置いて、自分に向けて振り下ろされたフライパンを足蹴に弾き飛ばした。
一方のナギは、身をかがめて回転し、包丁を突き出してきた少年の足もとを払う。
息の合った一瞬の攻防で、シンとナギの立つ位置が入れ替わる。
「ナギ…上は?」
再び背中合わせに立ったシンが小さく囁いた。
「……ああ」
ナギがチラリと目線を一瞬上に向け、口元に笑みを浮かべた。
「……ついてこいよ?」
「誰に言ってる」
ジャラ…とナギの鎖鎌が音を立てて投げ上げられた。
銀色に輝く鎌が、ゆるやかに回転して二人の遥か頭上にあった太い枝に突き刺さる。
二人の1メートルほど上で、鎖の先の分銅が揺れた。
ホウキで襲いかかってきた老人を避けるようにジャンプしたナギが、鎖を掴むと反動をつけ、逆上がりのように足をふり上げた勢いで枝に飛び乗った。
フォークを手に突進してくる少女を軽く払いのけたシンは、少女の後ろから椅子を振りかざしてきた女性の腕を掴んで引き倒し、椅子に飛び乗ると、ナギが離したばかりの大きく揺れる鎖を掴んで木の幹を蹴り、枝に飛び乗る。
眠ったまま、二人を追うように上を見上げた人々は、そのまま動かなくなった。
「……これはこれで逃げ場がないな」
自分たちの真下に集結する人々を見下ろして、シンが苦笑する。
「……いや、大丈夫だ」
ナギが、藪の向こうへ向けた目を眇めた。
ザザッ、ザザザザッ、と草木を切り払う音と、藪に潜んでいたのだろう虫が逃げ惑う羽音、小動物の警告の鳴き声。
「うわっ…な、何だよ、おまえら…」
突然、聞き覚えのある声がした。木に群がる寝服の集団を見つけて、ひどく狼狽している。
シンとナギを取り囲んでいた人々が、一斉に身体をハヤテに向けた。
「え? お前ら、寝て…?」
振り下ろされた先割れスプーンを咄嗟に剣で受け止めたハヤテが、目を丸くする。
「ハヤテ、走って戻れっ」
シンが木の上から声をかける。
その言葉の意図が判ったハヤテは、踵を返して、先ほどまで自分が剣で切り開いてきた道を駆けだした。
日用品を手にした人々が、ハヤテを追ってゆらゆらふらふらと歩きはじめる。
ナギとシンは木から飛び降りて、左右に分かれ、ハヤテの後を追った。


「ナギ兄、あいつら、何?」
「………。魔森にある隠れ里の住人…」
ナギの呟きに、シンは一瞬、驚いたようにナギの横顔を見た。
三人は、樹齢千年は超えているのではなかろうかと思われる大木の枝上で気配を潜め、下の様子を見守っている。
ハヤテを追ってきた海軍と、先ほどの寝服の一団が鉢合わせしていた。
海軍の中の数人が、どうやら寝服の人々に交じっている女性や子供、老人と顔見知りらしかった。
神隠しに遭った街の人間だと主張し、致命的な傷を負わせないよう訴え、次々と人々を縄で封じて捕獲をしていく。
「…どういうことだっ! 何に操られている?」
海軍の指揮官が驚きの声を上げた。どうやら、顔見知りの者が混じっていたらしい。改めて傷をつけぬように、丁重に捕獲するよう指示を出している。
「とりあえず、全員、森の外へ……街まで連れて行くぞ」
目を閉じたままの人たちを連れて、海軍が去っていく。
人々の気配が全くなくなるまで、三人は大木の上でじっとしていた。
声をひそめて、ハヤテがナギに尋ねる。
「で、さっきの隠れ里って何?」
「伝説だな…」
ナギの言葉を、シンが続けた。
「神隠しとも呼ばれているが、何の前触れもなく忽然と消える村人たちで作られた里が魔森にあると言われている。もしも、ここがあの魔森だとしたら、『眠りの水晶』と呼ばれる秘宝があるな……」
「へぇ。ラッキーじゃん。せっかくだから、その宝持っていこーぜ」
シンが、意地の悪い表情で、ハヤテを見た。
「持って行くなら、ハヤテ一人で探して持って来い。伝説によれば、その秘宝を見たら最後、眠り続けるそうだ。あんなヤツラを見なければ、信じなかった伝説だが……」
「は? それって秘宝なわけ?」
ハヤテの言葉に、ナギが、ふっと笑みを浮かべる。
「秘宝がなんでもかんでも高く売れるわけじゃねえ。それに、眠りの水晶なら誰でも作…」
その時、視線を薄暗い森の向こうへ投げかけたシンが舌打ちした。
「どうやら、その隠れ里がすぐそこにあったようだな…」
いくつかの灯かりと煙が木々の向こうに見える。
人の気配もする。
「……いくか」
珍しく、ナギが真っ先に木を下りた。


その隠れ里には、二種類の人間がいるようだった。
目を開けて、普通に生活している者。
目を閉じて、言われるままに動いている者。
物陰で気配を潜めて様子を伺ってる三人の中で、真っ先にハヤテが怪訝そうな表情になった。
「寝てねぇ奴らもいるじゃん」
「……なるほどな。そういうことか…ナギは知っていたんだな?」
シンは逆に納得した様子で、ナギを見る。
ナギが黙って頷いた。
「? わけわかんねーんだけど」
会話の意味が全く理解できていないハヤテを見て、シンがため息をつく。
「ったく。サルはこれだから……起きてる奴らが首から下げている物をよく見ろ」
シンの言葉にムッとしながらも、ハヤテが改めて人々へ目を向ける。
目を開けて会話を交わし、笑い合う人々は皆、首に角柱形の無色透明のアクセサリーをつけている。
「…あれって、水晶?」
「おそらく『秘宝』の正体は、比較的簡単に手に入るただの水晶だろう。 フン、くだらん手妻だ……気にいらねぇな」
シンが冷笑する。
「あの水晶がなんだよ? わけわかんねーしっ」
日常茶飯事になっているシンとハヤテの言い争いが始まる気配を察して、ナギがハヤテに説明した。
「あの水晶を首から下げている奴らは、催眠術で連れてきた人々を、あいつらの都合のいいように操っている」
「操られている奴等は、従順な奴隷だな。さっき俺らを囲んだ奴等は、おおかた、この里に近づく者を排除するように言われていたんだろう。年寄りや女子供を配置するあたり、いかにも卑怯な奴らの考えそうなことだ」
ナギの言葉に捕捉するシンの言葉は、冷ややかで物騒な気配を孕んでいる。
「シン…やめとけ」
率先して騒ぎを起こしそうなシンの様子に、ナギが釘を刺した。
「でもナギ兄、ソレがマジなら、こいつら、ひでぇ奴らじゃん?」
口げんかの多いシンとハヤテは、時々、妙なところで気が合う。
「あの水晶を取り上げるか砕いてしまえば、催眠術は解けるかもしれないな」
シンが銃を片手に、冷ややかに告げた。
「へぇ。試しにやってみよーぜ」
ハヤテが応えるや否や、剣を片手に駆け出して行く。
「……」
ナギが、責めを問う視線で、シンを睨んだ。
「……無用な戦いか? フン…」
視線を逸らしたシンが、銃を構えて走り、ハヤテを追う。
突然、剣と銃を持った海賊に襲われた人々が、悲鳴を上げ、逃げ惑い、夜の森が一気に騒がしくなる。
ハヤテもシンも、狙いは水晶で、人々を傷つけてはいないのだが、そんなことは襲われている人々には判らない。
ため息をついたナギが、しぶしぶ武器を手に立ち上がった。


「だから馬鹿だというんだ。まったく……」
悪態をつきながら、シンは身をかがめて横薙ぎの切っ先を避けた。
左右上下と様々な方向から立て続けに繰り出される二筋の剣も、全て身を捩り、避ける。
シンを攻撃しているのは、ハヤテの剣だった。
結局、ハヤテはあっという間に、里の人々の催眠にかかってしまったのである。
もともと仲間の見慣れた剣筋なので、避けることはできる。
が、本来、素早い動きのハヤテの攻撃には、遠慮がない。
避けることに意識を向けていると、シンには銃に弾を込めるだけの余裕が取れず、ハヤテを操っている水晶を砕くこともできない。
「ちっ…」
舌打ちしたシンが、上から振り下ろされたハヤテの剣を、金属装飾されている銃床部分で受け弾いた。
「自業自得だな…」
ナギがシンに呟いて二人の間に割って入る。
鉄の鎖が、ハヤテの腕を絡め取り、動きを封じた。
「……悪かったな」
そのちょっとした合間で、シンは銃に弾を込め、ハヤテを操っている水晶を撃った。
水晶の持ち主が悲鳴をあげる。
「は? ナギ兄っっ、なんだよ、コレっ」
鎖が巻きついて身動きとれない自分に、ハヤテが驚いた声で抗議した。
「…戻ったか」
何処か安心したようにシンが呟く。
「……行くぞ」
ナギは、機嫌の悪そうな声で二人に告げると、ハヤテの腕に鎖を巻き付けたまま、里から離れ森へ走りだした。
当然、ハヤテも付き従う形になる。
驚いたようにナギの背中を見たシンだったが、そのまま里の人々を銃で牽制しつつ、ナギとハヤテの後を追った。


ナギは、隠れ里の人々の生き方を知っていた。
今ここで、全ての水晶を砕いたところで、彼等の生き方は変わらない。
催眠の核とするものは、水晶でなくとも、それこそ、木切れでも小石でも、何でもいいのである。
彼等は、労働力として街の人々の力を借りて、同じ場所で、または場所を変えて、同じ生き方を繰り返して行く。
彼等が伝統的に扱う技や暗示にかかりやすい人々が、一時期、または繰り返し、犠牲となることに変わりはない。
その気になれば彼等は、島や街を乗っ取ることも可能なのだ。
けれど、決してそれはしない。基本的に、隠れて生きようとする。
ある意味、賊と呼ばれる自分たちより平和的な人々なのである。
自分達に危害が及ばぬ限り、利害が発生しない限り、彼等の生き方に手だしをしないのが山賊の中では暗黙の了解だった。
ナギが知り、心得ていることは、ハヤテもシンも知らない。
そして、それを細かく説明する言葉も、ナギは持ち合わせていなかった。
「なんで、俺達が逃げなきゃなんねーんだよ、ナギ兄っ」
ハヤテが不満そうに声を尖らせる。
「……あれじゃ、何も解決しない」
ナギとしては、精一杯、わかりやすい言葉を選んだつもりだったが、ハヤテには全く伝わらない。
「全部壊しちまえば、ソッコー解決じゃん?」
「…別の奴らが、あいつらに使われるようになる」
だが、シンにはそれだけで十分に伝わった。確認するようにナギに尋ねる。
「それがヤツラの伝統か?」
「ああ」
「気にいらねぇヤツラだが、俺らには、皆殺しにする義理もねぇな…」
さらりと真の解決法を口にするシンに、ナギが苦笑する。
「何だよ、わかるように、説明しろよ」
「世の中には、ハヤテみたいに簡単に催眠にひっかかる単純バカが多くて、水晶なんかいくつ壊しても意味がねえって事だな。それを、今、まさにてめぇが、身を持って証明してきただろうが」
「なっ…」
シンに食ってかかろうとするハヤテを、ナギが制止する。
「やめとけ。それよりシン、船長達が合流に選びそうな場所は?」
肩をすくめたシンが、航海士の顔になった。しばらく何かを思い出すように考え込む。
「そうだな……港より西の海域は浅瀬が多く海流も複雑で座礁の危険がある。…港の東にせり出すような岬が三か所あったな。海軍の目をごまかしてここに戻るには、二つ目…いや、三つ目の岬のさらに東側をドクターなら選択するな」
「港の東だな?」
ナギが空を仰いだ。
とうに日は暮れ、空に星が瞬きだしている。
シンも星の位置から東の方角を見据え、喉の奥で笑う。
「いい勘だな、ナギ」
海軍に逢ってから自分達がひたすら東方面に進んできていたことは、明らかだった。


「おかえり」
朝日の中でにっこりと笑うソウシから、シンは舵を引き継いだ。
「シンさんっ」
見るからに安心した様子のヒロインが、厨房から駆けてくる。
ナギの代わりに朝食の準備を始めていたらしい。
「あれ? ハヤテさんとナギさんは…」
ヒロインがきょろきょろと甲板を見渡し、更に、先ほどシンが乗り移ったフォアマストから陸地の方へと視線を巡らせる。
「これから迎えに行く。大物を仕留めたからな」
船に戻る道すがら、空腹を訴えるハヤテが猪を見つけ、シンが仕留めて、ナギが調理している。
流石に大きな獲物を持ったまま船に飛び移るには無理があったので、シンが岬の影になっている入江まで船を移動することにしたのだ。
入江に着く頃には、香草を詰め込んだ猪の丸焼きが出来上がっているだろう。
「よかった、みんな無事だったんですね」
ヒロインが笑顔でシンを見上げた。



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18歳以上の大人です