逢引
水と食料補給に停泊した島は、新婚旅行の人気スポットなのだという。
街から少し離れた高台や山の中腹には、お城のような宿がたくさんあった。
街にはカップルが溢れている。
リュウガ船長が評するには
「ろくな酒場も繁華街も無い、みやげもの屋ばかりの、つまらん街」
なのだそうだ。
「俺は行かねーよ」
リュウガが言えば、
「俺も、この街はちょっと…」
珍しくハヤテも船に残った。
「おまえらで買出しいってこい」
結局、船を下りたのは、
食糧補給のナギ、
薬品補給のソウシ、
荷物持ちのトワ、
そして、初めての街を見てみたいヒロインと
ヒロインを一人にしたくないシン、
だった。
なるほど、町には仲の良さそうなカップルがたくさんいる。
というか、カップルではない人を探すのが、難しいくらいだ。
そんな中では、この5人は微妙に浮いている気がしないでもない。
「ヒロインちゃんは、シンと二人でいろいろ見てくるといいよ」
にっこりと微笑んだソウシは、ナギとトワを伴って、市場のあるという方角の喧騒の中へ紛れて行った。
「……え、とー」
三人を見送ったヒロインが、腕を組んで立っているシンを上目づかいに見る。
「なんだ?」
周りのカップルのように、手をつないだり腕を組んだりしたい。
とは思うのだが、シンになんて言えばいいのか分からない。
下手に何か言えば、まだ何も見ていないのに、船に戻るとか言われてしまいそうだ。
「いえ。何も…、あ、あのお店見に行っていいですか?」
とりあえず、ピンク色の薔薇にふちどられた看板の店をのぞいてみようと思った。
何屋なのか判らないが、看板からは、おしゃれな感じがする。
シンが眉をひそめた。
「…おまえ、あの店が何か分かっているのか?」
「占いかなぁ? おしゃれな看板ですよねー」
みるからに仲の良さそうな、腕を組んだカップルが、出入りしている。
「好きにしろ」
店内に入ったものの、ヒロインは売っている品物がいまいちよく判らない。
化粧品のようなものもあるが、女性の下着のようなものもあり、なんだかわからないものも沢山売っている。
「ねぇ、これ、使おうよ」
買いものをしているカップルは、声をひそめて、睦言のように語り合っている。
「シンさん、このお店って…」
意地悪な笑みを浮かべたシンが、ヒロインに言う。
「せっかくこの店に入ったんだ。おまえを縛る縄や、手錠、目隠しあたりを買うか?」
「え?」
「他にも、おまえを恥ずかしくしてくれる道具がたくさんあるぞ」
ヒロインは慌てて、逃げるように店を出た。
「面白そうな道具がたくさんあったんだけどな」
シンが、にやにやと笑いながら、ヒロインの後について店を出る。
「もうっ。シンさんっ。ああいうお店だって知っていたら、教えてくださいよっ」
ヒロインは、恥ずかしくて、なんだか泣けてきて、涙が止まらない。
「……そう泣くな」
困ったようにため息をついたシンだったが、
「…ちょっとこっちへ来い」
何か思いついたらしいシンは、ヒロインの腕をひいて、別の通りへ向かった。
いくつかの角を曲がったその通りでは、甘い香りが漂っていた。
アイスクリーム、チョコレート、生クリームたっぷりのさまざまなスイーツを売る店が並んでいる。
シンには、目的の店があるらしく、店名の看板を確認しながら通りを進む。
「ここだ」
飲食スペースになっている店内は、席の半分がカップルで埋まっていた。
「LFYを一つ」
何かを注文して、シンはヒロインと向かい合って座る。
「ここは…?」
ヒロインも席についてしばらくすると、
「お待たせいたしました。『LOVE for you』です」
特大のワイングラスのような器に、スイーツをうず高く豪華に盛り付けたパフェが一つ運ばれてきた。
「すごーいっ」
今までみたこともない豪華なパフェに、ヒロインが驚く。
「ほら、食うぞ」
シンが、二つついてきたスプーンの一つを、ヒロインに渡した。
見渡せば、周囲にいるどのカップルも、一つの料理を二人でつつき合って食べている。
つまり、この店はカップルのための店なのだろうと、理解した。
「シンさん、このお店知ってたみたいですけど、以前来たことあるんですか?」
何気なく自分で聞いておきながら、ヒロインは、その時シンと一緒に食べた人は、どんな人だったのだろうと、ちょっと心配になる。
「……お前、本当にバカだな」
「え?」
「この店のカップル限定メニューLFYは、それこそ帝国でも有名なんだよ。海賊になる前から俺は知ってたぞ」
「そう…なんですか?」
「そもそも、以前来たことがあったら、この俺が、いちいち看板を探すはずがないだろう」
言われてみれば、その通りだと思う。
「おい、あとで、もっと食いたかったと言っても聞かないからな」
甘いものが好きなシンは、会話してたはずなのに、随分食べすすんでいた。
「あぁっ、そのバナナ、私も食べますっ」
「…ふん。…じゃあ、こっちのイチゴは俺がもらう」
「えぇ、それも欲しいですっ」
「だめだ。早い者勝ちだな」
「わかりました。じゃあ、こっちのイチゴチョコで我慢します」
二人で分け合って食べるパフェは、とても楽しくて、美味しくて、幸せだった。
たまたま、通りを歩いていたナギが、有名店内でパフェをつつき合う二人を見つけた。
思わず立ち止まって、自分には向けない笑顔を浮かべるヒロインを「楽しそうだな」と眺める。
立ち止まったナギに気づいたトワが、駆け寄ってきた。
「どうしたんですか、ナギさん……。…え? あのシンさんが…あんな顔するんですねぇ…」
以外そうなトワの呟きに、ナギは改めてヒロインの視線の先に居るシンを見た。
確かに、シンも随分と楽しそうだ。
「……いくぞ」
二人に背を向けて、ナギが歩き出す。
返事をしてナギの後を追うトワ。
ヒロインとのパフェ具材争奪戦の中、シンがちらりと窓の外へ視線を流したが、二人の姿は見えなくなった後だった。
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