味見
ナギが料理に付け合わせのソースを作り終え、調理中に小指と薬指についたソースを拭き取ろうとした時だった。
「あっ、いいな。それ、味見させてくださいよ」
干し肉をスライスしていたヒロインが、にこにこと言った。
「ん? これか?」
ナギが何気なく伸ばした薬指を、ヒロインは気軽にぱくんと咥えて、指先を舐めとる。
「えへ。小指についたのも、もらっていいですか?」
「…ほら」
ヒロインのかわいい舌が、ナギの小指を舐めていく。
「やっぱり、ナギさんの作るソースは、特別おいしいですねっ」
「…当たり前だ」
シンと両想いになってからも、ヒロインのナギに対する態度は変わらない。
ヒロインはシリウスの仲間を家族のようだ、と言っていたが、たしかに自分は兄のように扱われているような気分になる。
二人だけで調理をしていると、先ほどのような指先で味見などは、よくあることなのだが。
今、ナギの中でざわつくものがあったのは、いつもの人差し指や親指ではなくて、小指だったから…などと自分に言い訳してみる。
そんなものではないことは、ナギが十分自覚していた。
「ヒロインちゃんは、いつもそうやってナギの料理を味見しているのかい?」
いつの間にか来ていたソウシに、見られたようだ。
「だって、ナギさんの、おいしいので」
ヒロインは、ソウシに対しても、兄のようになついているような気がする。
「そう…」
ソウシの視線にナギを咎める色が含まれたことを察しつつ、ナギが口を開いた。
「ドクター、何か取りにきたのか?」
「ああ、炭酸水素ナトリウムと塩化ナトリウムを分けて欲しいんだ」
ソウシの言葉に、ヒロインは目を丸くする。
「ナギさん、そんな専門的そうな名前の薬品まで調理場で取りそろえているんですか?」
「…あるよ」
ナギは比較的取り出しやすい棚に置かれていた重層を小箱ごとソウシに渡し、小袋に塩を詰めて渡した。
唖然としているヒロインを、やたら愛おしそうに見下ろしたソウシが、
「ヒロインちゃん、医食同源って言葉知ってる? 調味料やスパイスの別名を持っている薬品は、意外とたくさんあるんだよ」
意味もなくヒロインの頭を撫でながら言い聞かせる。
「ええっ、そうだったんですか。ぜんぜん知りませんでした」
にこにこと応じるヒロイン。
「今度、いろいろ味見させてあげるね」
「あっ、はい。ぜひ、お願いしますね。今度、味見させてもらいに行きます」
まさか、指に薬品をつけてヒロインに舐めさせるとかするわけじゃないだろうな、とナギは内心呟きつつ料理を皿に盛り付ける。
「とりあえず、はい、塩化ナトリウムの味見」
ナギの目の前で、薬指に塩を乗せてヒロインに差し出すソウシ。
…そうだ、ドクターはそういう奴だった、とナギは見て見ぬふりを決める。
「しょっぱーい。塩ですー」
「あははははっ」
笑いながら、ヒロインの舐め残しをさりげなく自分で舐めとるソウシに、ナギの手が止まる。
…絶対に、わざとだ。
ヒロインは何も気づいていないが、あれはソウシの天然ではありえない。
「それじゃね、ヒロインちゃん」
ナギはため息をついた。
もしかしたら、ヒロインはハヤテやトワ、船長に対しても同じ態度なのではなかろうか。
この際、自分のことは棚にあげつつ
「シンも大変だな…」と呟いた。
Triangle againへ戻る
18歳以上の大人です