聖石
財宝の情報を得るために数泊した港を出て、最初の昼食の時だった。
「おい、ヒロイン、手ぇ出せ」
「船長? 手、ですか?」
素直に手を出すと、リュウガがヒロインの掌の上に白い宝石を置いた。
「?」
ウズラのタマゴ大の白い宝石は、中央に青い煌めきが閉じ込められている。
「やるよ」
「え?」
ヒロインはきょとんとした顔で、掌の石とリュウガを見比べる。
「気にすんな。まあ……日頃の褒美ってとこだな」
「ヒロインばっかり、いーなー。俺たちには?」
出したハヤテの手を叩いて、あっはっはっはっ、と笑うリュウガには、特に深い意味も無さそうだ。
「ヒロインちゃん、ちょっと見せてくれる?」
ソウシが宝石を手に取る。
「ああ、ブルームーンストーンだね。王侯貴族の女性がよく、お守りとして持つ石だよ」
「お守り、ですか?」
シンもヒロインの横に来て、腕組みしたまま、ソウシの持つ宝石を見て言った。
「確かに、ムーンストーンは、愛を育て、平和な結婚をもたらす聖なる石、と信じられているな……」
ハヤテが笑う。
「愛と結婚て、何、それ。シンが言うとシャレになんねーな」
カチャリ…と、シンが懐から銃を取り出した。
「わー、嘘、嘘っ。そんな、怒るなよっ」
慌てて、ハヤテが逃げ出す。
ソウシはヒロインの掌に宝石を戻して、優しくほほ笑む。
「確かに、これはヒロインちゃんが持っているのが一番良さそうだね」
「でも…」
ヒロインがちらりと、シンを見上げる。
「船長のことだから、港の女にでも渡されたんだろ。くれると言ってるんだから、もらっとけ」
シンがハヤテを睨みながら、不機嫌そうに言った。
「はい…」
ヒロインが、掌に乗せた宝石をとても嬉しそうに眺めるのを、その場の皆が、それぞれの想いで見守った。
その日の夕方。
ヒロインはメインマストのシュラウドに寄りかかり、リュウガからもらったムーンストーンを眺めていた。
「ここに居たのかい」
ファジーが、ようやく見つけたとでも言いたげにやってくる。
「…これ、あんたにやるよ」
ビロードで作られた小袋をヒロインに差し出した。
「これは…」
「ほら、あんた、リュウガ船長から守り石もらってたろ? 守り石ってのは、身につけておくのがいいからね。しかも、随分と上等なムーンストーンだろ? この中に入れて、首から下げておくといいと思ってね」
「…もしかして、ファジーさん、作ってくださったんですか?」
小袋は、宝石がちょうどピッタリ入りそうな大きさになっている。
「ちょっと、布が余っていたんだよ。ついでだよ、ついで。それに、あんたは、大切な妹分だからね」
照れたように答えるファジーに、ヒロインは嬉しそうな笑顔を返す。
「ありがとうございます」
ファジーは、小袋を渡すと、そそくさと船室へ戻って行った。
受け取ったヒロインは、小袋と宝石をしばらく交互に見つめていたが、やがて、二つを握りしめて、船室へ向かった。
そして、ヒロインのそんな様子を、航海室からシンは複雑な表情で眺めていた。
夕食間近の時間。
ヒロインの胸元には、ビロードの小さな袋が揺れていた。
「なんだ、ソレ?」
準備中、真っ先に気づいたナギが尋ねる。
「お守りです」
にこにこと笑うヒロイン。
「ああ…船長が、やるとか言ってた石か?」
「ええ、まあ…」
言葉は濁しても、嬉しそうに、どこかウキウキしている様子は、おそらくムーンストーンが入っているのだろうと推測できる。
……でも、コレはマズくないか?
ナギは、思ったものの、外せ、とまでは言い出せない。
よりによって、ヒロインが絶対の信頼を寄せているシンが『愛と結婚のお守り』だ、などと解説したのだから。
……まあ、あいつ自身が、もらっとけと許可してたモノだから、問題ないか。
結局、ナギの心配が杞憂であったかのように、夕食時は、ヒロインが首から下げている小袋が話題になることなく、平和に過ぎた。
もっとも、話題にならなかったのは、シンの微妙な空気を察したソウシが、ハヤテとトワの注意を始終ヒロインからそらしていた結果であるようにも見えたが…。
それについては、気付かなかったことにしておくのが、ナギにとっては、最も平和なことだった。
Triangle againへ戻る
18歳以上の大人です