買物



北の港に到着し、長旅の買い出しをすることになった時だった。
 当然のようにヒロインを連れて行こうとするシンを、ファジーが引き留めた。
「この街は、安全だってわかってるだろ?」
「突然、なんだ?」
「あんた、これから南の島まで、買い物できるような港は無いっていってたよね?」
「それがどうかしたか?」 
「なら、ヒロインをアタイに預けなよ。あんたがヒロインの必要なものをちゃんと買いそろえるとは、到底思えないんだけどね」
「…必要なもの?…」
「なんだい? あんたがこの街の女用品を売るアノ通りへヒロインを連れて行くってなら、アタイも文句はないさ」
「……」
「男のあんたが、アノ通りへ行くはずがないよね。それとも、行くかい?」
 ファジーの脅しのような申し出に、シンはしぶしぶ、ヒロインとの別行動を承諾した。
「ファジーさん…あの…」
「あんたは、大事な妹分だからね。この街は、男人禁制の通りと、女人禁制の通りってのがあるんだよ」
 この北の国は、男女別々に育てられる風習があるのだという。
 男女どちらも自由に行き来できる通りも当然あるが、女性の下着や生理用品などは、特別な通りに行かないと買えないのだと、ファジーは説明した。
「そうだったんですか。ありがとうございます」
「まあ、今度はちょっと長旅になるらしいから、買いだめしといた方がいいだろ? それに、この街には、あんたに見せてやりたい店が何件かあるのさ」
 ファジーは、ちょっといたずらっぽく笑った。

「うわぁっ、かわいいー」
 雑貨屋の前で、ヒロインが目を輝かせた。
「あんた、こういうの好きだろ? でも、あのシンと一緒じゃあ、店にも入れないんじゃないのかい?」
「そうですね…。あ、でも、たまに、『早く好きなもの選べ』とか言って、買ってくれますよ」
「へぇー。あのシンがねぇ…」
 ファジーは意外そうに呟いて、雑貨屋に入る。
「この店は、どれも一点物なんだ。価値のある物を置いてる、いい店だよ」
 並んだ商品は、レース模様や花模様が多く、どれも小さめで華奢な印象の雑貨が多かった。
 ふと、白い模様の入った煙草のようなものが目に留まる。
「なんだろ? これ…」
 手に取ってみるが、煙草ではない。
「いらっしゃいませ。それは、笛ですよ、お客様」
 金髪の上品な店主が、にこやかに答えた。
 店主が、隣に置いてあった、小石の上に鳥が羽ばたいている置物を手に取ると、突起をそっと吹く。
「ピルルッ ピルルルッ」
 小鳥の鳴き声がした。
「そちらも、どうぞ、吹いてみてくださいませ」
 促されるままに、ヒロインは吹いてみる。
「キュイーン、キュキュキュー」
 切なく、不思議な音がした。
「へぇ。不思議な笛だねぇ」
 ファジーが、面白そうに雪だるまのような形の突起がついていた笛を手に取る。
「グキュルルル、ぐきゅるー」
 空腹のような音がして、二人で大笑いした。
「せっかくだからさ、アタイが何か買ってやるよ。買い物が実用品ばかりじゃ、つまんないだろ?」
「でも…」
「いいって。何か、気に入ったもの見つけなよ」
 それから二人でいろいろと見た挙句、結局、最初に手に取った笛を購入して店を出た。
「ファジーさん、ありがとうございます」
「何いってるの、まだまだ、次の店行くよっ」
 ファジーが次にヒロインを連れて行ったのは、下着店。
 ここでも二人は、会話と笑いの絶えない買い物を楽しんだ。
 次は、化粧品店。
 休憩に、喫茶店。
 最後に、薬局。
 こうして、ファジーとヒロインの楽しい買い物は、夕方遅くまで続いたのだった。
ファジーとヒロインが笑顔で宿泊予定の宿に戻ると、ロビーの椅子に座ってコーヒーを飲んでいるシンがいた。
「あっ! シンさんっ! ただいま戻りました」
 嬉しそうに駆け寄るヒロイン。
「…楽しかったみたいだな」
「はい。いろんなお店に連れて行ってもらいました。最初は、雑貨屋さんで、金髪のすごく美人な店主さんがいて…」
 聞かれる前に、まるで行動報告のように話し始めるヒロインを、ファジーは苦笑交じりに眺める。
「ちょいと、ヒロイン。話は後でもできるだろ? 部屋で買った荷物をまとめたら、船に置きに行くんだから」
「あっ、はい。すいません、ファジーさん」
 二人が部屋で船に積み込む荷物をまとめていると、トワが手伝いに来た。
「もう、外は真っ暗ですから、僕が船に置いて来ますよ」
 そして、クスクスと、笑う。
「たぶんシンさん、昼過ぎから、ずっとロビーでコーヒー持って、ヒロインさん戻るの待ってたんですよ」
「え?」
「あのシンが? まさか」
「僕もずっと見ていたわけではないので、たぶん、ですけど…。ナギさんの手伝いで、何度も通る時、見かけました。……ああ、僕が言ったなんて内緒にしておいてくだ さいね」
 ファジーがしばらく唖然として、それから大笑いした。
「あんたが、アタイの予想以上に大事にされているみたいで、安心したよ」
「そ、そんな…」
「へぇ…そうだったのかいー。なるほどねぇー」
 その日、ファジーのちょっと不気味なニマニマ顔は、夕食後まで続いたのだった。


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