十四日月


 満月前夜、月は張り詰めた光を放つ。満ちる直前の心地よい緊張。僕も、自然に気分が引き締まって行く。
「明日は、良い月になりそうだ」
 庭の中央に立って、雨上がりの夜空を見上げた。空の半分を覆っている雲は、明日には去っているだろう。
「やっぱ、雨上がりはいいよな。おっ、夜見、今日はなかなかカッコイイぞ」
 真樹の言葉を聞いていると、どうも現代の言葉は、表現に乏しいと思える。昔は、もっと別の言い方があったような気がするのだ。
「……。雰囲気を壊さないで欲しいな」
 真樹は肩をすくめて、僕の隣に立つ。
「夜見は、放っといたらどうなるか、判らねーから。声かけてこっちへ呼び戻しておくんだよ」
「呼び戻す?」
「そ。夜見の場合、いつ月に吸い込まれても不思議じゃないだろ?」
 僕は内心、少々驚いた。それは、遥か昔、まだ月を読み始めて間もないころ、とても身近にいた大切な人に言われたことだ。以来、誰にも言われなかった言葉でもある。
「………。そういえば、輪廻転生なんて言葉があったな……仏教の教えだったか…」
「え? 何?」
「いや、なんでもない」
 遥か昔の景色を思い出して、僕は目を閉じた。

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