十三日月


 十三夜は縁起が良く、この日に月を拝むと必ず成功すると言われているが、保障はできない。
 いずれにしろ、今夜の月影は清澄な空気を作り出している。空に雲が多く、たまたま月の姿が見えなくなるのが残念なくらいだ。
「井戸水汲んできたぞ」
 ペットボトルに入れてきた水を、真樹は境内の片隅に置かれた石盥の中へ入れた。神水の一種、月水を作るためだ。
 一説に、月光を集めた水は若返りの霊薬とも言う。月光を水中に封じこめるため、水そのものが月の力を宿す。
「なぁ、いつも思うんだけどさ、もっと大量に作って置いた方が、楽なんじゃねえの?」
 月水は、今夜のような月の時にしか作れない。
「真樹、月水は、そう大量に作れない。それに、効力はもってせいぜい一カ月だ。これでも、昔と比べたら、量としては、かなり多い方なのだが」
 雲の大きな切れ間に、月が現れた。
水面に映った月をすくい上げ、月霜に染まった桂樹に振りかける。
枝先から滴る雫を剣で受け止め、弓状に凪ぎ祓う。
飛び散る水滴が月光を閉じ込めたように輝きを放つ。
空中に舞う水滴の中から、より多くの光を吸収したものだけを、竹筒に集め取る。
これは既に、人間業ではない。
「何度見ても、水飛ばして遊んでいるようにしか、見えねーよなぁ……」
 そんな真樹の呟きが聞こえてきたが、僕は何も答えなかった。実際、僕はかなりこの行為を楽しんでいるのだから。
 月が再び雲間に隠れるころ、月水は竹筒の半分ほど溜まっていた。

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