十九日月


 寝待月とも臥待月ともいう。月が出るのを寝て待つからだとか、月明かりを頼りに、恋人が訪れるのを臥して待つからだとかいう。
実際のところ寝そべって待つことに違いはない。
「あー眠い…眠い眠い眠い眠い眠い眠いっっ」
 きのう僕と同調したせいで寝不足の真樹は、どうやら機嫌が悪いようだ。供え物の置き方も、かなり乱雑だ。
「夜見っ、どこだっっ、起きているんだろっ」
 笠木から真樹の様子を見ていた僕は、仕方なく地面へ降りた。ふと足元に、背の低い蚊帳吊草を見つける。
「そんなとこで、雑草いじってるんじゃねえよっ」
 屈み込んだ横から、不機嫌極まりない声がした。さすがに、僕も少々気分を害する。
「……真樹、愚痴ならいくらでも聞いてやるから、人の行動にケチをつけるのはやめて欲しいな」
「……………。わかったよっっ」
 ふてくされて石段に腰を下ろした真樹の隣に、僕は座った。真樹は憮然とした表情のまま、黙り込んでいる。
「何かあったのか?」
「別にっ! 夜見は、黙って神酒でも飲んでろっ」
 八つ当たり、だ。僕が寝ている間に何があったのかは知らないが、真樹に付き合って、僕まで不機嫌になることもない。黙って月を見上げながら、神酒を手にした。
 杯を傾けようとした肩に、真樹が触れる。規則正しい呼吸の音。
「そういうことか……」
 よほど眠かったのだろう。ほんの数秒で眠りに落ちた真樹の寝顔は、かなり幸せそうに見える。
「まだまだ、お子様だな……」
 僕は笑いを圧し殺して、杯を傾けた。

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