鶸色



「シンさん、シンさん、ウグイスがいっぱいですっ」
「ウグイス?」
怪訝そうにヒロインが指差した方角を見て、シンの表情が呆れたものになる。
「あの何処が、ウグイスだ」
『マヒワだな…』
右舷に見える明るい色の小鳥の群れ。
我の呟きは、人には聞こえない。
我はこの船の精霊、シリウス。
ヒロインが、不思議そうにシンに言った。
「え? だって、黄緑色の小鳥って、ウグイスですよね?」
「ウグイスが群れで渡りをするわけがないだろう。よく見ろ、ウグイスどころかスズメよりも体が小さい上に、明るい黄緑だろうが」
「…うーん。そうですか???」
ヒロインには、あのマヒワの群れが、ウグイスに見えるらしい。
『そもそも、鳴き声が全く違うが……』
キュルキュルキュルと、群れで鳴き交わす声は、まだ人の耳には届かないようだ。
「あんなに小さいのに、こんなに広い海を飛んでいくなんて、すごいですね」
「…あれは、夏はアルプス地方で過ごし、冬はアフリカ地方で過ごす群れだろう。ヤマトにもあの鳥はいるはずだが…」
ふと、シンが言葉を切った。
ヒロインが目を輝かせる。
「うわぁ。水笛で遊んでいるみたいな鳴き声だ。ホントです。ウグイスじゃないんですね」
どうやら、人間の耳にもあの小鳥たちの声が届いたらしい。
「あれはマヒワだ。意外と大きな群れだな」
シンが上空を見上げた。
おそらく300羽以上はいるだろう群れが、我の上で旋回を始める。
空に鶸色の大きな輪が形作られつつある。
「ちっ…」
舌打ちしたシンが、銃を取りだした。
「シンさんっ!? やめてください」
ヒロインが慌ててシンを止めようとした時には、既に空へ銃声が鳴り響いている。
群れの形が一斉に崩れた。
『悪いな。群れが大きすぎる。羽休めの場は提供できない』
我も苦笑して小鳥たちに詫びる。
シンの銃は、一羽も傷つけてはいない。威嚇しただけだ。
不服そうなヒロインを、シンが冷たく見下ろした。
「お前が、航行に支障が出ないようにあの鳥たちの糞まみれになった全てのセイルや索具を洗濯して、甲板も磨き上げるか?」
十数羽の群れなら、シンも黙認しただろう。
けれど、あれは群れが大きすぎる。
我の全ての帆桁が、あの小鳥に占拠されてしまうかもしれない。
としたら、甲板には…。
「あ、でも、ウグイスの糞って、高級な化粧品に…」
ふと思いついたらしいヒロインの言葉は、シンの一瞥に封じられた。
銃声を聞いた海賊たちが、様子を見に甲板にやってくる。
「こりゃまた、大群だな」
リュウガも、群れの数に驚いたようだ。
我は、マヒワ達に詫びつつ、海を渡った。


Triangle againへ戻る


   木賊色へ