海藍色
タン、タン、タン、とリズミカルな音が、我の側面に響いていた。
ふとその音が止まり、トワが汗をぬぐう。
我は、海賊たちの船、シリウス。
今、トワがほぞを組んで修理しているのは、昨夜、リカーの砲撃にやられた傷。
『悪いね、シリウス。僕の船長くんの悪あがきが命中したみたいだね』
全く悪びれているそぶりもなく去って行ったリカーをふと思い出す。
砲撃が直撃するのは久々だった。
「おーい、トワ、次のいくぞー」
「あ、はいっ」
船縁から、ハヤテがロープに結んだ木材をトワのところへ吊り下げる。
受け取ったトワは、ハンマーで木材を打ちつける仮補修を再開した。
タン、タン、タン、タン
乾いた音が、南の光る波を漂い響く。
穏やかな海は、ネプチューングリーンとも呼ばれる海藍色。
水中にも響いただろう音に、好奇心旺盛な生き物が二頭、近づいてきた。
「あ、こんにちは、イルカさんっ」
足元から顔をのぞかせた生き物に、トワが笑顔で応じる。
もう一頭が、催促するように、我の碇をつついたり、周りを周回する。
『今はまだ、動くのは無理だ』
我はイルカの誘いに苦笑した。
トワにも、イルカたちの誘いが理解できたらしい。
「うん、もう少し待っていてね、あともう一枚、打ちつけたら終わるから」
トワの叩くハンマーの音が、早くなる。
その音に、イルカたちが戯れるように水面近くを泳ぎ回り、キュイーと声を発した。
「…なんだよ?」
甲板にいたハヤテが、身を乗り出して海を覗き込む。
一頭のイルカが、身を乗り出したハヤテに向かって水面からジャンプして飛び上がった。
「うわっ」
身を乗り出した途端に海から出て顔を近づけてきたイルカに、ハヤテが身を引く。
その一部始終を見ていたリュウガが、声をあげて笑った。
「おいおい、せっかくイルカがキスしてくれようとしてんのに、逃げんのか?」
「はぁ? イルカにキスされても、ぜんっぜん、うれしくねーしっ」
「そうでもねぇぞ。イルカは昔から、海神の使いだからな」
笑いながら、リュウガが船縁から身を乗り出した。
「そこのイルカ共、ちょっと遊ぶか? ん?」
『この男が、遊びたいらしいぞ』
我の言葉は人には届かない。でも、届く生き物もいる。
イルカたちが、リュウガを見上げた。
タイミング良く、リュウガが帽子を空中へ投げると、イルカたちが、帽子めがけて水面から空へ駆け上がる。
海面からイルカが出ると同時に、リュウガも船縁を蹴った。
手を伸ばしてイルカより先に帽子を取り、イルカの背を足場にして跳躍し、船縁へ戻る。
「俺の勝ちだな。もう一回やるか?」
イルカが悔しそうに再戦を挑んでいる。
「よしっ、もう一回だ」
再び、リュウガの帽子が宙に舞う。
『お互いに、さっきより早いな…』
水飛沫が、キラキラと輝いている。
我は、人とイルカの勝負をのんびりと眺めた。
Triangle againへ戻る
鶸色へ