嵐青色
体の軋みに、我は眉をひそめた。
船頭と船尾に、相対する力が加わり、全身が波にねじられているような感覚。
我はシリウス。
今、この嵐の中を航行している海賊船の精霊。
船体が波に高く持ち上げられそうになると、航海士は巧みに我を波間に滑らせ、船体が海面に叩きつけられる危険を避けていく。
嵐の複雑な海流を読むことにかけては、随一と言われている航海士のシン。
そのシンの操舵をもってしても、キリキリと船体が割かれるような軋みが時折避けられないのは、嵐の激しさゆえだろう。
我の船内では、舵をとるシンを案じて甲板に行こうとしたヒロインを、ナギが引き止めていた。
「足手まといだ」
「でも、私にもきっと何かお手伝いできます」
『そこにいることが、一番の手伝いかもしれないぞ…』
我の声は、人には聞こえない。
「……そんなにシンが信用できねぇか?」
「え?」
ヒロインにとっては、予想外の言葉だったのだろう。
なぜそのようなことを言われるのだろうかと、不思議そうにナギを見上げている。
「今、俺たちの命は、シンに預けている。舵を任せるってのは、そういうことだ」
ナギの言葉に、ヒロインは肯く。
「必要なら、シンは、例えお前だろうと、積荷を減らせだの、バラストを調節しろだの、言ってくるはずだろう?」
「それはそうですけど…」
「そのシンが、俺らに言って来ねぇってことは、まだ手伝いは必要ねぇってことだろうが。シンの判断を、信用しねぇのか?」
「でも、もしかしたらシンさん、そういうこと思っていても、甲板に一人でいたら、伝わらないじゃないですか」
『いや…伝わる』
我は知っている。
我に乗る海賊たちの、不思議なつながり。
彼らはまるで我の言葉が聞こえたかのように、離れた仲間の声が聞こえるかのように、動くことがある。
「大丈夫だ」
笑みさえ浮かべて、ナギは答えた。
「伊達に仲間をやってるわけじゃねぇ。必要な時は、判る」
その通りなのだが、ヒロインに対しては、なんとも説明不足だ。
「……はい」
断言したナギの言葉に、何かを感じ取ったらしいヒロインは、それでも渋々と、部屋に戻った。
部屋の小さな窓から見えるのは、ストームブルーと呼ばれる嵐の色。
海と空との区別すらつかぬ世界。
「シンさん……」
我は、心配そうに外の様子を気にかけるヒロインの呟きを、そっと手ですくい上げた。
言葉は届かずとも、彼女の思いの欠片を舵場まで運ぶことは容易い。
雷鳴が先程より遠くなっていく。
シンの舵加減で、激しい波の絶妙な間を、我は滑り抜けて進んだ。
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