石竹色
「あ、この花、ヤマトにありました」
船長であるリュウガが珍しく持ち込んだ鉢植えを見たヒロインが、目を輝かせた。
「たまにゃ、花もいいだろうと思ってな」
「港で逢った女の人にもらったんですよね?」
確かに、海賊王として行動するリュウガが、わざわざこんな野草のような可憐な花の鉢植えを買うようには見えない。
といっても、剣士としての彼の気質であれば、このような野草を愛でる部分もあったと思う。
ヒロインの言葉は、そのまま我の推測と重なる。
港で女に渡され、そのまま捨て置くにも気が引けた花なのだろう。
我はシリウス。この船の精霊にして、人々の多くの秘密を知る存在。
「まあ、食堂あたりに飾って、ヒロインが面倒見てやってくれ」
『ほう…ヒロインにあげるというわけでもないのだな』
リュウガの言葉に、特に疑問もない様子で頷いたヒロインは、鉢植えを手に食堂へ向かう。
夕食時、食堂に置かれた小さな明るい石竹色の花が、海賊たちの話題にされることはなかった。
夜半、ソウシがふらりと船長室を訪れた。
「ん? なんだ?」
「どっちの意味でもらったのかな、と思って」
「ああ、あの花か? 両方だろ」
「なんだ、知っていたんだ?」
ソウシが期待はずれだと言いたげに目を細め、笑みを浮かべた。
「複雑な女心そのまんま、だろ?」
「複雑なのは、女性だけではないけどね」
くすくすと笑いながら、リュウガとソウシが酒を酌み交わし始める。
『あの花には、意味があるのか?』
我の疑問に、彼らは答えてくれない。我は、人には見えず、聞こえず、触れられない。
その夜の我の疑問は、翌朝、ヒロインが教えてくれた。
「ナギさん、船長って、花言葉とか知っていると思います?」
「さあな…昨日のその花か?」
朝食の用意を手伝っていたヒロインがふと、手を止めテーブルの上で咲き誇る花に視線を移す。
「はい。全然意味の違う2つの花言葉があるんですよ、あの花。一つは【いつも愛して】もう一つは【あなたが嫌いです】なんです」
「……それって、意味違うのか?」
「え?」
呟いたナギの声は、ヒロインに届かなかったらしい。
「いや、なんでもねぇ。……たぶん、船長は知ってる」
確信めいた言葉を告げて、ナギもテーブルの花に目をやった。
『なるほど、花言葉か…』
いつも愛してと相手に願うということは、相手はいつもは愛してくれていないということでもあるのだろう。そして、そんな相手は、嫌いだという。
『ああ……確かに、複雑な人の心そのままだな』
海賊たちの恋模様と信頼と思惑と。
さまざまなものを内包して、我は朝日に輝く波間を進んだ。
Triangle againへ戻る
虹色へ