社日
海が朱く染まっている。
ほぼ真西に沈んでゆく太陽が、空も海も朱く染めあげて金色に輝いて海へ沈んでいく。
『長閑な波だな…』
風も波も凪いでいる夕焼けの世界に、ぽつんと浮かんでいる我。
我は、海賊船の精霊シリウス。
船縁に片手をかけて、沈みゆく太陽を見送っていたヒロインに、ソウシが近寄った。
「…綺麗だね」
にっこりと微笑むソウシの言葉は、夕焼けとヒロイン、どちらに向けたものか。
「はい。すごく、綺麗で目が離せません」
ヒロインの視線は、海に身を沈め始めた太陽を見ているが…。
「そうだね」
頷いて同意したソウシの瞳には、夕焼けの景色に目を奪われている女性の姿だけが映っている。
「………」
黙って海の向こうへ消えていく太陽を見送るヒロイン。
ソウシもまた、何も言わずに一人分のわずかな距離を開けた隣に立って穏やかな表情をしていた。
やがて、金色の光が完全に天空線から消える。
朱く輝いていた空が、急速に赤から紅へと、暗さを増していく。
茜色と金色の光を揺らめかせていた海も、暗い闇を湛えていく。
「春宵一刻値千金…だね」
くすっと肩をすくめたソウシが呟いた。
「え? しゅんしょういっこく?」
きょとんとしたヒロインが、ソウシを振り返った。
「大陸の国の詩人の言葉だよ? 春の宵に女の子と揺れながら過ごす時間は、わずかな時でもとても価値がある、という意味なんだ」
「? 揺れて過ごす?」
「そう。女の子と、宴を抜け出してブランコ遊びをしている詩人の言葉だからね」
「なんか、いいですね。ロマンチックです」
「フフ。そうだね」
ソウシが笑みを浮かべて、薄暗がりの広がる中でヒロインを見つめる。
「おい、ヒロイン」
船長室から出てきたシンが、目ざとく並んでいる二人を見つけて声をかけた。
「あ、シンさん。今、夕焼けがとっても綺麗だったんですよっ」
途端に、嬉しそうな笑顔になったヒロインが、パタパタとシンの許へ駆け寄る。
『相変わらず、シンはタイミングがいいというか、勘が働くというか…』
我は、早々に、何をしていたと尋ねるシンに笑顔で夕焼けの美しさを語るヒロインと、一人船縁に残されたソウシを見比べた。
闇と星が空に広がり、静かに立っているソウシの姿。
精霊である我には見えるが、シンの位置からでは、表情を見ることはできないだろう。
ソウシは、無言のため息をついて、二人に背を向け暗い海を眺める。
我は、夜になって気温が変わっていく海を、わずかな風に後押しされて進み始めた。
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