小雪



ちらちらと、舞うように大きな雪が降っている。
我の海賊達も、皆、防寒着になってそれぞれの作業をしていた。
海賊王が率いる海賊達の乗る船、それが我の身体。我は船の精霊、シリウス。
「シンさん、シンさん、見てくださいっ。これ、すっごく綺麗ですよ?」
毛糸の手袋の先に雪の結晶をのせたヒロインが、砂時計を手に速度を計測していたシンに駆け寄って話しかけた。
「………」
当然、シンは答えずに視線も砂時計を見ている。計測中なのだから、当然なのだが。
「シンさんっ。早く見ないと、消えちゃいますっ…」
「………」
砂時計の砂は、残り数秒。
シンが見たくても今は見れない状況なのは、我は理解しているのだが、どうもヒロインは理解できていないらしい。
計測を終えたシンが、視線をヒロインに移動した。
「なんだ?」
「……もう消えちゃいましたっ。シンさんのばかっ」
「おい…」
不満気な表情でシンを見上げたヒロインが、くるりと向きをかえ、甲板を走ってシンから去る。
雪で濡れた甲板は滑りやすい。
案の定、滑って転びかけたところを、近くにいたソウシが腕を掴んで支えた。
その始終を見たシンが、ため息をついて測定のために海へ流したロープを巻き取り始める。
「危なかったね、気を付けてね、ヒロインちゃん」
シンの視線を感知したであろうソウシもまた、ため息をついてヒロインから手を離した。
「あ、す、すいません」
謝るヒロインを見下ろしたソウシが、くすっと笑う。
きょとんとしたヒロインに、ソウシが告げる。
「あ、ごめんね。前髪の雪が小さな花の飾りみたいだな、と思ってね。髪に小さな花を散らしたヒロインちゃん、とっても可愛いよ」
「…あっ!」
ソウシの言葉に、何か思い当ったらしいヒロインが、再びくるりと向きを変えて船室へ駆けていく。
その動きを、肩越しにチラリと確認するシン。
再び、くすくすと笑ったソウシが、ロープを編み込む作業に戻る。
『今度は何を思いついたんだ?』
我は、部屋へ駆け戻ってペンとスケッチブックを手にしたヒロインに意識を向けた。
「えーっと…こんなふうになっていて……」
ヒロインが描き始めたのは、先ほど、彼女がシンに見せようとしていた雪の結晶の形。
一つでも咲いた花のような結晶が、降り落ちる偶然で五枚、輪のように連なり、大輪の花のように組み合わさった華晶。
シンの反応を待つ間に、消えてしまった姿。
『あぁ、本当に、シンに見せたかったんだな』
「できたー」
完成した頃には、ヒロインが船室へ姿を消してから、シンが訝しがる程度の時間が過ぎている。
シンが甲板を歩き、船室へ向かっている。
ヒロインは、描きあげた絵を今見せに行こうか、後にしようか、迷っているようだ。
『さて、どんな反応になるのだろうな…』
我に降り落ちる雪の結晶は、どれも複雑に絡み合い、まるで海賊達のようだ。
部屋の前に立ったシンがノックの前に中の様子を伺い、静かにため息をつく。
悩んでいるヒロインは物音をさせていない。
気配はあっても、物音がしない様子を、シンはどう理解したのだろうか。
我はどこか楽しみな心もちで、二人の様子を見守った。


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