霜降
真面目な海賊、というのも変な言葉だと思う。
海賊にまじめも何もあったものではないだろう。
けれど、確かに我が体内で生活している海賊達のうち、最も真面目な海賊は、舵主だった。
そう、ある意味、海賊王よりも真面目に海賊であろうとする海賊なのである。
我は海賊船の精霊、シリウス。
朝の冷え込みは、海賊達の息を白く染めている。
「さっびー」
白い息を吐きながら甲板掃除をするハヤテに、ヒロインが言った。
「本当に、今朝は寒いですね。なんだか、たき火が恋しい…」
「たき火?」
トワが不思議そうにヒロインの言葉を繰り返す。
「あ、うん。秋になると、よく、広場や神社の落ち葉をみんなで集めて、燃やすの。それで、おいもとかを焼いてみんなで食べるんだけど、黒焦げだったり、真ん中がまだ生だったり…たき火でおいしい焼き芋をつくるのって、結構難しくって…」
「へえ…面白そうじゃん、やろうぜ、たき火」
焼き芋を食べるという話に、気が向いたのだろう、乗り気のハヤテの言葉。
『おいおい…』
我の身体は木製。火は大敵。
「馬鹿かお前は」
シンが、作業で手にしていたセイルのはめ輪を指先で弾いてハヤテに飛ばす。
はめ輪は、狙い通りにハヤテの顔があった場所を通過した。
「あっ…ぶねーな」
かろうじて避けたハヤテが、シンを睨む。
「何だよっ。シンには焼き芋食わせてやんねーからなっ」
「それ以前の問題だ。貴様、どこでたき火をする気だ?」
「甲板でやりゃーいーじゃねーかっ」
「………」
売り言葉に買い言葉的に答えたハヤテに向かって、シンが立て続けにはめ輪を弾き飛ばす。
「うわっ……ぃってぇーなっ!」
銃の名手が立て続けに弾き飛ばす金属の輪は、ハヤテの動きを予測したように五割の確率で命中した。
「フン、馬鹿に使う弾などないからな。その前に、ハヤテは海賊失格だろう。山賊あたりがお似合いだな」
「なっ…」
シンにさらに食ってかかろうとするハヤテをトワとヒロインが引き留める。
「ハ、ハヤテさん。無理ですよ。たき火って、火を燃やすんですよ?」
「そうですよ、船が燃えちゃいますっ」
『焼き芋のために燃やされるのは、我も困るな…』
我の声は人間に届かないが、二人の言葉に、あっ、そうか、とハヤテが納得した。
「じゃあさ、どっかの島に寄った時に、やろうぜ。たき火で焼き芋っ」
「焼き芋のために上陸してたき火をする海賊? 馬鹿馬鹿しい」
冷やかなシンの声。
確かに、そういうことをする海賊は、滅多にいないだろう…。
例外がいるとすれば…。
「たき火で焼き芋? 面白そうだな。おい、シン。落ち葉がたくさんありそうな無人島はねえか?」
数時間後。
リュウガの言葉にシンは大きなため息をつく。
「…ありますが……。本当にやるんですか?」
「おうっ。紅葉狩りもできて、一石二鳥だろう?」
「海賊が紅葉狩り…ね」
あきらめたような呟きと共に、航海室へ戻り、海図を広げるシン。
『そこで、とことん反対しないあたりも、真面目な航海士というかなんというか…』
我は、デバイダーで距離の確認をするシンを眺め、そっと笑った。
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