大暑
こんな天気を油照り、と呼ぶらしい。
立ち寄った無人島。
どんよりと曇った空と無風。
湿度が高く、蒸し暑い。
海賊達は、浜辺で海水浴と称して水浴びをして楽しんでいる。
陸へ向かう海賊達の様子を、我が眺め見ることは少ない。
浜辺にテントを張って、涼んでいる彼らを眺めているのは、とても新鮮だ。
何よりも、無風では、我自身、動きようがない。
我は、シリウス海賊団と名乗る海賊達の船の精霊、シリウス。
「なんでシンは泳がねーんだ?」
水着姿のハヤテが、相変わらずいつものコートを着たままのシンに、怪訝そうな目を向ける。
煩そうな視線でハヤテを一瞥したシンが、何も答えずに立ち上がり、島の奥へ分け入っていく。
「シンさん、どこへ行くんですか?」
シンが泳がないからと、水着にも着替えていなかったヒロインが、当たり前のように追いかけて島の奥へ走って行った。
「ちぇーっ」
つまらなそうなハヤテに、ソウシが言う。
「ハヤテ…別に強制じゃないんだから…」
「でもよー、ヒロイン、泳ぎたそうだったじゃん。シンが水着になって泳げば、ヒロインも泳げるってことだろ? シンだって水着くらいあるだろ?」
「そうだろうけど、…いろいろ事情があるかもしれないからね」
ソウシが、くすっと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「事情って?」
「あのね、ハヤテ。あまり詮索すると、ヒロインちゃんに嫌われちゃうよ?」
フフフ、と笑いながらそう告げるソウシには、いくつか思い当る事情がありそうだ。
『そうだな……昨夜の痕か…』
船内の出来事を全て把握している我にも、シンがあえて彼らの前で自分は泳がない、と告げた理由は思い当たる。
そもそも、リュウガが無人島で海水浴をすると言いだす直前、シンは蒸し暑さに閉口して、水のシャワーを浴びようとしていたのだから。
最近、泳げるようになったナギは、我の近くで独り、黙々と練習していたが、浜辺での出来事にも随分と注意を向けている。
我の船体の一部に捕まり、二人が消えていった島の方角をしばらく眺めていたが、やがて浜辺へ向かった。
「あれ? ナギ兄、泳ぐのやめんの?」
浜にあがって着替え始めたナギに、ハヤテが不思議そうに尋ねる。
「そろそろ、夕飯の準備をしないとな…食材調達に行ってくる」
曇っているものの、まだまだ日は高い。
といっても、人数と、浜辺でキャンプをすることを考えると、食材調達はそろそろ始めた方がいいのだろう。
着替え終えたナギは、シン達が分け入っていった方角とは逆の方向へ消えていく。
「おい、シン達とナギはどうした?」
トワと沖まで遠泳していたリュウガが、戻ってきて姿のない海賊達のことをソウシに聞く。
「シンはたぶん…島の反対側…かな。ヒロインちゃん、随分泳ぎたそうだったからね。ナギは、食材調達。島の林の中だと思うよ」
「なるほどな。じゃあ、ちょっと、島一周泳いでくるか…」
「リュウガ?」
ソウシが、嗜めるように眉を吊り上げる。
「冗談だ、冗談」
「あ、そろそろ僕、火をおこしますね」
トワも陸へあがって着替え始める。
「ったく…なんでこう、あいつらは仕事熱心かねぇ…」
リュウガが苦笑して、残った面子を見回した。
確かに、残った面子の性格は…。
我は、海賊達の様子を眺めながら、風のない海の上で波に揺られていた。
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