夏至
リュウガが、船長室にソウシを呼んだ。
「何か誕生日で欲しいもんあるか?」
単刀直入なリュウガの問いに、ソウシがくすくす笑いだす。
「大事な用事というから、何かと思えば…。今年は、内緒で準備とかしないんだ?」
「他の奴のことは知らねぇが、な。本人に聞くのが、一番手っ取り早いだろ」
我に乗っている海賊達の中で、一番付き合いの長いソウシとリュウガ。
我は海賊王リュウガの船。精霊、シリウス。
「そうだなぁ…ヒロインちゃんを1日借りちゃうとか?」
「それは自分でシンに提案するんだな」
リュウガが腕を組んで嗤う。といっても、目が笑っていないが。
「やだなあ、言ってみただけの、冗談だよ」
冗談の割には…雰囲気が真面目だった気がするのは、我だけではないようだ。
「実験台にしろ、別の理由にしろ、人間はダメだ。モノにしろ、モノに」
リュウガの笑いが、明らかな苦笑になる。
「つまらないなぁ…。私の誕生日には、誰も体調を崩さず、怪我もしないってのはどう?」
「モノだっつってんだろうが…」
今度はため息。
海賊王を苦笑させ、ため息をつかせる船医は、あはは、と明るく笑ってみせる。
「うん。でも、欲しいモノは、だいたい自分で買いそろえているからね…必然的に、買えないモノになっちゃうんだよね」
『ソウシを心から喜ばせるのは、確かに最大級の難題だな』
数日後に訪れるソウシの誕生日。
リュウガが独り、一番手強い問題だと呟いていたのを我は聞いている。
大きな喪失と慟哭を抱えているソウシが、仲間が増えるにつれ、自然な笑顔を見せるようになっていったことは我も知っている。
けれど、その自然に見える笑顔すら、時に感情を隠してごまかす仮面の一つになっていることを、リュウガも気付いている。
楽しい、嬉しい、よかったね、そんな言葉を口にして安易に明るい笑顔を見せ、微笑する船医。
確かにそう感じているのだろうが、どこかその感情から切り離されている部分があるように見えるのもまた、事実なのだ。
ソウシの言動に、ナギやシンが言葉を噤み、ハヤテやトワが困惑したような顔をする瞬間は、大抵、彼らが目にする表情と感じ取るものの差に、真意を図りかねている時だ。
そんな時、必ずリュウガは苦笑している。
「買えないモノでもいいが、手に入るモノや、やれるモノにしといてくれ」
リュウガの言葉に、ソウシがうーん、と考え込む。
「…困ったなぁ。買えなくて、手に入るモノ? でも、長年探していた命の草は、ヒロインちゃんの言ったとおり、氷の島で見つけちゃったし…まさかあの草がそうだなんてね…」
雪崩に巻き込まれて意識を無くしたシンを救うためにヒロインが命の草の話をしたとき、独りだけ複雑な表情になったソウシ。
海賊達が持ち帰った命の草を、黙り込んで淡々と煎じ薬にしていたソウシ。
「……本当に、ないんだよ。みんなが元気でいてくれれば、いいかな…」
「相変わらず欲がねぇな……」
「あはは…。ごめんね」
ソウシが去っていった船長室で、リュウガが独り、椅子に座って天井を仰ぐ。
「あいつほど欲している奴はいねーんだけどな…まだまだ、俺も信用ねぇな…」
同じころ、医務室に戻った船医は俯いて呟く。
「買えないモノか…ありすぎて、決められないよね……」
『……そうやってお前たちは、我に語るのだな…』
唯一、それぞれの思いを知る我は、夕刻間近になってもまだ明るい太陽を目指すように、大海原の波を割って航行を続けた。
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