清明
珍しく、他の海賊から襲撃を受けた我。
「こいつらさえ沈めれば、俺らが海の支配者だ」
という怒号と共に大砲で責めてきた、東の海で最近暴れだしたという海賊団。
「ヴァンの奴の怠慢だな…まあ、ふりかかる火の粉は自分で払うか…」
苦笑したリュウガが、シンに、大砲を避けながら我を近づけるよう指示する。
「無茶言いますね…」
口元に笑みを浮かべて応じたシンが、大砲の照準と着弾の予想をしつつ我を操った。
我は、海賊王リュウガの船に宿る精霊、シリウス。
「ちょっと灸を据えに行ってくるわ。頃合い見て、頼んだぞ」
抜き身の剣を片手に、リュウガが跳躍して相手の船に飛び移った。
まだ、精霊が宿っていない新しい船。
けれど、人々の血をやたらと浴びている船。
乗り手たちに大切にされていない船。
『こんな形では、精霊も育たないか…憐れだな…』
あの船の海賊達は、船に愛着が無いらしい。
距離を近づけた途端に、船体を我にぶつけるような航路を選択してくる。
「ナギっ」
シンが追突を避けるように舵を切りながら、大砲の準備を整えていたナギを呼ぶ。
頷いたナギが、目を凝らしてリュウガの位置を確認し、我の動きと、相手の船の動きを計算しつつ、大砲の角度を調整して砲撃を加えた。
我から放たれた砲撃が、リュウガの飛び移った船の船首を砕く。
我が万一被弾した場合なら、トワやソウシがすぐに応急処置に走り、シンは巧みにそれ以後の被弾を避ける。
が、
あの船では、被弾を避けようとする操舵主も、処置しようとする甲板員も、居ないようだ。
「船なら、あいつらのを奪っちまえばいい。さっさと殺っちまえ」
そんな怒号が、我にも届いた。
「やらねーよ」
リュウガの静かな怒りを含んだ呟きが、我に聞こえる。
「傷つけることもさせねぇが、な」
呟く声は、人間の耳には届かない距離。
リュウガが想いを寄せる船の精霊であるからこそ、届く声。
「奪うだと? 見くびられたものだな」
相手の怒号だけは、我に乗る海賊達にも聞こえたようだ。
「ドクター、ジブをお願いします」
シンの言葉に、ソウシが頷いて、バウスプリットとフォアマストに広げる三角帆のガスケットを解いた。
我は、新たな風を受けて船体の向きを変える。
海賊達の我に対する想いは、精霊である我の力にもなる。
「トワっ、ハヤテっ、フォアマストだけでいいから、できるだけ風を受け続けるようにしろっ」
向きを変えるごとに、追い風は向かい風に代わり、我は速力を失う。
風の力を前方に集めるシンの意図を察したナギは我の後方へ移動して、間近の海へ砲撃する。
やがて、我は、新たな風をとらえて速力を回復した。
「そんな馬鹿な…」
いつのまにか、怒号は驚きと畏れの声に変わっている。
リュウガの乗り込んだ船の背後に回り込んだ我。
追い風を捕えた我は、速度をあげて、追いつき、並ぶ。
「いいタイミングじゃねーか」
笑みを浮かべたリュウガが、おそらくはあの海賊の船長とおぼしき男の襟首を掴んで、我に飛び乗り戻る。
「ヴァンへの手土産だな」
「乗せてやるのも癪に障りますね」
シンが苦情を言うと、リュウガは笑って頷いた。
「おう。縛って、吊るしとけ。どうせ、ヴァンもその辺りまで来てるだろ」
東の海を統べるヴァンの船。
愛されているあの船には、とても強い精霊が宿っている。。
我は、メインマストの見張り台より上、登頂に立つ。
見張り台からはまだ見えないが、確かにこちらに向かってきている、強い精霊の気配。
『一時の方向だ』
人には届かない我の声。
「俺の勘では、一時の方向だな」
リュウガの言葉に頷いたシンが、我を一時の方向に向ける。
『砲撃戦までして、無傷とは…たいしたものだね、シリウス』
ほどなくして出会ったヴァンの船の精霊は、我を見て微笑んだ。
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