月船
月がカヌーのように空を渡ってゆく。
今日はシンがこの船に乗った記念日だといって、海賊達は宴をしている。
我は海賊達が宴を開いている船の精霊、シリウス。
肝心のシンは、一昨日、ソウシの確信犯的な企みで苦い記憶を呼び起されたせいか、不機嫌な空気を纏っている。
「船長、こんなの見つけちゃったんだけど、使ってみる?」
ソウシが薬瓶に入ったカラフルなラムネ菓子のようなものをリュウガに渡した。
ナギが、チラリとみて、厨房に去る。
『ナギは痛い目にあっているからな…』
リュウガがにやりと笑う。
「面白れぇ。おい、お前ら、余興の始まりだ」
シンが溜息をついた。
「それ飲ませる気ですか?」
「おう。今回は、シン、お前が色を選べ。ソウシも俺も飲むぞ」
リュウガの言葉に、シンの目つきが変わる。
「俺は見物させてもらいますよ?」
「いいだろう」
薬瓶をそのままシンに渡すリュウガを見て、ソウシが苦笑する。
我は、リュウガが、ずっと不機嫌だったシンを気遣っていたことを知っている。
『今のシンの機嫌を直すには、確かに効果的だな』
以前、ソウシが創った薬。色別に異なる効果はあるが、どれも持続力は短い。
何より、この薬をことを、ハヤテ、トワ、ヒロインは知らない。
シンが各自に手渡したラムネをみて、リュウガとソウシはあからさまに眉をひそめた。
「おい、……俺らがコレか?」
「ご不満ですか? たかが余興ですよね?」
「ま、仕方ないね。日頃の仕返しってことかな…」
ソウシの創った楽しい味のラムネだと聞いている若手一同。
『ほーう。ハヤテが黄で、トワが緑で、ヒロインは…黒にしたのか』
ソウシは赤。リュウガは青。
わずかな緊張のあと、一同がラムネを口に含んだ。
様相を変えた甲板。
料理を持ってきたナギは、その場に立ち尽くした。
周りに泣いて謝り続けるリュウガ。
妖しい目つきでリュウガとハヤテを誘う様に撫でているソウシ。
やたらと脅えて縮こまっているハヤテ。
いいかげんにしろと、怒号をとばしているトワ。
「使ったのか…」
皿を持つナギの腕に、シンが薬瓶を置いた。
「好きにしろ。俺はこいつと部屋に戻る」
「あ、ナギぃ、あとよろしくねぇ。フフフ…。ねぇ、早くぅ。シンを苛めたいの…」
ナギが表情まで固まる。
『まさか、ヒロインがこうなるとはな。日頃、シンの影響をかなり受けてる証拠か』
薬は30分もすれば効果が切れる。
混乱している海賊達を乗せて、我は海を渡った。
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