薄月



雲の向こうに、輝く月が透け見える。
それは、柔らかいく白い花嫁のヴェールをかけたような月。
ヒロインがヤマトの結婚式について食堂で話していた。
なぜか、シンだけでなく他の海賊達も意外と真剣に聴いている。
という我も、興味深く聴いているのだが。
我は、彼らが命を預けるこの船の精霊、シリウス。
「ヤマトの衣装では、白無垢というのがありまして、全部真っ白な着物で、角隠しという布を頭からかぶってですね…綿帽子で顔を隠して…」
「それって、ウエディングドレスと同じ感じですね」
トワの言葉に、ヒロインは頷く。
「うん。でも、白無垢じゃないといけないってわけでもないので、一番上に着るうちかけなんかは、黒色もあって…」
「黒? 花嫁が全身黒かよ?」
ハヤテが意外そうな顔で、一生懸命想像する。
「あ…外は黒でも、中は赤いものが多いですね…なので、黒色を着ても全身黒ではなくて、黒と赤って感じです」
「花嫁が黒と赤ねぇ…婀娜っぽくていいかもしれねーな」
リュウガがにんまりと笑う。
「でも、ヒロインちゃんが着るなら、やっぱり白がいいと思うよ?」
にこやかなソウシの言葉に、ヒロインは少し照れたように笑う。
「服はともかく、式の内容はどんなのなんだ?」
ナギが式の内容を問う。
「家族や親戚が見守る中で、三三九度…かな。もともとのヤマト式では、指輪とかキスとかないんですよね…」
「さんさんくど? 何するんだ?」
ハヤテが、耳慣れない言葉にきょとんとしている。
他の海賊達も、顔に『なんだそれは』と書いている中、シンだけが調査済みなのは我も解っている。
「私も、小さい頃親戚の結婚式で見たんですけど、お酒を二人で飲んでるだけだったような…」
あまりにいい加減な説明に、シンが溜息をついた。
「酒の飲み方の作法みたいなものだ」
「さほう?」
ハヤテが繰り返す。
「盃を三つ用意して、それぞれに酒を注ぎ」
シンがグラスを三つ並べて酒を注いだ。
「ハヤテ、まず一口飲め」
シンに渡された杯で、ハヤテが一口飲む。
「同じ杯でナギ、一口」
ハヤテに渡された杯で、ナギが一口んだ。
「ハヤテ、ナギの残りを飲み干せ」
シンが、二つ目のグラスをナギに渡した。
「同じことを、ナギが最初に一口飲む…ハヤテも一口だぞ…残り、ナギ飲み干せ」
三つ目のグラスをシンは再びハヤテに渡す。
「最初の一杯目を繰り返す。ほらっ」
シンに促されて、ハヤテとナギが互いに酒を飲み合った。
ハヤテが残りを飲み干したところで、シンがにやりと笑う。
「これで、三三九度終了。お前ら二人の結婚成立というわけだな」
「なっ…」
シンの言葉に、うろたえるハヤテ。ナギは無表情、無反応で、くだらないとでも言いたげだ。
「ああ、おめでとう、ハヤテ」
ソウシがにっこり笑って拍手する。
「なんだ、あんなのが、指輪とキスの変わりなのか?」
リュウガは不満そうだ。
「あ、そうかぁ。交替で九回飲んでいたんですね」
トワが、納得している。
「シンさん、なんで私より詳しいんですか?」
ヒロインは驚いている。
『随分前にシンは調べていたからな…こんなに沢山ヒロインに飲ませたら結婚式にならないと呟いていたが、なるほどな…』
我の声は、食堂にいる誰にも聞こえない。
雲の向こうに透ける月を眺めて、我は進んだ。


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