朔
新月が訪れる。
繰り返される海のリズム。
我はリカーに負わされた痛む傷を塩水に洗われながら島に向かう。
我が名はシリウス。海賊王の船に宿る精霊。
「昼過ぎには島へ着くので、船体の修理ができると思います」
シンが、修理に必要な木々がある無人島へ進路を向け、リュウガに説明していた。
『たいした傷ではないが、水が入り込むのが難点だな…』
我の声は人には聞こえない。
まだ、どの海賊も水漏れに気付いていない。
早めに応急処置をしてくれるといいが…。
「よし。島へ着いたら修理だな。トワに、修理の道具を出しておくよう言ってくるか…」
リュウガが船室へ向かう。
『風呂場だ、リュウガ…』
勘が優れたリュウガなら、聞こえずともおそらくは…。
「なんだ? やな感じだな…」
倉庫へ向かわず、リュウガが辺りを見回しながら船室の廊下を進む。
「どこだ?」
『風呂場へ』
風呂場に辿りついたリュウガは、扉を開けて中を見渡す。
「なんだ? 潮の匂い?」
濡れた壁から、わずかに浸み出す海水。
「これか…」
我の傷口にリュウガの手が触れる。
「おい、ソウシ、船内に水漏れだ。風呂場へ来いっ」
リュウガの大音声が、医務室まで届き、ソウシが弾かれたように立ち上がる。
倉庫にいたトワにもリュウガの声が届き、トワは応急処置の道具を持って風呂場へ向かう。
「よくこんな水漏れ、気付いたね。…さすが船長」
ソウシが驚く。
「たまに、船が俺に自己申告するんだよ。この船とは、最初っから気が合うからな。はっはっは」
『船長なのだから、我の声くらい通じてもらわねばな…』
海賊達の我に対する愛着が大きければ大きいほど、我は力を増す。
乗る人間たちの船に対する愛情が、精霊を芽生えさせ、育み、力を与える。
力を得た精霊は、命を与えてくれた乗組員たちを精一杯守りたくなる。
我も、海賊である彼らを守りたい。
見張り台で、ハヤテが水平線の向こうに小さな島影を見つけた。
『シン、島だ…』
まだ甲板からは見えない。
が、シンは航海室を出て操舵に向かう。
「あ、シン。あっちに島が見えるぞ」
ハヤテが笑顔で報告する。
我は、舵をきり、風の援けを得て島へ向かう速度を増した。
Triangle againへ戻る
眉月へ