眉月



空にかかる月が美人の細眉を連想されることから、眉月と呼ばれる。
細い月の輝きがかすかに海を覘いている。
我は海賊船の精霊シリウス。
医務室でヒロインとソウシが話している。
ソウシは、ヒロインに聞かれて、武闘大会目当てにヤマトを訪れた経緯を話していた。
ヒロインが笑っている。
「確かに、どちらも同じブトウタイカイですよね。…それで、ソウシさんとトワくんが女装したんですか?…うわあ…見に行けばよかったなあ……あれ?」
ふと、言葉を切ったヒロインに、ソウシが何を疑問に思ったのか尋ねた。
「シンさんと船長は、出場しなかったんですか? シンさん、きっとダンス上手だし、女装して船長となら…」
ヒロインの思いつきに、ソウシが苦笑する。
「そうだね。ビジュアルだけで入賞間違いなしかもね。でも、シンとの古い約束があってね…」
『ああ、あのときの約束か。そうだな…』
我は、まだ二十歳にならないシンの艶姿を思い出した。
ソウシも思い出したのだろう、くすくす笑いながら、ヒロインに告げる。
「まだ、船長と私とナギとシンしかいなかった時にね。シンを女装させちゃったことがあるんだけど…その時、シンは最年少だったから、本人も渋々ね…」
いつも上着をきっちり着込んでいた肌は衣装に映えるほど白く、紅を刺したかのような唇は魅惑的な…。
「うわぁ。それって、ハヤテさんより若い時なんですよね? シンさん、きっと綺麗だったろうなぁ…」
ヒロインがあれこれ想像しているのは一目瞭然。
苦笑して、話を続ける。
「シンの場合、本当に洒落にもならなくてね…。声も今よりまだほんの少し高かったからね……で、そのときに色々あって、船長が約束しちゃったんだよ」
「約束ですか?」
「そう。金輪際、どんな事情があっても、シンに女装させない、ってね。海賊王の名にかけて約束したんだよ」
『あのときの船内に満ちたリュウガの動揺…シンの怒り…まだ船長室の傷跡として刻まれているがな…』
我の声は、人に聞こえない。
「残念だなあ。ちょっと、見てみたい気がします。シンさん、美人でした?」
「そうだね。すごく可愛かったよ。私は、あのシンよりも、ヒロインちゃんの方がずっと好きだけどね」
いつも、さりげなく想いを言葉に乗せるソウシ。
だからヒロインは気付かない。気付けない。
「その時シンさんが着た服って、どんなのですか?」
『ヒロインの頭の中は、シンのことでいっぱいだな…』
それでも、ソウシの笑みは消えない。
「まだ船長室にあると思うよ…そうだ、ちょっと持って来るから、ヒロインちゃん着てみない?」
「着るかどうかは…でも、見てみたいですっ」
『あんな露出の高い服は、シンの不興を買うだろうに…』
「ちょっと待っててね」
くすくすくす…。
海賊達の巻き起こす、小さな企み事は日常茶飯事。
それが騒動を巻き起こし、日々の変化をもたらし、飽きることのない毎日が続いてゆく。
我は、また一波乱おこしそうなソウシの行動を面白く見守りつつ、小さな波山を滑り下りた。


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