三十日月
我は海賊王の船、魂の名はシリウス。
海賊王が選んだ乗組員たちは、それぞれが、癒されない大きな闇を抱えて我に乗り込んできた。
彼らを海賊にしたのは、想像を絶する絶望や喪失や憎悪。
唯一、ヒロインを除いて。
ヒロインを我に留まらせ、海賊の仲間にしたのは、恋心。
そんなヒロインは、笑顔をふりまき、明るさを灯し、海賊達の心の奥底にあった優しさを照らしだす。
傷つくことを身をもって味わった故に、優しい海賊達。
最初の一ヶ月。海賊達の誰もが、ヒロインを船に乗せ続けることを否としながらも、一緒に在り続けたいと望んでいたことを我は知っている。
「ヒロインちゃんが来てから、船の空気が良くなったよね…」
「……そうだな…」
「いつか、今を懐かしく振り返ったりするかもね?」
「年寄り臭いこと言うんじゃねーや」
船長室で、リュウガとソウシが酒を酌み交わしている。
「珍しいな。寝せてきたのか」
「たまにはな。…あいつが来て、こんなに変わるなんてな…」
「…へえ。変わった自覚はちゃんとあるのか」
「…それは、お互い様だ」
食堂で、ナギとシンが珍しく二人で酒を酌み交わしている。
「ハヤテさん、頼まれた温かい飲み物持ってきました」
「お、サンキュー」
トワが見張り台のハヤテに、差し入れをしている。
そして。
シンの部屋ではヒロインが眠っている。
海はざわめきながら、新たな新月に備えて希望を膨らませている。
我は、海賊達を乗せて静かな夜を過ごした。
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