二十八日月
月齢28の月は、早朝に空へ昇り、夕方海へ沈む。
早朝に甲板へやってきた航海士は、天測器を使って緯経度を確認し、予定航路を大きく外れた我の位置を確定する。
「思ったより、東に流されていたな…」
我の舵主シンは苦笑して、舵を固定した。
『お前がいれば、昼には戻れるさ…』
人には聞こえぬ我の声。
我はこの船の精霊、シリウス。
「おはようございます。あ、トワくん、手伝う?」
早起きしたヒロインが、甲板掃除の準備を始めたトワを手伝おうとした。
「今日はその、ハヤテさんとやりますから、いいですよ。それよりヒロインさん、シンさんかナギさんのお手伝いしたらどうですか?」
トワが辞退した理由も知らずに、ヒロインはシンのもとへ行く。
「シンさん、お手伝いしますか?」
女性特有の周期中にあるヒロインは、数日間連続して、いつもより少し早起きになる。
そのあまりにも判りやすい事実に、この船の海賊達は気づいていても、気付かぬふりをして、ヒロインの身体を気遣う。
我の上にいるのは、皆、優しい海賊達ばかり。
「速度を測る。やり方は覚えているな? この砂時計持って見てろ」
シンが縄付きの木片を海へ投げ込むと、ヒロインが持つ砂時計が流れはじめる。
「時間です」
海へ流れていった縄の結び目は3つ。
「…3ノット。昼までに戻るには、もう少し速度が欲しいな……よし。…ヒロイン、お前は、そろそろ厨房へ手伝いに行け」
シンは縄を手繰り寄せて、巻き結ぶと、自分で用具を片付けて航海室へ向かう。
ヒロインが厨房へ行く頃は、いつもの時間。
『気遣われていることを、気付かせないのか、気付けないのか…』
我の眺める、海賊達のどこか不自然で自然な言動と、いつも通りのヒロイン。
『ヒロインは何も気にしていない、というあたりだろうな…』
厨房でも、さりげない気遣いが行われている。
やがて、航路回復進路を計算した航海士が我の舵を握る。
我は航海士の技により、速度を増して進んだ。
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