二十七日月



 我の倉庫奥にあったビリヤードの台を見つけて引っ張り出したのは、暇を持て余していたハヤテだった。
 我は海賊船。
 人には見えず、触れず、声も届かぬ船の精霊、シリウス。
「確か、1人でやる時は、10個のボールにしろって、ナギ兄言ってたよな…」
 キューを手に、独りで遊び始める…いや、意外と真面目に集中している様子は、練習なのかもしれない。
「っと…床から足を離しちゃダメなんだっけ…」
 船長に頼まれて倉庫へ酒を取りにきたヒロインが、一人前にキューを構えてドローショットに成功するハヤテを目撃した。
「うわぁ、ハヤテさんもビリヤード、上手なんですね。すごいっ。今、そのボール、後ろに戻ってきましたよ」
 ヒロインの目が、キラキラと輝いている。
「ま、まーな」
 得意げなハヤテ。
『どう見ても、偶然だったがな…』
 調子に乗ったハヤテが、見ているヒロインを意識しながら、もう一度ドローショットを成功させた。
『コツを掴んだのか。勘がいいな…』
 ヒロインが称賛の言葉を残して、酒瓶を手に食堂へ戻っていく。
 当然、ヒロインは見たばかりの光景を、興奮気味に食堂で待っていたリュウガに語った。
「姿が見えないと思ったら、そんなところで遊んでるのか」
 笑ったリュウガが、立ち上がって船倉へ向かう。
 やがて、ナギとヒロインは厨房で料理を始めた。
 航路の相談をしようとしたシンが、リュウガを探している。
『船倉が面白いことになっているぞ』
 我の声が通じたのか、シンは倉庫に向かい、出会えたリュウガに引っ張り込まれる。
「よし。3人でカットボールやるぞ。1~5が俺、6~10がハヤテ、11~15がシン。いいな?」
 案の定、ハヤテはボロ負け。
 風が変わり、我は予定航路から外れたが、船長も航海士も、まだ気付かない。
『たまには、遊び優先も悪くないか…』
 遊びに夢中になる海賊達を面白く眺めながら、我は気ままな風に流されていった。


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