二十六日月



 港の東端で寄港していると、見覚えのある船が帆をたたんで入港してきた。
『レーゾン・デートル……』
 我は、海賊王リュウガが乗る船の精霊、シリウス。
『あらシリウスじゃない。うちの船長が喜ぶわ』
 そう広くはない港。
 北の海賊、船長セシルの船は、港の西端に停船したが、お互いに会話可能な距離だった。
『船長会議以来か…この港に何の用だ?』
『今回は、古銀貨を大量に見つけてね。銀相場が一番高いこの港で換金するらしいわ。あら、さっそくシリウスに気づいたみたいよ。そっち、誰も居ないの?』
 船の精霊同士が情報交換したところで、人々に伝える術はない。
『いや。航海士とコックとあの娘が戻っている……』
『それって、うちの船長のターゲットが揃っているってことよ。運がいいわね』
『それは困る。こっちへ来るのか?』
 下手に戦いになると、我の体があちこち傷むことになる。
『先に街へ行くみたい……これで、そっちが、さっさと出港してくれたら、お互い平和ね』
『だと、いいが…』
 甲板で景色を眺めていたヒロインが、街へ向かうセシルを見つけ、シンに伝えた。
 シンとナギが、万が一の襲撃に備える話をはじめる。
 喧騒の向こうから、ハヤテとトワが、戻ってくるのが見えた。
「あれ? 船長まだなのか?」
 ハヤテが驚いたようにナギに言っている。
 リュウガは、先に船に向かったらしい。まだ姿は見えないが。
 航海士のシンは、黙々と出港の準備を始める。
 シンの指示を受けて、トワが舫綱を緩める。
 何も言われていないはずのナギも、帆を広げる準備をしている。
 相変わらず、手際のいい海賊達。
『何かあったようだな…』
 ソウシが走ってくる。
「シン、北の岬っ」
航海士が頷き、仲間に出航の合図をした。  舫綱が外され、我の補助帆が広がる。
 動き始めた我に、ソウシが乗り込み、港を出る。
『あら、出港? またね、シリウス』
 全速力で北の岬に近づいた我に、崖の上からリュウガが降ってきた。
 うまくシュラウドに掴まって衝撃を抑え、甲板に降りる。
「いいタイミングだな」
 船に乗り笑うリュウガを、岬から見下ろしているセシル。
 我は、メインセイルを広げて水平線へ向かった。


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