二十五日月
「うん、ヒロインちゃんの気持ち、私は判るよ。私にも、小さい弟や妹がいたからね」
「よかった。わかってもらえます?」
医務室で、ヒロインとソウシが意気投合していた。
深夜に天を渡った船のような月は、天頂を過ぎて眉のような角度になりながら、昼の眩しい太陽の光に溶けていく。
我は港へ向かい帆走を続けていた。
我は海賊船。
この船に宿った精霊、シリウス。
「確かに、私にとって小さい妹は、兄弟の中でも、少し特別だったね…」
「でも、それって、好きとかそういうのとは、違いますよね?」
そうだね、と頷くソウシに、ヒロインは本当に嬉しそうだ。
「シンさんに、どうやって説明したらいいんでしょう?」
家族を思い出す度に、弟のことを気にかけ語るヒロイン。
ヒロインにとって、弟が家族の中で特別な存在であることは、全ての話を聞き知っている我なら容易に察することができる。
しかし、それは恋人とは次元が違うものだと、シンに説明したい、ようだ。
姉にとっての、小さな弟。
兄弟がいないシンに、理解しろというのも難しいだろう。
「私もそうだったけど…たぶん、ヒロインちゃんは、お母さんの代わりに、小さい弟の世話をよくしていたんだよね?」
「はい。着替えとか、食事とか…」
「それって、ヒロインちゃんが育ての親のようで、弟はヒロインちゃんの子供みたいな感じじゃなかった?」
「ああ、そうかっ。『我が子みたいな感じ』って言えば、シンさんも解ってくれますか?」
「そうだね。想像はつくかもしれないね」
ヒロインは、悩み事が解決したと、晴れやかな顔になる。
「そういえば、ソウシさんの妹さんて、今……」
その言葉で船医の表情は、逆に暗くなった。
「…今は、ここに弟や妹みたいな家族がたくさんいるから、いいんだよ」
ソウシの言葉から、ヒロインは何か感じ取ったようだ。そうですね、と同意して、それ以上は聞かない。
『無言の慟哭、というのだろうな…』
人には見えぬ手で、我はソウシの頭を撫でた。
昼の眩しい太陽が我を照らし、船体を温めている。
順風が航海士の予定通りに我を港へ運んだ。
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