二十三日月
午前0時を過ぎてから、剣で綺麗に半分切り取ったような月が水平線の向こうへのぼる。
この船は海賊王リュウガの船。
我は船の精霊、シリウス。
真夜中の甲板で、リュウガは舵を握っていた。
「船長!?」
きっちりと服を着こんで操舵甲板へきたシンが、驚いたようにリュウガを見る。
船内は我が体内。
つい先ほどまで、シンの部屋は愛と睦言に満ちていたことを、我は知っている。
その影響で、隣にあるハヤテの部屋は苦悩に満ちていたことや、コックが厨房で、船医が食堂で、それぞれうたた寝をしていることも、全て知っている。
「なんだ。シン、子作りの後に仕事に来たのか? 元気なヤツだな」
リュウガがひどく驚いて、苦笑した。
「……俺がやりますから、船長は寝て下さい」
舵を替わろうとしたシンに、リュウガが言う。
「まあ、たまには、俺にやらせろ。お前こそ、戻って寝な。…惚れた女なら、抱けるときに何回でも抱いとけ」
どことなくからかうような声音なのに、リュウガの瞳は優しい。
「…わかりました。早朝、交替します」
シンがリュウガに背中を向けた。
立ち去るシンを、どこか哀しく温かい表情で、リュウガは見送る。
我だけが、時折、一つの幻影をシンに重ね見るこの表情を知っている。
本気で恋に落ちて、アイツのように身を滅ぼすこともなく。
恋を実らせたシン。
「……ああなれば、良かったのにな……」
誰にともなく呟いて、リュウガは前方に浮かぶ半月を眺める。
『そしたら我は、きっとお前にも他の海賊達にも会えなかったのだろうな…』
我の声に応える人はいない。
リュウガに習い、我も夜空に浮かぶ半身を失った月を見上げた。
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