二十二日月



朝を過ぎて太陽の光に霞んだ月が、前方の水平線に沈んでいく。
  「あの水平線までの距離は、2.07√海面から観測点までのメートル、で求める。たとえば…」
 ヒロインに視達距離の求め方を説明していたシンが、計算しやすいシュチエーションを想定する。
「お前は、ボートに乗っているとする。海面から、座っているお前の目線までの高さは、約1メートル。見える水平線までの距離は、2.07√1だ。計算してみろ」
 シンにとっては、式を見ただけで答えが出るような、とても簡単な計算なのだが、ヒロインには難しい計算のようだ。
「…そんな小難しい計算をヒロインに教え込んでいるのか?」
 たまたま、航海室へ食器を取りにきたナギが、驚いてシンを見た。
「たいして難しくない。これは、目測に慣れてない奴が、距離を測る方法だからな」
 交替しながら我の見張り台に立つ海賊達は、経験から、見た目でおおよその距離を判別できる。
 我は海賊達が乗る、この船の精霊、シリウス。
「シンさん、√1って、どうやって√を取るんでしたっけ?」
 ヒロインのペースですすむ学習を見ていると、我も計算や公式をすっかり覚えてしまう。
『それは、そのまま1になったはずだぞ』
 我の言葉は、人には届かない。
「掛け算、1×1を忘れたのか?」
「…あっ、思い出しました……シンさん、小数点て、計算するとき、どこかに動かしましたっけ?」
「×1だぞ?」
「ああ、確か、そのままでしたね。答えは、2.07海里ですね?」
「よし、できたな」
 えへへ。と、嬉しそうに笑うヒロインを見るシンは当然なのだが、目撃しているナギの眼差しも温かい。
「…もうしばらくしたら、飯、作り始めるからな」
「あ、はい。わかりました、ナギさん」
 ナギが航海室を出ていく。
 シンは無表情に見送るが、不機嫌な気配が強くなる。
「じゃあ、最初の復習問題だ。2海里先の港に向って、4ノットの速さで進んでいる。港に何分で着く?」
「え? …と……」
「正解するまで、ナギの手伝いに行かせないからな」
「そ、そんな…」
「どうした? 早く計算してみろ」
『30分だな…』
 我はすぐに答えが解った が…ヒロインはノットの定義を覚えているかどうかあやしい。
 実際、ヒロインは、困り果てて悩んでいるようだ。
 不機嫌だったシンは、少し愉しそうだが。
 青空と青い海の上を、我は、まさに4ノットほどの速度で南へ向かった。


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