十九日月
朝の空に残った月は、麦の種のような形をしていた。
精霊は、眠らない。
我は船の精霊、シリウス。
朝日が昇る前の、焼けつくような光彩が見え始めるころ、目覚めたシンは操舵デッキにやってくる。
甲板に出てすぐに天候を確認し、ここで羅針盤と舵角を確認し、我の速度と潮の流れをみておおよその現在位置を把握する。
「……ほぼ、予定通りだな」
『ああ、予定航路から外れていない』
シンは微笑して舵輪を握る。
「よぉ、相変わらず今日も早ぇな」
船長室から出てきたリュウガが、欠伸をかみ殺しながらシンに声をかけた。
「船長は…これから寝るところですね?」
「まぁな。つい、ソウシと飲み明かしちまった…」
苦笑して、朝日を眺める。
船長室でウトウトしていたソウシが、ふと、リュウガがいないことに気付き、外へ出た。
「あはは…すっかり朝になっちゃったね……」
同じように朝日を眺めて、苦笑する。
船室の扉が開いて、ヒロインが甲板に現われた。
「あ、ソウシ先生、おはようございます。今日は早いですね」
「うん。ヒロインちゃんも、早いね」
ヒロインは舵に目をやり、リュウガの姿も見つける。
「あれ? 船長も? おはようございます」
「おう」
リュウガは、朝日を眺めたまま、声で応じた。
ヒロインは、シンに駆け寄って…二人が語りだす。
シンがヒロインの手に舵輪を握らせ、包み込むように後ろに立って、耳元に睦言を囁きながら微笑する。
そんな二人を、肩越しにチラリと見遣って、リュウガも微笑する。
優しく温かな想い。
ソウシがリュウガの横に立って、小さく呟いた。
「悔しいほど、いい顔してるよね…シン」
それは、温かくもあるがどこか影を持った複雑な想い。
「お前もな…」
リュウガは笑って、ソウシの肩を叩くと、欠伸をした。
「寝る。…おい、そこの二人っ! ナギに朝飯いらねーって伝えといてくれ」
「わかりました」
去っていくリュウガの後姿に、シンが答えて、続けた。
「ドクターも?」
一段高い操舵デッキからシンに見下ろされて、ソウシは苦笑しながら答える。
「いや…私は、朝食の時間まで寝ることにするよ」
朝日を浴びた帆が、風を受けて、船足を速めた。
我は、眩しい光を浴びて色褪せた月を眺めながら、潮と共に海を駆けた。
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